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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第9話 「瀧夜叉姫<タキヤシャヒメ>または絆について」
39/61

 本来大スペクタクルの主人公のはずだが、すっかり自室でだらだらモードに移行したポチである。賢者モードは終了。

 画面を見つめたまま、「宿曜道やってるけど質問ある?」スレッドの進行を不思議そうに見つめている。


 『宿曜道やってるけど質問ある?』

  01:やばくない範囲で答えるナリ

  03:やばい範囲あるのかよw

  04:コポォww 情弱マジ憐れw 宿曜道は時の力を扱う呪術ナリ。普通に命かかってたりするし? 庶民は知らなくて当たり前か

  07:はいバカ発見。宿曜道は古代の天文学。>>01はただの厨二

  08:まあ待て。>>01の脳内設定が炸裂するぞ

  09:>>07は氏ね。っつーか術かけてやる

  10:しゅくようみちは就活に役立ちますか?

  12:しゅくようみちは学生時代に頑張ったことはなんですか?

  14:しゅくようみちは生きててつらくないですか?

  15:しゅくようみちは涙を拭いてください

  16:しゅくようみちは顔を真っ赤にしないでください

  17:オマエラ本気でコロス。宿曜道なめんな。

  19:あ、昔ジャンプでやってたよな

  20:>>19それ陰陽道じゃね?

  23:一緒にスンナ。こちとら七曜の法力を用いた呪術体系だし。G県K町でググれ

  24:ただの温泉街ですが? ってかコーネイザーってのが一番ヒットするんだが

  26:コーネイザー知ってる

  27:知ってる。宇宙教師コーネイザー

  29:K町のご当地ヒーロー。意外にかっけー

  31:ヒーローに持ってかれて>>01涙目

  32:ねぇねぇ、今どんな気持ち>>01?(例のAA)

  35:憐れなオマエラに教えてやる。K町には七人の大妖が封じられています。奴らが解き放たれた時、この国はマジで終わる

  36:で、でた~。○○が解き放たれた時、この国は終わるwww

  37:おwwwわwwwらwwwねwwwえwwww

  39:おまわりさんこいつです

  40:笑ってられるの今のうちだから。大妖封じてたのウチの流派だし? ってか封じたのウチの開祖ですし?

  42:>>01は女くせえな

  44:>>01のスペック。特に容姿

  46:16歳(♀)

  48:ぼっち確定w

  49:べんじょ飯ww

  50:Eカップだけど?

  51:いいからはよ画像うpしろ

  52:早くハリー! 下半身風邪ひく

  56:パンツ飛んでった

  57:俺のところに飛んできた

  58:パンツおろす話じゃねえDT


 「……なんか、すっげえ叩かれてんなコイツ。けど……」

 35のレスを読み返すポチ。首をかしげる。

 「これ……ハクたちじゃねえよな……とすると、湖緒音町で俺以外にも知ってる奴いるのか……まあ、いるかもしんねえよな……うーん」

 ポチは首をぶんぶん振った。

 「いや、いねえだろ。おかしいだろこれ」

 その時、玄関のインターフォンが鳴った。

 近所のおばちゃんなら声をかけるはず。こんな時間に呼び鈴を鳴らす、て、じじいがらみの客かな?

 インターフォンが連続して鳴る。連打連打。

 「はーい、はいはいはい!」

 部屋を出て廊下を滑って、玄関の引き戸を開けるポチ。

 そこには高校生くらい、穏やかな委員長タイプの美少女が立っていた。服が墨衣なのが、見かけ通りの委員長ではないことを示している。ずうんと違和感。右手のスマホに見入りながらすごい勢いで打ち込んでいる。

 「……ええと、あの、どちら様ですか?」

 美少女が気を取り直したように顔を上げ、ほんわりと笑った。

 「円海と申します。お見知りおきを」

 「あ、ああ……えっと?」

 間抜けな声をあげたポチだったが、すぐに大気中に方術の力が充満しているのに気づいた。円海を脇にどかして戸外に出る。

 裏山周辺と、離れて中央公園あたり、感じたことのない濃密な力がぶつかり合っている。

 見上げた瞬間に、裏山が鳴動するような低音が響いた。そして爆発音。

 透かして見ると遠目にも火花が散っているのが見えた。

 「さすが当主、お気づきになられましたか」

 円海の言葉も聞こえぬように、ポチは暗い山頂付近を見つめている。

 中空に青い着物の美女が見えた。

 本来の形に戻った七妖の力は肉眼で見えるほどに強大で、周囲の空間ごと歪ませる空気の壁を立て続けに放っている。

 「あれ……は、メイ、か!?」

 衝撃に声も出ないポチに、円海はうっすらと微笑んだ。



          ☆



 裏山と峰続きで、周辺では一番高い山頂付近である。

 そこからだと、裏山空域での大妖同士の戦い、中央公園付近での戦いも一望できる。

 断続的な光と空気を震わせる重低音。

 山頂の展望テラス、とはずいぶんとしょってる名前がついた、その実いくつか並んだただのベンチに、老人がふたり座っていた。

 深くかぶった編み笠から、それぞれ真っ白な髪がのぞいていて、片方は整えられた長めの白いあごひげを伸ばし、彫りが深い眼元と隙のない眼光で戦いを睥睨している、ずいぶんと「濃すぎる」老人。

