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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第11話 「紳士等<シンシドモ>または夏のプールについて」
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 温泉旅館たちばなのロビーでは、雫とノアが少し得意そうな顔をして座っていた。

 その横で神谷が訳知り顔に頷く。

 「というわけだ」

 身を乗り出した燕がツッコんだ。

 「カット変わりで説明終わった態にしてるけど説明してないからね!?」

 勢いに押される神谷。

 「冗談だよ。なんだよカット変わりって」

 ロビーには、憑代たちが勢ぞろいし、それにノアと円海が集まっている。

 「なんなんですか、この集まり」

 もはやたちばなが憑代の集会所になっている様子に、ハクが口を尖らせている。だいぶ不満そう。

 「だからー、雫が福引で湯~とぴあの招待券を当てて、あたしも景品でもらったから、皆で行こうって話だ。しかもビアガーデン飲み放題プランがついている以上、私は行く。止めてくれるな」

 神谷の望みはアルコールである。主に黄金色の発泡性の醸造アルコール。日本のビールは基本のどごしさわやかなピルスナーばかりであるわけだが(よいものである)、ここ最近はエールやスタウトなど、クラフトビールの系譜も出てきていて(よいものである)――いや、やめておこう。恐らく止まらないのである。ビールは正義なのである。

 「私もいっぱいチケットもらっちゃったし、せっかくだからみんな誘おうと思って」

 「うん。私もいくつか貰ってな。偶然だな」

 ノアが松本たちにもらったチケットをひらひらさせる。

 燕はなんでもクリアファイルに入れる生徒会のくせで、クリアファイルごとチケットを見せた。

 ハクが首をかしげる。

 「何なんですか、湯~とぴあって」

 「これだよ」

 例の残念なチラシをぱっと出す燕。

 「温泉とプールのテーマパークぅ? はあ」

 「そうそう。温泉とプールがあって、流れるプールとかは温水プールになってて、遊べるようにして若い人向けのスポットにしたいみたい。面白そうじゃない?」

 「これどこにあるんですか?」

 雫の説明にハクが質問をする。

 「ほら、賽音川の上流のほうにつぶれたゴルフ場あったでしょ? あそこの半分くらいを再開発したんだって。駅からシャトルバスが出てるってほらこれ」

 雫がチラシを指し示す。

 アムがのぞきこんで、感心したような声を上げた。

 「へー。水着レンタル? じゃなくてこれ、水着売ってるんだ。すっごい安い」

 「私も店長からチケットもらったんスよ。せっかくだし、トウマたちも誘っていこうっス。プールで遊んで、温泉で疲れを癒すっス」

 若葉はすっかり行く気になっている。

 「ほら、こないだのからすばさんだっけ? 大変だったじゃない。お疲れ様会ってことで、みんなで遊ぼうよ」

 雫が珍しくお出かけに乗り気である。福引に当たった幸運を使いたいと見えたが、実はもうひとつあった。

 キリが鴉葉との戦いで、文字通り感情と力のすべてを完全に消耗するまで戦った姿を見ていたのだ。それは「悲愴」というほかない戦いぶりだったが、にもかかわらず、彼女は自分を気遣ってもくれていた。何もできないけれど、せめて日常がくれる癒しをキリにあげたいと思っていたのだった。

 「んあぁ、面倒くせー連中だったなあれは」

 神谷が頷く。カノンもまた、感情を鋭く絞り上げて、鎮魂のために限界まで戦っていたのを知っている。

 神谷の本業は、父親がやっている精密部品工場の開発主任である(高校のバトン部コーチでは食えるわけもない)。マザーマシンを作るのに欠かせないジョイント可動部分を作れる、実は日本有数の工場。

 ――片や毎日あんこの練りを仕上げ、片や毎日部品の重心を中央に寄せる。

 丁寧に生きるためには、毎日を丁寧に作らねばならない。それが誰かの判断に寄せるものでないことをよくわかっているふたりは、七人衆の感情の重さを実感していた。感情の激発は、丁寧に積み上げたものに比例する。

