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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第12話 「羅劫<ラーフラ>または世界について」
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 ケーキで満足してでれんと寝そべった七人衆の前、大画面テレビでは午後のワイドショーが始まっている。

 ワイドショーでは、どの局でも「今世紀最大の天文ショー」的な見出しを打って、「ラーフラ現象」の紹介をしていた。

 だいぶ早い今世紀最大であるが、次々に最大記録は更新していくわけで、まあ驚くにはあたらない。この時点では「今世紀最大だと思っている」のだから、JAROやBPOなぞが出る幕でもない。

 ひるがえって、もし局が「今世紀五番目に大きい天文ショー」などと精密なことを言い出した場合にのみ驚くべきであろう(それは本当に見てみたい)。

 ただし今回は、どんな災害が起こってもアニメを放映し続ける、あの不動の東京キー局でさえも特集を組んでいて、ネットの片隅では「さてはこの世の終わりか」「ついにあの局がアニメを裏切った」などとかなり偏った祭りが催されている。


 ――ところで、ワイドショーというものは、決まったように同じ内容を流す。なぜ? と首を傾げたことのある人も多々いると思われる。

 それもそのはず、あれは各局の担当ではなく、曜日ごとにひとりが全局分を考えている。魚籃坂近くの雑居ビルの一室に、一週間分のありとあらゆるイベントスケジュールが集められ、曜日担当が各局の切り口を考えて送っているのである。

 スタッフはナショナルスポンサーから集められた優秀な人材であるが、時間と予算に限りはあるので、やっつけ仕事になってしまったり、ともすると自分の趣味に走ったりしてしまう。火曜日の煽りがやけにおどろおどろしいのは、担当がダメミステリーマニアであるせい。

 ちなみにこのスタッフルーム、番号を振った黒のモノリスが並んでいたりはしない。地方都市の市役所の別館のごとき、なんでもない部屋である。スタッフは四人。毎日二、三時間ものテレビ番組の内容を決め続けているにしては、だいぶ手が足りない。

 現代では情報統制も毎日こなすべきルーティンであり、しかもわかりやすい利益を生まない情報統制はコスパが悪い扱いなため、現場は理不尽にも厳しいブラック環境になってしまうという、高効率が本末転倒な結果を生む好例である。


 さて、テレビ画面では変に豪華な書き割りのスタジオ。

 やけに色っぽい美人キャスターが、解説の学者に必要以上に距離を縮めて話していて、学者は思わず笑いがこぼれそうなのを必死に引き締め、必要以上に無表情になっている。

 「さて、五日後に迫ったラーフラ現象について、東大の山田教授にカイセツしていただきましょうん」

 鼻声で振られた山田教授、御年六十四なのにまだ女性にどぎまぎする初心な彼は、額をてらてらとさせながら喉にかかった声で応える。

 「はい。このラーフラですが、実に美しい天体現象になるでしょう」

 「というとん?」

 「えー、えへん。ラーフラというのはですね、古代の天文学では日食や月食の原因と考えられていた架空の星なんですが、一説では彗星であるとも言われていました」

 「えぇー、それでぇん?」

 「それでぇん、ですね、今回NASAの発表によると、彗星ではなく宇宙線を帯びた粒子の奔流が発見されたそうです。大ざっぱに言えば、ごくごく小さい流星雨みたいなもの、と言えます」

 「んーん?」

 美人キャスターがかわいく小首を傾げる。

 山田の喉ぼとけが再び忙しく上下する。

 「そ、それがラーフラと呼ばれた現象の正体なのではないか、と言われています」

 「んん、何だか難しいですねん」

 「それが地球の大気に接触した時に、発光するんですね。要はオーロラと同じ原理です。普通は極地付近でしか見られないオーロラが、彗星の尾のように軌跡を描いて、全世界的に観測できるでしょう」