 もう片方は、一見穏やかそうな好々爺であるが、細い眼の奥が笑っていない、こちらは錫杖で孫の頭をごんごんと叩きそうな塩梅である。

 年季の入った修験者の装備は、山岳信仰修業を日常としている、不断の緊張と背中合わせの強靭さが感じられる。齢八十を超えていると見えたが、それにしては脂が少しも抜けていない、油断できない老人たちであった。

 「やっているな」

 細い眼の老人が独り言のようにつぶやいた。

 誰あろう、海外出張から海外バカンスに変更して、しばらく帰ってこなかったポチの祖父、高賢であった。

 「んむ、なるほど。大した法力じゃ。大妖と謳われただけのことはあるの」

 愉快そうに応えたのは白あごひげの老人である。

 蒼海と言って、高賢と同門にて宿曜道阿鎖奈祇流を修め、関東の守護を長く務めた人物であった。今は役目を引退して後続に譲っているが、能力者としては未だに最高峰という評判がついてまわる。

 「さもあろう。空賢大師より継承したお勤めを果たさねば」

 「なに。若いのがうまくやってくれようさ。年寄りは後ろから見守るのが務めというものよ」

 「わかっている……わかってんだけどさああ……」

 高賢のちょっと長いため息。

 「どうした、高賢?」

 蒼海が不審そうにのぞき込む。

 「いや、まあさあ、あいつしかいなかったからしょうがないんだけど」

 「んん? 孫? 孫?」

 「ああ。我が孫ながら、その、あんまり出来がよくない。っていうかダメだ」

 「ダメっておい。おいおい。お前の孫が要だぞ。そんなに頼りないのか?」

 「いや。うん」

 「え、だって、禁縛できるじゃん」

 「いや、能力はあるけども、あるんだけども、えーと……バカだ」

 「なにい……バカか」

 「……バカだ……すまん。フォローしきれんかも」

 「えーと……まあ、なんとかなるだろ。あいつもいるしな」

 世界の運航を理解している老人のような気配は消え、何かしょぼしょぼな感じ、肩を落とし気味で再び湖緒音町を見やるふたりである。



          ☆



 「一体、何がどうなってるんだ?」

 動揺しているためか、独り言にしては大きい声でつぶやくポチに、円海が一礼した。

 「七曜封縛を解かせていただきました」

 ポチが固まる。ゆっくり振り返った。

 「……お、お前、何なんだよ?」

 「あなたと同じく、宿曜道阿鎖奈祇流を修めた者です」

 包容力のある笑顔で受ける円海。

 「え、うそ、マジで?」

 「ご存じなくても無理はありません。あなたは七曜封縛の要として特殊な修行を積んでおられたのですから」

 「そ、そうなんだ……。って違うよ! そうじゃなくて、なんで封縛解いてんだよ! あれ? っていうかハク……憑代の霊穴封印してたはずだぞ」

 不審から驚きと喜び、怒ってから考えこむ、忙しいポチである。

 「見事な封印ではありましたが、解かせていただきました」

 明るい笑顔の円海。

 「え、いや、そおお? ……まて、何それ。意味わかんねえ」

 「申し訳ありません。ですが、これは必要なことなのです」

 「はぁ? どういう……」

 大きな爆発音が響き、音のした方向を見上げると、流星のように光を曳いて落ちていく大妖が一体。

 「まっ、マナっ!?」

 マナが気を失ったような脱力した状態で中央公園の方向に落ちていく。

 居ても立ってもいられず、思わずポチは走り出した。

 が、その背に、思わず足を止めてしまうほどの重い口調で、円海が声をかける。

 「どちらへ?」

 「うるせえ、止めんな!」

 「止めません」

 「止めないのかよ!」

 ガクッとこけるポチ。なんで呼び止めたいま?

 「どうするおつもりですか?」

 「知らねえよ! 知らねえけど、ほっとくわけにもいかねえだろ!」

 「封縛を施すなら、あと十五分ほどです」

 「マジで?」

 宿曜計を見ると、大歳を封じる星行である。

 「え? 封印って、だってこれ?」

 「はい、一度にやらねば意味がありません」

 「こんなんやったことないぞオレ!?」

 円海がゆっくりポチの正面にまわった。

 まっすぐにポチを見上げる。

 「お伝えしておかなければならないことがあります」






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