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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第9話 「瀧夜叉姫<タキヤシャヒメ>または絆について」
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 ヤミとカノンが移動して後、静まり返っている中央公園である。いつもならわずかながら見える深夜ジョガーも見当たらない。

 そこに、火柱ともみまごうスピードで燃え上がった何ものかが落ちてきた。隕石のごとく、サブグラウンドの真ん中に突き立つように落ちて轟音。墜落する一瞬、中心に人の形のようなものが見えた。

 マナであった。

 地面を大きく抉って、真ん中に大の字になって横たわっている。

 「……痛っっっ、痛い痛い~」

 「お、おい、大丈夫か?」

 「あぁ、ごめんね燕ちゃん。痛いでしょ?」

 「いや、私は大丈夫だけどさ。なんか水の中をぼよんぼよんと動いてるだけだし」

 マナが穴を登るようにして這い出て、大きく息をついた。

 「ふう。もうね……」

 「……あいつ、強いんだな」

 「まあねぇ。根はまっすぐでいいコなんだけどね……一度間違えると、戻れずにまっすぐに進んじゃうんだよね」

 マナはふと思い至って、く、と笑った。

 燕がそれに反応する。

 「私に言ってるならお門違いだ。私は正しく間違った方向に突き進んでいる!」

 「あはは」

 マナは明るく笑って立ち上がった。左手を広げる。幾つもの鞠が形を成して、商店街方向に高速で飛んで行くのを真顔で見送った。

 そして、いつの間にか右手に持っていた鞠を、とーん、とーんとつきだす。


 こちらは商店街を見下ろしているトウマである。

 マナを吹き飛ばしたまではよかったが、マナの隠形で見失ってしまった。方向を推測してゆっくりと哨戒している。

 「あの……」

 「ひゃうっ!?」

 若葉とトウマの一人芝居、おずおずとした問いかけと、顔を真っ赤にして身をくねらせるトウマである。

 「あ、ご、ごめんなさいっス」

 「……黙っていろ」

 若干息が桃色気味になっているが、さすがの士道心得と言うか、トウマはわずかの間にきりっと顔を引き締めた。

 「……いやその、気持ちはわかるっスけど、他にやり方あるんじゃないっスかね?」

 トウマは首を振った。

 「……このようなやり方しか知らんのだ」

 哀しげにつぶやいたが、一転、厳しい眼になって箒を振りかぶった。

 「ぬんっ!」

 気合と共に放たれた斬撃は、飛来した鞠を弾き飛ばす。

 鞠はそのままの勢いで商店街のアーケードを断ち割った。

 ふたつ、みっつ、よっつ。

 次々に迫る鞠をトウマは次々に叩き落とし、そのうちのひとつが、国道に違法駐車していた車の屋根を紙のように突き破った。

 当たり所がよくなかったのか、爆発する車。

 トウマはその脇にゆっくりと着地した。

 火柱に照らされたまま、静かに立つ。


 湖緒音中央公園では、まだ鞠をついているマナである。

 手元にあるその鞠は、他のものと違って明らかに力感にあふれていた。鞠をつけばつくほど力が蓄積していく気配である。もはや鞠というか、金色に輝く小さな太陽のような形態になっている。