 「それは実にロマンチックですねぇん」

 美人キャスターが眼を見開いて山田に同意を求めると、山田の首が痙攣のように上下した。

 「そ、そうですねぇ。でも、地球の磁場に干渉するので、電磁障害が起こると予測されます。具体的には都市の停電やGPS、携帯電話の一時不調などですかね。関係各所は対応に追われるでしょう」

 「そういえば教授、世間ではノストラダムスの大予言とか、地球の滅亡の前兆だとか言う人もいるみたいですが?」

 「あはあ、それはちょっとどうなんでしょう。せっかくなので都市の明かりを消して、世紀の天文ショーを見物することをお勧めします。ご一緒にいかがです?」

 「ああん、どうしようかしらん~」

 美人キャスターが笑っていなしているのを、カメラの外のディレクターが眉根にきつい皺を寄せて睨んでいた。

 よりによって、視聴者の親くらいのおいさんが、必要以上に色気をふりまくキャスターに誘いをかけている。彼にとっては放送事故も同然であった。


 結果、三ヶ月後の番組改編で美人キャスター・加納涼子は降板、山田教授は二度とこの局に呼ばれないことになる。



          ☆



 テレビ画面を呆れて見ている七人衆である。

 老人なのにDT臭いおいさんが、全国放送で色ボケのおねいさんを誘っている番組であった。

 「ずいぶんと盛り上がっているみたいですね」

 「あぁ、うん……」

 メイの皮肉になんとなく肩身の狭そうなポチ。

 「ま、いいさ。乗りかかった船だ」

 ヤミが肩をすくめてから、ごろんと寝っ転がった。

 「世紀の天文ショーにしてやろうじゃないか」



          ☆



 バトン部の練習が終わって、ハクとアムとノアが帰途についている。

 明らかにハクがとぼとぼと歩いていた。

 分かれ道で、ハクが手を上げる。

 「じゃ、またね」

 「うん、また」

 ノアは屈託なく頷いたが、黙ってハクを見つめているアムを怪訝そうにのぞき込む。

 「アム? どうしたの?」

 「え? あ、うん……じゃあね、ハク」

 「うん」

 眼で頷いて坂を上っていくハクの後姿をアムが見送る。


 ひとり、坂を上がりながら、ハクの脳裏には二日前のことが浮かんでいた。

 二日前、ポチの家の仏間に、七人衆もヨリシローズも全員勢ぞろいした時のことである。



          ☆



 さすがにヨリシローズ六人と円海、幼女七人が八畳の仏間に入れば、狭いを超えて窮屈になる。しかも前面には畳の部屋には不釣り合いな巨大なモニターが置いてある。

 ポチがその前に進み出て、いきなりペコリと頭を下げた。

 「えーと、呼び出してごめんな」

 「……何を今さら言ってるんですか?」

 みなが無言なのをフォローするようにメイが受けた。

 「それもそうだな。えーと、とりあえずだな。俺、みんなに謝っときたいんだ」

 ざわり、と全員が言葉にならない声を上げる。

 「ちょっ、なんだよお前らその反応?」

 「いや、心当たりがありすぎて……どれに謝ろうというんだ?」

 ヤミが正体不明のものを見るように身構える。

 「えっちな格好させられたねー」

 マナである。

 「裸見られたっス」

 「首輪つけられたな」

 若葉と神谷。

 「封印くらったぞっ」

 「誇りを踏みにじられた」

 キリとトウマ。

 「香ばしくて残念な子扱いされたぞっ!」

 全員が燕を振り返り、それは仕方がない、というようにうなずく。

 「その……押し倒されたし……」

 「いやらしい目で見られましたね」

 アムとメイ。

 「セクハラされた……」

 「毎回裸なのは恥ずかしいかな……」

