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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第8話 「円海<エンカイ>または七妖封縛解呪について」
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 「ちょ、なにこれなにっ!?」

 澄んだ高音と共に、ヨリシローズの法輪が砕けた。

 「ちょ、こ、これっつ!」

 ハクとアムが慌てている。

 シチヨウーズのリアルな暴力を間近で見た人間としては、当然の反応だった。

 ポチが命がけで閉じてきた輪っかが、いきなり真言ひとつで全て解放されたのだから、無理もない。もうひとりその暴力を間近で見たのは燕もそうだったが、アレはまあ、除外である。

 若葉、雫、神谷の法輪が砕けたのを見つめている、トウマ、キリ、カノン。

 彼女らは無表情だった。

 自分の憑代が自由になる機会を得て、なぜか喜んではいなかった。

 しかし、逡巡もすればこそ、トウマたちが身じろぎをした瞬間、風呂は眼も眩むような閃光に満たされた。

 そして、訪れた時と同じように唐突に去る。

 三人が七妖の姿になって空中に浮いていた。

 その間、円海は眼をつぶって浴縁に座っていた。

 「……とりあえずは礼を言うぞ、円海」

 トウマである。

 前回と同様に朱色の和服を着ていたが、袖も裾も短く、明らかに前回と違って動きやすい様子である。額から耳までを覆う装飾がかったティアラらしきものをつけ、手元にある変幻自在のささらのような武器は、ふた回りほど大きく長い。

 「どういうつもりかわからない。けど、落とし前はつける」

 低く告げたのはカノン。

 トウマと同様、前回と微妙に違う。白いワンピース様の衣装は少しく光沢を増し、明らかに絹のそれではなく、精錬された鋼を糸のごとく細く、そこから織られたような強靭さを感じさせた。

 カノンの持つ黒い箱は手元になく、代わりに両耳に小さな宝石のような黒いイヤリングをつけていて、菫色の瞳と相俟ってひどく寂しげな印象だった。

 「姫の無念を晴らすため、まずは憎きこの地を滅ぼしてやるぜ!」

 勢いよく言ったのはキリである。

 彼女だけは前と違うように見えなかったが、実際には硬度が桁違いに強くなっていた。緑色の衣装はそれ自体が力場のように低周音を発していて、近づくことも難しいほどの防御力を示していた。「むてきのぼうぐ」である。

 手にはフラフープの如きでさえ恐るべき破壊力を誇った円輪が、道路カッターのように十全な形になっている。

 すなわち、ほぼ本来の七妖の姿であった。その破壊力もまた。

 「……よせ! そんなことをして何になる!」

 ヤミが幼女の姿のまま、立ち上がって叫んだ。

 その身から溢れ出る力を試すように、両拳を握ったトウマが何の感情ものせない眼で見返す。

 「意味など必要ない。何を為したかでのみ、人は生きた証を得る。そうだろうヤミ……それがわからぬから、お前は弱卒というのだ」

 「あの世の姫まで届くように狼煙をあげる。それがせめてもの手向け」

 キリが少し間をおいて、呟いた。

 「……やっぱ、お前らは、行かないんだな」

 眼を伏せるキリ。

 黙ったまま、三人を見つめる幼女姿のヤミ、メイ、マナ。

 アユイは温泉の端のほうで、全員を見つめている。

 キリが寂しそうに少し笑った。

 「いいさ。私はどっちみち、お前らみたいに器用にはできないもんな」

 何かを振り切るように明るく言って、す、と姿を消すキリ。

 それを追うように、トウマとカノンが姿を消した。


 少しの間、温泉は無言であった。

 ヤミがきっとなって円海をにらむ。

 「お前、いったいどういうつもりだっ! こうなることはわかってたことだろうがっ! お前は一体何が目的だっ! 何の術者だっ!」

 円海は荒い息を吐くヤミを静かに見つめ、おもむろに口を開いた。

 「……あなたこそ、どうするおつもりですか?」

 三人とアユイを見渡す。

 「あの三人はこの町を滅ぼし、ひいては国を敵に回すでしょう。かつての仲間が、千年の封印の果てに得た命を無駄に散らすのを、黙って見ているのですか? それでいいのですか?」