 言うなれば、七人衆はそれぞれのありように応じて、姫を送ったのだった。

 このあたり、年が近い年長組ならではのシンクロである。


 「マジですか?また大人数画面になりますよ?」

 ハクがうんざり顔。

 「気にするな。今だってもうだいぶ大人数だろ。キャラの書き分けできてないとか言われても気にしないから言ってもムダムダァ!」

 「作画さんからもだいぶ嫌がられているようですが」

 燕の開き直りに、円海が真面目に応答する。

 「大丈夫だ。私が企画している『憑代匂い付きカード』『幼女匂い付きカード』『七妖匂い付きカード』をランダムシャッフルすれば信者は」

 「え。どんな匂いですか」

 ノアが不思議そうに訊く。

 『匂い付きカード』がどんなものか、確かにちょっと興味がある。販促担当者が一度は使える禁断の手法である。

 「先輩そーゆーのやめてください。フケツですっ!」

 アムが憤然と打ち消した。

 「え? そうなの? なんで?」

 ここでも真面目に訊き返すノアに、アムはむしろ赤面した。

 「あ、えぇ、あのぅ、そのぅ……」

 「なんかずっこいと思うぞ、そーゆーの。私ばっかり汚れじゃないか?」

 燕が口を尖らせた。

 だいぶ間違った流れである。

 「あ、そーだハクちゃん」

 「なんですか?」

 雫がハクに明るい顔を向けた。

 「せっかくだからポチくんも誘いなよ」

 ハクがヤンキー顔になる。

 「は? ポチを? なんでですか。いらないでしょ」

 ハクを除く全員が?という顔になる。

 「いやお前、そこまで言うことないだろ」

 「そうだよ。ポチくんにはいつもお世話になってるじゃない」

 神谷と雫が困ったような大人笑い。

 「彼がいないと張り合いがないぞ、私も」

 「面白いじゃないっスか、ポチくん」

 燕と若葉は空気を読まない。

 口を開けたまま呆然とするハクが、思わずアム、ノア、円海に向き直る。

 「もちろん私はいいですよ。許嫁ですし」

 「うん。ポチくんも誘ったらいいんじゃない?」

 「わ、私は別に……どっちでもいいけど……」

 アムが再び微妙に赤面する。もはやアムがポチに何らかの感情を持っていることは明らかで、それを認知していないのはおそらくハクだけであろう。ハク以外は生ぬるい視線をアムに送っている。

 「……うっそ。みんな人間できすぎでしょ」

 ハクが呆然とした顔で見渡した。

 「ハクちゃんは意識しすぎっスね」

 若葉がまた、よりによってにこやかに言い切る。

 「はぁっ!? 誰が!? 誰が誰を意識してるとさっ?」

 なまっているハク。

 「うるさいなお前は。じゃあ朝川誘ってこい」

 「うえあはっ、わっ、私がっ!? ななななんでっ?」

 「面白いから」

 神谷が面倒くさげに手を振った。

 「ここは間をとって、私が」

 真顔で首を突っ込む円海である。

 「いやいやいや、そーいうことじゃなくてね?!」

 ぶんぶんと手を振るアム。

 「むふふふ~、楽しい」

 初心な女子高生らしいふわっふわな応酬ににっこにこの雫である。そのそばでノアは、少々人が悪い笑いを浮かべている。



          ☆



 話題の中心のポチはというと、自室でモニター見ながらくしゃみをしていた。

 「ぶぅぇっくしっ!……だから下半身風邪ひくってんだよ。くそう」

 カチカチッとマウスを連続してクリック。

 「あぁ、また広告サイトだ。うぜぇ……」

 何を求めているのか、次から次へとサイトを渡っているポチである。

 老婆心ながら、そろそろ誰か来るのでネットサーフィンをやめたほうがよいかと思う。

 残念な主人公もほどほどにするべきである。



          ☆



 湯~とぴあの真ん中には、イベント用の中央広場がある。

 奥側には、中高の地域トーナメントもできる競泳用プールもあるので、表彰だのなんだのができるようになっているわけだ。

 南国をイメージした植物が外周に沿って並んでいて、若干力づくな装いではあるが、リゾートの雰囲気が出ている。オープンすれば子供、男女、家族連れでにぎわう中央広場であるが、今その場所には無言で男たちがずらりと整列していた。