 「誰かが止めなきゃだめなんだよね」

 うんうんとうなづくマナ。胸元がぼよぼよんと震える。

 やおら、大きくついた鞠を、マナは裾を翻して思い切り蹴った。轟という音、カタパルトから発進したような急な加速をして、鞠が砲弾と化して飛びだす。


 トウマが空気を切り裂く音を耳にするのとほぼ同時、鞠が着弾した。

 無意識に迎撃形を整えたトウマが、箒で防御を試みる。

 が、先ほどの鞠と違って弾き飛ばせない。

 「く、う、おお、おおおおおぉぉぉっ!?」

 勢いだけであれば弾くこともできようが、それはトウマの全力を以ても支えきれないほど、巨大な質量を伴った攻撃だった。

 じりじりと押し切られるトウマ。

 「……っ! マナ!」

 鋭く叫んだ瞬間、箒が耐え切れずに燃え上がった。

 鞠がそのままトウマに衝突、大爆発が起きる。

 トウマは中天高く吹き飛ばされた。


 中央公園では、マナが座り込んで耳を澄ますように首を傾けている。

 爆発音を聞き届けると軽くうなずき、眼を閉じたままゆっくりと崩折れた。



          ☆



 壊れかけのラジオのような顔で走っているポチである。

 前にも言ったが、瞬発力は相当高いのだったが、持久力はからきしである。

 裏山に行きかけたが、尾を引く光が山を離れて中央公園付近にそそぐのを見て、今はそちらに走っている、というかゆらめいている。

 「……ちっきしょうっ! 知るかボケェっ!」

 喚くのにも力が足りない感じ。



          ☆



 人気のない湖緒音高校、その部室棟近くである。

 残念ながら、今の地方では結構空き家が多いのだが、その空き家をところどころ吹き飛ばしながら、メイとキリが空中を飛び交いながら戦っている。

 空気の守護陣をまといながら、音圧を礫のように四方に飛ばしているメイと、円輪と自身の武力で弾きながら守護陣を削るキリと、交錯するたびにベイパーコーンが生じている。直接の攻撃ではなく、むしろその衝撃波で建物が一瞬切り飛ばしたかように破壊されていくのだった。

 「お前、結果的に壊しまくってないか?」

 キリが呆れたように声をかけた。

 のんびりしているように聞こえるが、空中を高速で飛びながら声を矯めて発している。エコーがかって聞こえるのはそのためだ。

 「気のせいです」

 すげなく言って鈴を鳴らすメイ。

 キリがかわすと、湖緒音高校の教室棟、屋上出口が大音響とともに瓦解した。

 すれ違って、メイが屋上の鉄柵の上、校庭にはキリ。

 互いに攻撃が一足では届かない距離。


 屋上に立つメイと校庭に立つキリ。

 時を同じくして双方の一人芝居が始まった。

 「ねえ、ちょっと! い、いい加減にしてよ!」

 「もう、なんですか。頭の中でわめかないでください」

 「学校壊さないでよ! それじゃああいつと一緒でしょ!」

 こちらはアムである。

 「何か問題が?」

 素っ気なく応えるメイ。

 「むぐっ。あんたねぇ! あいつ、あんたの仲間なんでしょ!」

 「そうですね」

 「仲間だったらちゃんと止めなよ! それが仲間の責任でしょ!」

 「だからこうして戦ってるじゃないですか。まだ何か文句が?」

 しばらく無言。めずらしくメイがアムの言葉を待っている。

 「……違うでしょ。あなた、流されてるだけでしょ。だからあのコだって止まれないんだよ」

 「……なんです?」

 アムの言葉に冷気を以て応えるメイ。

 少し気圧されたアムだったが、腹を決めたように言い切った。

 「無関心な言葉に、聞く耳持つわけない、でしょ!」

 「……」

 黙ったメイに、アムがかぶせるように言った。

「あなたがどっちに付いたっていいけど……ごめん、やっぱこっち側っていうか、街を壊さないほうになってほしいけど……でも、でもね、本気じゃなきゃ、止められないんだから、勝てないし、変わらないよ。あたしだって、ハクに全力で嫉妬して、全力で勝ちたいんだよ。仲間ってそうでしょ?」

