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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第4話 「黄莉<キリ>または報われぬ想いについて」
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 「やめろっ! キリ!」

 全員が顔を上げると、駐車場脇の小道をヤミが駆け下りてきたところだった。

 「ハクっ、金剛杵をポチに渡せ!」

 言いながら駐車場に降り立った。指をさす。

 指名されたハクはあたふたと困惑して首を傾げた。

 「コンゴウショって……ナニ!?」

 「あほうっ、今キリの腕に刺さってるヤツだよっ!」

 「ヤミ! 貴様!」

 キリが振り返って叫んだ。右腕がきかないようで身体の向きを変えるのも鈍い。

 その隙を縫って、意を決したハクがキリの腕に飛びついた。金剛杵を掴む。

 「なにすんだ、よっ!」

 キリが身体ごと振り払った。

 「ふうわあっ!」

 ハクは斜めに宙を飛んだ後、駐車場の地面にごろごろごろんと音を立てて転がる。しかし、さすがの反射神経で、手には金剛杵を握っていた。

 「てめえっ!」

 キリの腕からは血ではなく、糸のような細い光が零れ落ちていた。力が抜けたように膝をつく。

 ハクは痛みをおして立ち上がり叫んだ。

 「アムっ!」

 かたずを飲んで成り行きを見守っていたアムが声にはっと振り向く。同時にバトン交換の要領でハクが金剛杵を投げ上げた。ふたりともバトン交換は得意な方だ。

 見事にキャッチしたアムは、そのまま真後ろに振り返り、生垣に半ば埋まっているようなポチに金剛杵を投げ上げた。

 「ポチくんっ!」

 「よしごふあっ!」

 振り仰いだポチの額に命中する。

 尖ったほうである。

 激痛である。

 「ぬうおおおお……」

 ヤミがポチのボケに反応することもなく強い口調で命令した。

 「早くしろっ! 時間だろうがっ!」

 「わかってるよっ! 痛いよっ!」

 だが、宿曜計の歯車がかみ合う音が聞こえた。

 ポチのスイッチが入る。

 結跏けっか趺坐ふざに座り直し、宿曜計の木行にベゼルを合わせる。

 外周に黄道と白道が現れ、星の宿と三十六禽の宮を告げた。

 七曜の配置。


 本来、木行は生命の源だ。

 水と緑で満たし、陸に上がった生き物たちの命脈をつなぐ星である。

 それがいま参宿、ルドラ神の剛猛の星にいた。

 キリの力は歪なまま最大値を取った結果、植物は繁茂し、動物と植物の境目も曖昧な生物たちはすべてを生命で飲みこみ、跡形もなく緑に変えていく……勢いのまま、ある種の暴力的な星となっていた。

 少し強引だがやむを得ない。

 「木行! 倉積天そうせきてんに命ず! 劫盗ごうとうし、樗蒲ちょほし、射猟しゃりょうすを禁ず! 毒害宿どくがいしゅく和善わぜんと化し、猛悪宿もうあくしゅく軽躁けいそうとす! 以て三九さんく秘宿ひしゅくの白月、角宿かくしゅくを礎として断ず!」

 声と同時に金剛杵が空中を穿ち、何か高音の割れる音がした。

 見る間に緑色の光の奔流ほんりゅうがキリに殺到する。

 「なっ……コノヤロー!」

 ほとんど陽の落ちた黄昏の中に、緑色の光のまゆが辺りを照らし出した。

 訪れと同様、唐突に煌々とした光が去ると、そこにはいつものように(と言ってはいけないのだろうけども)、具足から緑の光が発して、それが縄となって縛り上げられている大妖がいた。

