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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第一部 新しい王の誕生(前編)四章 盗賊達
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52─1話 この国の歴史

 舞台は国外へ……ユゼフ視点に戻ります。



 (あらすじ ユゼフ視点)


 婚約儀式のため、カワウ王国を訪れていた王女ディアナに付き添っていたユゼフは、時間の壁が出現し、帰国できなくなってしまう。王女の護衛隊は盗賊に襲われ壊滅。逃走を続けるが、魔国から来た魔物にディアナは誘拐される。ユゼフは盗賊の雇い主であったカワウの王子とその相談役を討ち取り、盗賊らに交渉を申し込んだ。


※その少し前、主国にいるシーマが苦境に立たされていることを知り、グリンデル王国へ援軍要請する文をディアナに書かせている。



(登場人物)


ユゼフ……ディアナ王女の侍従。動物を操る不思議な力を持つ。

アキラ(アナン)……盗賊の頭領。顔に傷がある。

バルバソフ……盗賊の副頭領。熊みたいな大男。

エリザ……田舎貴族の家出少女。剣士。

レーベ……王女護衛隊に随行していた学匠の弟子。生意気な少年。

アスター……元貴族。長い髭をリボンで結んでいる。

 (ユゼフ)


 サチ──醜い鳥はその名前に反応した。


「サチ、サチ、サチ……シンダ、シンダ、モウイナイ……」

「なんだって!?」

「サチ、コロサレタ、シンダ、モウイナイ!!」


 鳥は羽をバタつかせ、興奮して叫んだ──



 

 ここは盗賊たちのアジト。

 居住区のなかで、一番大きな屋敷にユゼフたち部外者は寝泊まりしている。就寝前、ユゼフは与えられた部屋で鳥とコミュニケーションを図っていた。


 ユゼフが盗賊たちの雇い主の首を手土産に訪れてから、数日後──

 王女を助けに行く任務を請け負ってくれるかどうかは、とりあえず保留にされたのである。余儀なく……と言うべきか、ありがたく……と言うべきか、ユゼフは当分アジトに留まることとなった。

 

 鳥籠の中、ギャーッッッ……と叫ぶ醜い鳥はダモン。ユゼフの従兄弟、謀反人イアン・ローズの鳥だ。

 無造作に白、黒、黄が入り交じった羽根は不揃いである。不揃いな羽根を広げると、山羊の角に牙、暗い目をした悪魔の顔が浮かび上がってくる。たちの悪いことに、ダモンは不気味な模様を見せ、威嚇してくるのだ。


「シネ!! コノクソヤロウガ!! ブタメ!! □○☆▲……」


 なぜ、イアンの鳥がここにいるのかというと……

 五首城での戦いのあと、長(ひげ)おじさんこと、アスターが捕獲したそう。

 アスターにこの鳥を見せられた時、ユゼフは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。


「久しぶり……ダモン」

 と挨拶すれば、ダモンはギャーッと一声鳴いて、


「コノオクビョウモノメガ、ヨワムシ、グズ、ノロマ!」

 と、罵ってくる。相変わらず、かわいくなかった。


「醜い鳥だ! きっと飼い主も、こいつにそっくりで不器量に違いない」


 そう言うアスターの評価も然り。飼い主に似るとはよく言ったものだ。まったくその通り。イアンは太ってもいないし醜くもないが、この鳥にどことなく似ている。

 だが、ダモンのおかげで一つ明らかになったことがある。イアンの物であるダモンが、五首城にいたということは──


 ディアナ王女はイアンと一緒にいる。

 おそらく、謀反を起こしたイアンは追い詰められ、時間の壁を越え、ローズ領と隣接する魔国へ逃れた。そして、ディアナを人質にしようと連れ去ったのだ。

 ダモンの姿を見た時、ユゼフは驚くと同時に安心もした。

 なぜならイアンはユゼフの知る限り、女性の前では紳士的だったからである。同性の前では、あれだけ横暴なのに女性には優しかった。

 だから、イアンがディアナを連れ去ったのであれば、丁重に扱っているはずだと思った。



 ユゼフは(えさ)を手に載せて与えた。ダモンは夢中でそれをついばむ。ギブアンドテイク。持ちつ持たれつだ。

 慣れないうちは、手を出せば血まみれになったものだった。罵声を浴びせてくるだけで、ろくに食べもしなかった。ここ数日でだいぶ慣れてきたのである。たいていの動物はユゼフに懐くが、ダモンはイアンにしか心を開かなかった。

 ユゼフは毎日、ダモンから情報を聞き出そうと、餌で機嫌を取ったり、歌ってやったり、昔話をするなどして警戒心を解いていった。少しずつ、少しずつ……信頼を積み重ねる。


 努力の甲斐あってか、ダモンはイアンの状況を少しずつ話すようになってきた。

 瘴気に覆われていない妖精族の村が魔の国には点在しており、そういった場所にイアンたちは身を潜めていると思われる。

 「クロイシロ」とダモンは表現していたので、城のような大きな建造物にいるらしい。

 ディアナがさらわれた時の状況からして、魔族が関係しているのは明らかだ。だが、どういった経緯で亡命し、魔族の協力を得たか、ダモンの話から推測するのは困難であった。言葉をつなぎ合わせて考えるしかない。