 カノンと雫である。

 「襲い掛かられたっけな」

 「ってゆーか謝ってすむと思ってるわけ?」

 アユイがニヤニヤと笑いながら言い、全員の意見をまとめるようにハクが腕を組んで首を振った。

 なにかもう「流れるように」というしかない自然さで、みなのクレームが並べられた。

 ポチはいちいち撃たれているようにびくびくんと反応している。

 「え、えぇ~? えぇ~? そこまで言う?」

 「ポチさん」

 横から進み出る円海。

 「あ、いやっ、うん、わかってる」

 「私も胸ばかり見られています」

 「そっちっ!? ええいっもういいっ! 謝る気なくなった!」

 むきーっと怒るポチである。

 「わかったわかった、らしくないことするからだ」

 ポチはヤミの言葉に盛大なため息をついてから、真面目な顔を上げた。

 「……ふん。わかったよ」

 胸に手を当てて、一同を見渡す。

 「えーとだな、ストレートに言うと、みんなの力を貸してほしいんだ」

 「いまさら?」

 ハクが素で反応する。

 「うーんと、俺もあのジジイどもの言うことなんか聞きたくないんだけど、っていうかもう手のひらで転がされてる気がするから癪なんだけど、とにかくあれだあれ」

 「だから何だってーのよ!」

 「えーと、世界の終り、的な?」

 「は?」

 口をゆがめて苦笑いしたポチに、全員が訝し気な声を上げた。

 「バンド?」

 「いや違う。あるけど違う」

 言葉面に反応したハクに、ポチが首を振る。

 「死は主観的な世界の終わりに他ならない」

 「そこまで深い話じゃなくてね」

 重く呟いたカノンに、ポチが首を振る。

 「セカイ系、キター!」

 「もうそれでいいですから黙っててください」

 右手を高く上げた燕を見ないように、ポチが首を振った。

 「結局どういう事なんだよ?」

 「俺もよくわかってねえんだよ。でもとにかく、すげえ平たく言うとだな……世界を終わらせる化け物がやって来てっから、皆でそいつをやっつけてほしいんだよな」

 キリの問いに、ポチが真面目な顔で応えた。

 全員がしーん、となる。

 ポチを見つめたまま、沈黙が続く。

 その時間に比例して、ポチがだんだん赤面していく。

 だいぶ手遅れの空気を取りなすように燕が声を上げる。

 「オッケーオッケー! どこにいるんだそれ? 学校に潜んでるのか? 世界を裏から操ってるのか? 特殊公安局とかいないのか? それともあれか、“ボク”と“キミ”の恋の行方が世界の運命を握るのか?」

 「ここにきて安直に鬱展開ですか」

 「なあ、いまんところ内面描写ゼロだけど大丈夫か?」

 メイがため息と共に呟いたのに、アユイが笑って重大な疑念を載せる。

 「鬱展開好きな奴ってたいていイタイよな。誉め言葉がないんだよ」

 ヤミがやれやれと両手を上に向けて肩をすくめる。

 ふんぬ! と燕が力説である。

 「鬱キライな奴はただのガキ。人は儚く死ぬことが理解できないお子ちゃまなんだよ!」

 七人衆がさすがに少し冷たい眼で燕を見た。

 「死を肌で感じられぬ弱卒の意見だな」

 「死ぬのは痛いし怖いから嫌なもんだぞ」

 「戦場にでも行ってみればいいんじゃないですか?」

 トウマとキリとメイの畳みかけに、一瞬でへこんだ燕が体育座りで小さくなる。

 「そこまで言わなくても……」

 ヤミが赤面したままのポチに軽く笑った。

 「今まで空気系でやってきたのに、いきなりセカイ系になっても困るよな」

 「明らかにハーレムエンド狙ってたよね」

 「どこで間違った……」

 マナとカノン。

 「だから九話で終わっときゃよかったとか言われるんだよ」(←ここ間違い)