 あくまで円海は平静に、珍しくヤミは興奮して、しばし睨み合った。


 円海の行動はヤミの予測とは違っていた。

 封縛が残っているいま、言葉の本来の意味で、七妖は脅威にはなり得ない。

 それを解放することは、駆逐するためにあえてのこととしか思えない。

 が、円海の眼の中には負の感情はなかった。七妖を向こうに回して、圧されながらも何か強い、まっすぐな意志を示している。

 ヤミは眼を閉じて、ゆっくりと深呼吸した。

 わからないながらも、術者の掌で踊ることを決めた。

 何より、このままあの三人を朝廷(今は政府)の的にするわけにはいかない。

 怒りを収めるために少しの時間が必要だった。

 両拳を握りしめながら肩の震えが収まるのを待つ。


 少し離れたところで、ヨリシローズの残り、ハクとアムと燕が囁き合っている。

 「何か私たち蚊帳の外じゃない?」

 とハク。

 「いや、なかなか入っていけないだけですごい当事者だ。これ最終回フラグだぞ」

 かなり興奮気味の燕。確かに最終回の様相なのでしかたがない。

 「そ、そうなんですか? ……えっと、私たち、何かできませんか? メイちゃんとかポチくんとか……このままじゃ」

 アムがよくわからないまま「主人公が大事にしている友達」的なセリフを吐いている。こういうのが最もおいしい。一番くじの特別賞などに使われるキャラである(間違い)。

 大きく息をついたヤミがハクを振り返った。

 「おい、ハク」

 「うおっ!? な、なになにいきなり?」

 「話聞いてただろ。……悪いが、体を貸してくれ」

 「……なんかあんた、ずいぶん殊勝じゃない?」

 ハクが口を尖らせた。

 「仕方ないだろ、こればっかりは」

 ヤミが口を尖らせた。

 メイとマナを見る。ふたりが薄く笑って頷いた。

 「えーっと……昔の仲間を止めるってことかな?」

 アムがおずおずとメイに声をかける。

 「まあ、喧嘩です。はなはだ不本意ですが」

 言葉と裏腹に、メイが微笑んだ。

 「ごめんね燕ちゃん。体貸して~」

 マナは緊張感のないお願いぶりである。

 「なに、お安い御用だ。……ちょっとアレなんだが、湖緒音町を守る的な展開、ってことでいいんだよな?」

 「んー、そこはまあ、割とどうでもいいっちゃいいんだけど」

 「いやいやいや。どうでもいいとかは困るって。ちゃんと頼むよ」

 小首をかしげて思案を始めるマナに、メイが声をかけた。

 「結果的にはそうなるからいいでしょう。多分」

 そして軽く肩をすくめる。


 見つめるヤミを前に、ハクは何やら思案していたが、肺の中の空気をすべて吐き出すような盛大なため息をついた。

 「はー……、あのね、ヤミ」

 「ん? なんだ?」

 「バトンの大会、近いんだ」

 「なるほど……それが?」

 「なるほどじゃないよ。忙しいんだよ。死ぬほど練習しなくちゃなんないの!」

 ハクが眼をつぶって、少し強く言った。

 前にも言ったが、ハクは自分で積み上げることを最も大事にしている女子である。その彼女が、積み上げたものが全て瓦解するきわにいるヤミを、無視できるはずもなかった。言うなれば、泣き言の一種である。