 一瞬、メイが片眼をぎしりとつぶった。

 「……小娘風情が、知ったふうな口を」

 胸が痛むように手を当てて、苦々しげに吐き捨てる。


 校庭ではキリが屋上を見上げている。

 「……なあ」

 当然、誰も答えない。

 キリはちょっとイラついたように自分の胸を見て声を大きくした。

 「なあ! 聞いてんだろ憑代!」

 「へっ?! あ、あたし?」

 「そうだよ! なああひぃっ!」

 両腕で身体を抱きかかえて、軽くイキそうになるキリ。

 「えっ、ごめ、私なんかしちゃった?」

 雫が心配そうに声をかける。

 「ちょ、う、動かないであぁっんっ! ……はぁ、はぁ……」

 ずうんと胸を張って立っていたキリがふらつく。

 顔を真っ赤にして少し息を整えてから、沈んだ表情を浮かべた。

 「あたしが間違ってると思うか?」

 「キリ……さん?」

 「姫の仇を討つ、って、そんなに悪いことかよ。仲間に、背中を預けた仲間に力づくで邪魔されるほど悪いことかよ」

 「……あなた、姫って人のこと、大好きなんだね」

 雫の思慮深い一人芝居。

 「そんな簡単なもんじゃねえ」

 キリは眉をしかめた。

 「ええとさ、うまく言えないんだけど……例えば、あなたと姫と、立場が逆だったらどう思う?」

 「は?」

 キリが目の前の空間をヤンキー見する。

 「えと、あなたがその……死んじゃって、姫が貴女の仇を討とうと必死になってるとしたら」

 「……嬉しいに決まってんだろ」

 「おっとぉ? ……うーん、まあ、そうだよね……」

 「なんだよ、終わりか?」

 「……口下手でごめん」

 肩をすくめるキリ。

 「でも、そうだね。あなたが間違ってるとは思えないかな」

 「……」

 「で、でも、メイちゃんたちも間違ってるわけじゃないから……やっぱり、ぶつかるしかないのかな……」

 キリは黙って雫の言葉を聞いている。

 「……ねえ、本当にそうなのかな……」

 「……わかんねえんだよ」

 ふと、キリは顔を上げた。

 屋上にメイがいない。

 瞬時に左右を見渡して敵影がないのを確かめ、円輪を鋭く斜めに投げ放つ。

 メイが取るであろう上からの軌跡、三つのうちのふたつを横切るように弧を描いたが、当たりはない。

 手元に戻った円輪を盾代わりにしようとして、一瞬の油断が生じた。

 右斜め低空、地面すれすれにメイが飛んでいた。

 空気の壁がキリの手元で弾け、円輪を取る手が流れる。

 「気は済みましたか?」

 バランスが崩れたキリの右胴をメイが蹴り上げる。

 キリが腕でカバーしたので衝撃自体はさほどではなかったが、蹴り足に圧縮した空気がのせてあり、キリはバランスを崩したまま、対応しきれないスピードで上空へ向けて吹き飛ばされた。

 「くっ!」

 かろうじて体をひねり、通常の何倍もの回転を円輪にのせて放つ。

 「済むわけ、ねえだろっ!」

 空中で叫んだキリの正面に現れるメイ。

 メイにしては本当に珍しい、怒った顔でキリの胸ぐらをつかみ、言葉を叩きつけた。

 「そうでしょうね! 何をやったって、気が済むわけがないんです。済むわけがないんです!」

 メイの鈴がちりん、と鳴る。

 再び空気圧で、今度は地面に落とすつもりだ。

 だがそこに、先ほどキリが放った限界まで回転数を上げた円輪が、死角から戻ってきた。

 それはメイが圧縮した空気の塊に、予想もしない切れ目を入れ――結果、中空で小規模な酸素爆発のようなものが生じ、強烈な衝撃にキリとメイは左右に吹き飛ばされた。

 「!」

 身体がズレるような爆風で、キリは校庭に落ち、メイはというと、放物線を描いてサッカーのゴールネット上に落ちる。

 キリは不自然な形のまま動かない。気絶しているのだろう。

 メイはネットに絡まったまま、大きくため息をついた。

 最後の仕掛けで力を使い果たしたようだ。

 眼をつぶる。

 そして、ゆっくりと意識を失う直前、

 「もう、姫はいないんだから……」

と、心細く呟いた。






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