 両手を後頭部で組まされ、腰とつながれた状態で緊縛されている。尻と足は「とんぼ座り」のような状態、腰回りで固定されている。

 脇にある豪勢な筆文字は曰く、「蕩遊とうゆう浮桃ふとう」と。

 ありていに言って、桃のような丸い尻を突きだしておねだりしているポーズである。

 「ぬ、ぬおおおぅぅぅ……」

 唸り声を上げたのはポチである。

 ボーイッシュな見かけで、胸はこれまでの3人よりは小さいが、きゅぅんと絞り上がっているにもかかわらずまあるい尻が、ポチの眼の前でふいふいと左右に動いている。

 「ふううぉぉぉ…これは……」

 「くそっ、ほどけこらっ!」

 もがけばもがくほど、煽情的せんじょうてきに尻を振っているようにしか見えない。

 「なんて、なんて、怖ろしいんだ……」

 「ほんと、これ考えたヤツ苦しんで死なないかな……」

 ハクが心底嫌そうな顔で呟いた。

 アムは恥ずかしそうに顔をそむけている。

 「早く法輪つけたらどうですか変態」

 遅れて降りてきたメイが、相変わらず冷静に白目で命令した。

 「へ、変態っていうなっ……!……よ……」

 ポチが法輪を手にキリに近づいていく。キリがいよいよ凶悪な眼でポチを見定めた。思わず愛想笑いをするポチ。

 残念な主人公である。

 「こ、これはですね、あの、やむを得ない、ていうか……」

 「てめえ……憶えてろよ空賢……」

 「だから、違うって……ホント」

 言いながらポチは、法輪をキリの首に結ぶ。

 光と共にキリの姿が消え、若い女性が全裸でどさっと地面に落ちる。

 「こ、これはっぷげらっ!」

 「アムっ!」

 半笑いを抑えきれないポチを蹴り飛ばしながら、ハクが声をかけた。アムがすかさず持参した毛布を女性にかける。

 「もうポチの眼は潰れろっ……ったく、ってこれ?」

 ハクがまじまじと女性を見た。脇からアムが覗き込む。

 「雫さん、じゃない?」

 和菓子屋の看板娘がすーすーと安らかな寝息を立てていた。


 少し離れたところで燕が声を上げて崩れ落ちた。

 思わず全員が振り返ると、燕は地面を握りしめ、やがて力なく拳で悔しそうに地面を叩き始める。

 「……何も……できなかった……私は、私は!……無力だっ……!」

 主人公ぽく嘆く燕に、ハクとポチは顔を見合わせ、そして脱力のため息をついた。



          ☆



 そして温泉である。

 今日も「温泉旅館たちばな」の従業員用風呂であった。この時間、お客さんの入浴時間であるので、大浴場は使えない。

 その湯船には今、ハクとアムと燕と雫がつかっている。

 四人とも法輪……首輪をつけたままである。よく考えると……いやよく考えなくても壮絶な絵面である。

 「えっと……封印? 大妖?」

 ハクに説明を受けた後、雫が頭の上に?マークをいくつも着けたまま小首を傾げた。

 「はい……私とハクと、先輩もその子孫で、依代なんだそうです……」

 アムが遠慮がちに説明を付け加えた。

 「あの、全然意味が分かんないんだけど……」

 「説明しよーう!」

 燕が嬉しそうに立ち上がる。

 「結構です」

 ハクが見ないでいなした。

 「ちょっ、私先輩ポジションだろっ! もっと教えを乞われてしかるべき位置のハズだっ!」

 「いえ、ホントもうお腹いっぱいなんで」

 ハクが再び見ないでいなす。

 燕がなおも不服そうに言い募ろうとしたところに、ヤミが割って入った。

 洗い場では、ヤミとメイとマナがばしゃーっとかけ湯をしていた。

 「気づけ燕。お前はコマの隅っこにいつもいるポジションだ。話数によっては声も入ってない」

 「このビジュアルなのにマスコット扱いっ!?」

 燕が矛先を大妖に向ける。

 「美少女の無駄遣いですね」

 「エロはみんなで担当してるからねっ」

 頭をぶるっと振ってお湯を落としたメイとマナが突っ込む。