 神谷がクールに言い捨てた。

 ポチが駄々をこねるように大声を出す。

 「あぁもうっ! 真面目に聞けよちきしょー!」

 「お前が半笑いで話し出したんだろ」

 ヤミのツッコミにわめくポチ。

 「お前真顔でセカイノオワリとか言えるっ?」

 「言えるぞっ!」

 間髪を入れず燕が嬉しそう。

 「私は、無理っスさすがに……」

 若葉が珍しくヒーロー脳じゃない脳を使って発言した。

 「ええいっ! だから説明を聞いてもらいますっ! はいっ!」

 ポチがリモコンをまさぐってスイッチを入れると、唐突にどこかの「ビーチ」、我々がビーチと聞いて思い浮かべるあっかるーい海水浴場が映った。申し訳程度の布を体に巻きつけた男女がパーティをしているような気配。仮装しているのもいる始末。

 「あれ? 所長? 中継つながってません?」

 ブルネットでグリーンアイのラテン系美女が、正直外見に似つかわしくない思慮深い声で注意を引いた。彼女(ジェーンさんである)は羅劫を最初に見つけたエンジニアであるわけだが。

 「イェアァァァ! ゥワーオゥ! ゲラッパ! ダナナナナィッ!」

 アフロのカツラをつけてティアドロップのサングラスをかけたジョン・リックマンが気づいて、カメラに向かってピース。

 「ハロー! アイラービュー! ラブアンドピース! ウェェーイ!」

 仏間は静かになる。

 モニターから漏れる楽し気なビーチの環境音が間が悪い感じ。

 「いや、なんなのさこのおっさん」

 「あれぇ?」

 ハクが首を傾げて、ポチも首を傾げた。

 チュートリアルが始まるはずなのに、パーティ中継?

 みなの疑問に応える必要を認めたのか、リックマンがサムズアップした。

 「オーウ、キュートなのに口が悪いガールだね。私はジョン・リックマン! ウェーイウェーイ! NASA司令長官さ」

 ウインク。

 「は? マジで?」

 ポチがあっけにとられて間抜けな声を上げる。

 画面の脇から、うさんくさいとんがり帽子とつけ鼻メガネをかけた高賢と蒼海が現れた。

 「じ、じいちゃん! 何してんだよ!」

 「うむ。フロリダのビーチだ」

 「なかなかたっのしいぞ~」

 ニヤニヤした高賢と、たがのはずれた蒼海である。円海が半眼になっている。

 「知るかっ! ってかあの話するっつったから繋いでんだぞ!」

 「わかっておる。あともうひとつ繋がなければならん」

 喚いたポチに冷静に返す高賢。ニヤニヤしたままである。

 「それでは、ジュネーブのレオナルドさーん」

 スイッチを切り替えたように高賢がレポーターっぽく呼びかけた。やはりというか、高賢もだいぶ壊れかけである。

 と、モニターに別のウィンドウが表示される。

 総白髪で眼鏡の学者然とした白人の老人が映っている。

 「どもどもー。ワシCERNの代表やってますレオナルド・コーラー言いますねん。皆さんよろしゅうたのんまっせぇ」

 関西人が聞いたら間違いなく怒るような、高音のインチキ関西弁で話し出した。

 それにしても、なぜ関西弁でしゃべるガイジンさんはこうもうさんくさいのであろうか。

 デカいモニターに四人の老人。

 ヤミがため息をついた。

 「話進める気ないだろこいつら」

 メイが応じる。

 「キャラいっぱい出せばいいってもんじゃないですね。しかも老人」

 高賢が首を振りながら軽く手を振る。

 「待て待て。これから説明をすると言っておろうが。だがな、その前に……」

 軽く咳ばらいをして、ぱん、と両手を打つ高賢。

 画面は切り替わり、太陽系の宇宙CGをバックにした、四人の美少女キャラが出現する。よく見ると、四人の特徴が微妙に反映されている(なんかヤだ)。

 「高賢たん、蒼海たんの、サルでもわかるラーフラ講座ぁ~」

 「アシスタントのリッキー&レオナでーす」

 仏間で全員が頭を抱えた。






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