 しんとしている。

 囁き声さえなく、張りつめている。

 彼らの前にはイベント用の備品である演壇がしつらえてあった。

 ゆったりとした足取りで、ひとりの男が進み出た。小太りではあるが、痩せたらそれなりの美男と言える中年の男である。男たちは、彼の一挙手一投足を息を飲んで見守っているようだ。

 柏木美星、誰あろう、湖緒音町町長である。いつもと違って眼鏡をかけている。

 演壇に登った彼は、静まり返った男たちを無言で睥睨した。

 ゆっくり顔を伏せ、それからぎらりとした眼で男たちをねめつけた。

 全員に走る緊張。

 「……諸君、私は女の子が好きだ」

 町長は、内奥の衝動を抑えつけるように、むしろ訥々と語りだした。その間も眼はぎらついたまま、聴衆をひとりひとり見つめている。「邪眼」に見込まれた男たちが、魅入られたように前のめりになっている。

 「諸君、私は女の子が好きだ」

 嬉しそうに笑うセフレマートの店長。震える福引係の男たち。幸せそうに笑う新聞配達の青年。頷いて笑う生徒会男子役員。頬に涙が伝っている松本、石川の姿が見える。

 「諸君、私は女の子が大好きだ!」

 小さく叫んだ町長の背景に雷鳴が轟いた。

 「女子高生が好きだ、女子中学生が好きだ、女子小学生が好きだ、女子大生が好きだ、ヤンママが好きだ、幼女が好きだ、アイドルが好きだ、学校で、会社で、テレビで、ネット、コンビニで、電車で、二次元で、この地上で見ることができるありとあらゆる美少女が大好きだっ!!」

 男たちがどよもした。

 南国のソテツの葉が揺れた。

 その熱狂はかの国のかの総統をほうふつとさせる。

 男たちから口々に賞賛が、ほとんど信仰と言っていいレベルの賞賛の声があがる。

 「さすがは町長殿だっ! 熱いパトスが迸っておられるっ!」

 「万歳! 湖緒音万歳! 美少女、美少女万歳っ!」

 「それは本能! それは血の記憶っ! 我らの遺伝子に刻まれた大いなる意志っっ!!」

 すっと手を挙げて熱狂を収める町長。

 「諸君、私は美少女を、天使のような美少女を望んでいる。

 諸君、私に同調する紳士諸君。

 君たちはいったい何を望むのか?

 理性か?

 道徳か?

 それとも。

 更なる美少女か。

 小悪魔のような美少女を望むか?

 エロくてかわいい、清楚な美少女を望むか?

 妄想の限りを尽くし、三千世界に侍らせる、夢の楽園を望むかっ!!」

 もはや町長の独壇場である。

 男たちは熱狂に酔った眼をして叫んでいる。

 「ハーレム! ハーレム! ハーレム!」

 それはシンクロして合唱となる。

 町長は演説慣れした声を張り上げて、合唱を突き通すように力強く叫ぶ。

 「よろしい。ならば楽園だ。

 我々は変態と書いて紳士と読む、現代に残された最後の貴族だ。

 頭の固い現代社会で、ふざけた規制や良識に耐え続けてきた我ら。

 そうだ、我らにはもはやただの美少女では足りないのだ。

 超絶美少女を!

 古今東西の、超絶美少女を!!

 我々を世間の片隅に追いやり、仕事をした気になっている連中を叩き起こそう!

 ズボンをつかんで引きずり降ろし、股間をさらして思い出させよう!

 連中に、愛とは何を思い出させてやる!

 連中に、我々の赫赫たる衝動を思い知らせてやる!」

 最後は朗々と歌い上げるような町長の演説に、聴衆の男たちから地鳴りのような巨大な歓声が上がった。






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