 「あいつら野放しにしといたら、バトンどころじゃないぞ」

 「あーもー、わかってるよ。……あー、非日常とかすごい嫌。日常を圧迫しないレベルでやってほしい。マジで」

 ハクが乱暴に自分の頭をかいた。

 燕が何か発見したように、ぽんと手のひらを打つ。

 「そうか。だから週に一回三十分なのかもしれんな」

 全員無視である。

 「とにかく! ちゃっちゃと終わらせてよね」

 燕がよせばいいのに追い打ちをかける。

 「あ! でも最近はU局で何回も放送してるから週イチじゃないか。できたら夕方六時とかが一番いいよな! でも無理だなこれは。タイトルからして無理だな」

 「ほんとマジ黙っといてくれます先輩?」

 ぐぎぎとゆがめた口の端で、ハクが「お願い」した。

 ヤミが顔の前で軽く手を振る。

 「わかったわかった。すぐ終わらせるよ」


 ――ことさらに軽く言うのは、戦場のならいである。

 彼女らは本物のいくさびととして 彼我の差からくるシミュレーションを演算し続けている。

 できることとできないこと。

 できるために何を犠牲にするか。

 できないために生じる不利益をいかに最小限にとどめるか。

 その過程で自分の命も含めて、駒がいくつ失われいくつの穴が生じるか。

 ミクロとマクロの視点を同時に持つことは難しく、その上ミクロの位置で賭けるチップは常に自分の命である。判断はすぐにゆがむ。

 いくさびとは、そのゆがみが可能な限り生じないように、その時に自分の生き意地の汚さでいくさをゆがませないために、あらかじめ死んでおくのだ。

 すなわち、「死ぬことと見つけたり」である。

 むしろ微笑みで発された言葉こそが、戦いの過酷さを物語るものと言えよう。


 す、と手を挙げるヤミ、メイ、マナ。

 再び閃光が浴室に満ちる。

 ヤミの草皮服テタラベは文様を強く刻んでいた。一見無地にも見えるが、その実、同心円が服全体に波紋を起こし続けているような、およそ織物で成立し得る服には見えない。

 メイは鮮やかな青の和服に変わっている。髪飾りも奥行きのある深い青、眼は最初からセルリアンブルー。

 マナは身に着けた衣装は変わっていなかったが、手に持った鞠がわずかな赤と緑でアクセントをつけた金糸で編まれたものに変わっている。

 本来の大妖の姿である。

 ヤミがふたりを振り返った。

 「……行くか」

 無言でうなずくふたりを確認もせず、ヤミが消える。間を置かずメイとマナも消えた。

 アユイはその間、温泉の水面を見つめていた。

 軽く息をついた円海に眼を向けずに声をかける。

 「宿曜道の術者というのは、性悪が多いようだな」

 風呂を出ようと立ち上がった円海だったが、思い直したように止まった。ゆっくりとアユイに向き直る。

 「……善人が解決できる、というのならそうします」

 無表情な声で呟き、円海は風呂を出て行った。

 アユイはタオルを湯船に浸し(禁止されています)、そのお湯で顔を洗った。

 見上げると天窓には月明かりが差し込んでいる。

 「……姫様……姫様がいないのは、こたえますね……」


 アユイは最後に封印された。

 彼女だけは自分から封縛を受けている(ちなみにその過程で禁縛も受けている。技名は「三結法輪」。大きく開脚させ、両手を内腿付け根に添えて、びしょびしょなんだけどどうしてくれるの的な恐ろしい技である)。

 封印されている間、闇の中で彼女はありとあらゆる可能性を考え続けた。

 未来を見通す「宿命通」をよくする瀧夜叉姫。

 姫は朝廷との戦いの後半、考えこむことが多くなった。

 姫には劣っていたが、「宿命通」を含む「六神通」をよくする空賢。

 朝廷の方術士である空賢が、なぜか瀧夜叉姫をたびたび訪れていた。参謀格だったアユイとメイだけが知っている。

 内容は知らせてもらえなかったが、会見の後、瀧夜叉姫も去っていく空賢も、常に沈痛な面持ちだった。

 アユイは闇の中で考えられる可能性をすべて並べ、そしてたったひとりだけ、ひとつの結論に達していた。



          ☆



 湖緒音町上空。

 対峙しているキリとメイ。

 対峙しているトウマとマナ。

 対峙しているカノンとヤミ。



          ☆



 PCのモニターを前に、ポチは机に肘をついて額を押さえている。

 ポチに似つかわしくない少し陰のある感じで、見ようによってはいいオトコっぽい。

 ハクが見たら、わずかだが見直す可能性がありそうなほどである。

 「……賢者タイムって名付けた奴、流石だな……」

 ――だいなしである。


 呟いたポチがふと画面上に表示されたタイトルに眼をひかれ、手早くクリックする。

 「なんだこれ?」

 そこには「宿曜道やってるけど質問ある?」というスレがたてられている。






「DVDの映像特典でミニアニメとかさ、コミックのカバー裏のプチ漫画とかいいよね。すごい面白いあーゆーの。でさ、他の奴にもあると思ってカバーめくるじゃん? 漫画なくて、白地に出版社のロゴのみ。あれ悲しいよねって次回『決着、大妖大戦!千年の果ての魂の再会!』何が言いたいのかっていえば、温泉はサービスだってことよ」


それでは9話をお楽しみに!

バトル回ですが、さて、書けるのか?ww

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