 「ヒロインは難しいかもしれないが、私だって準ヒロインくらいいけるだろっ!」

 「残念ですね」

 「残念だね~」

 「ちょっ」


 引き戸が音立ててがらりと開いた。

 ひとりの幼女が、肩から手ぬぐいを下げて堂々と立っていた。

 そこら辺の修学旅行中男子中学生を圧倒する雄々しさである。

 「キリか」

 ヤミが肩越しに声をかけた。

 「また? つうかなんでいつもウチに集まるわけ?」

 ハクが条件反射的に噛みついた。

 「私が呼んだからな」

 「おまえかっ! うちの温泉は集会所じゃねえぞっ!」

 「ぴーぴーうるさいな。お前だってその憑代の女を連れて来てるだろ」

 「あたしがあたしの家に人を呼ぶのは当たり前なんですぅ~! でもあんたがあたしんちに人を呼ぶのは認めませんっ! 私のものは私のもの。あんたのものはひとつもない!」

 「なにそのジャイアニズム。独裁スイッチ押すか? おっかさんだっていいと言ってるんだがな」

 「女の子のやる気スイッチどこかな~」

 「それただのプレイですよマナ」

 「お父さんスイッチ、お」

 「お前ら蒸発しろいいから」

 ハクとヤミの会話にメイとマナ、燕まで加わってわけのわからないむにゃむにゃになっている。なおも燕が突っ込み、ヤミが受け、メイが冷静に突っ込む。


 ふっとキリが苦笑をもらした。

 「変な連中だな」

 ぺたぺたと歩いて風呂椅子に腰を下ろす。見よう見まねでカランを押すと、お湯が出てくるのに少し戸惑ったキリだったが、肩をすくめてかけ湯を始めた。

 ヤミが隣に座る。

 「で? 何の用だよ?」

 手を止めたキリに応えることなく、身体を洗い出すヤミ。

 「大した話じゃない。ちょっとのんびりしようと思っただけだ」

 「何だよそれ。ずいぶん丸くなったなお前」

 「そうでもないさ。昔からこんなもんだよ」

 キリの問いに、口を片方歪めてヤミが笑った。

 「毒気を抜くのはうまかったですね」

 湯船に沈んだまま背中越しにメイが声をかけた。

 「ふん。お前もそのくちか」

 少しだけ柔らかくなった笑顔で呟いたが、それを恥じるようにキリは顔を引き締めた。

 「でもさ、やっぱり無理だ」

 立ち上がり、天窓から遠くを見る。

 「姫様の無念を、私は忘れられない」

 ――無理もない。

 キリは他の大妖と違い、小さな頃に姫様に引き取られて始終一緒にいたのだ。

 彼女を象徴する徳目は「孝」だ。主君に捧げる「忠」ではない。自分の血肉になるほどキリは姫を近くで見て、支えて、共にあった。最期の時まで。

 「……それでもいいさ。私にだってわかるんだよ、キリ」

 キリは項垂れた。

 彼女が姫の最も近くにいた大妖ならば、最も貢献した大妖はヤミだ。だからこそ彼女が頭でいる。

 そのヤミがわかっていないわけではない。それはわかっている。キリにも、それはよく、わかっているのだ。

 「な、でも、せっかくだからさ、浸かっていけよ」

 キリはゆっくりとヤミに視線を巡らした。

 ヤミの素っ気ない一瞥、その実キリに負担をかけないよう、いかにも興味なさそうに見たヤミを見て、やれやれと首を振った。

 相変わらず、我らの頭にはかなわない。

 「ちょっとだけな」

 複雑に錯綜した感情を抱えながら、ぼそっとキリは呟いて、温泉に向かった。






「よい子のみんな! 『幼馴染に首輪をつけるのもやむを得ない』、楽しんでもらえたかな? 僕も毎週見てるよ! 皆も『幼馴染に首輪をつけるのもやむを得ない』を見て、マルガイ魚肉ソーセージを食べよう! 次回『トウマの怒り! 正義の在り処! 忠義と意志のはざまにある真実!』五本集めてシールを送ろう!」


それでは第5話をお楽しみに!

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