「ダモン、イアンを助けたいんだ。教えてくれ。イアンは今、誰といる?」

 餌で機嫌が良くなったところに、ユゼフは質問した。


「なら、ウィレム・ゲインは?」


 ダモンはすぐには答えず、モゴモゴと口を動かしている。イアンを彷彿とさせる丸い目で、いったい何を考えているのやら……太った体を揺らすと不揃いな羽根が落ちる。

 ユゼフは知っている取り巻き連中全員の名前を言ったが、ダモンは反応しなかった。


 ──まさか、一人ってことはないだろうが……


 生まれついての殿様気質であるイアンが、一人で行動するとは考えられない。必ず誰かが隣にいるはずだ。

 なんらかの方法で壁を通り抜け、魔国内に安全な場所を見出だし、魔物を操って王女を誘拐した。

 そばにいるのは切れ者と思われる。最近家来になった奴か。思い付く名前はどれもピンとこなかった。頭が良くてイアンの信頼を得ている人物といえば……


「サチってことは……ないよね……」


 ユゼフは思わずつぶやいたのである。言ってしまってから、(かぶり)を振る。サチが謀反に加担するとは考えられない。血を流す反乱など、正義漢のサチは断固反対するはずだ。

 借りがあるとはいえ、サチはイアンを嫌っていた。命を張ってまで助けようとはしないだろう。

 それなのに、ダモンはその名前に反応した。


「サチ、サチ、サチ……シンダ、シンダ! モウイナイ……シンダ、シンダ、シンダ、シンダ!……オレノセイデ……コロサレタモウイナイ!!」


 ダモンは羽をバタつかせ、興奮して繰り返した。


 ──サチは死んだのか?……嘘だろ?……信じられない


 澄んだ黒い瞳を思い出すと、戦慄が走った。


 ──彼のような人は死ぬべきではない


 もし本当に死んでいたとしたら、この戦いは正しいのだろうか? これからしようとしていることは?

 考えもしなかった疑念が、ムクムクと頭をもたげてくる。夢物語のようだった壁の向こうが、現実として突き付けられる。

 正しき者や弱き者を殺し、天下を得たとしてその後は? その後はどうなるのだろう? 国を良い道へ向かわせることは、できるのだろうか?

 ユゼフは初めて、自ら加担したことの重みを実感していた。

 左腕の傷痕を服の上から触ると、シーマの言葉が蘇る。


「俺が間違ったことをしようとした時は、はっきり言ってくれ。必ず耳を傾けるようにするから」

 この戦いが間違いだとしたら、シーマを止められなかった自分にも責任がある。


 ──どちらにせよ、もう元には戻れない。俺も、シーマも、イアンも、サチも……


 腹が膨れたダモンは喉をゴロゴロ鳴らしながら眠り始めた。いい気なものだ。


 ──死んだと決めつけるのは早計だ。ダモンは物事を正確に把握できないし、きっと何かの間違いだ。イアンのことは、また明日も聞いてみよう。そんなに急がなくてもいい。まだ、時間はあるんだから


 ユゼフは自分に言い聞かせ、ベッドに横たわった。寝ようとすると、今度はいろいろな思いが湧き上がってきて悶々としてしまう。

 ふと、脇机に置いた歴史書が目に入った。

 手のひらに収まるサイズなのに案外ずっしりしている。小ぶりな辞典といってもいいだろう。気を紛らわすため、ユゼフは手に取ってみた。

 この歴史書はシーバートが死ぬ間際、ユゼフに残した物だ。たしか義母(はは)から預かったと言っていた。

 

 黒い布張りの厚表紙は所々破れていて古臭さを感じさせる。

 中には古代語がぎっしりと記されていた。勉強嫌いはこれだけでも投げ出しそうだ。ユゼフは読めないこともない。どこか惹かれるものを感じ、古代語は独学で勉強していた。


 ──なぜだろう? この本は自分にとって大切な気がする。


「あなたは人間ではない……」

 シーバートは死ぬまえ、そう言った。あとの言葉は聞き取れなかったが……

 

 ──この歴史書が俺の出自に関係しているのだろうか?


 人の気を読んだり、動物と話す、操る能力は自分だけのものだ。ヴァルタンの血は新国民なので違う。実母や妹たちは能力を持っていなかった。亜人の血は間違いなく入っているのだが、そのルーツに関しては何も聞かされていない。

 能力は使うことによってどんどん強くなっている。以前は魔瓶に魔物を封じ込めるなんて、想像もしていなかった。

 古びた歴史書に、不思議な力とシーバートの言葉の謎を紐解くヒントがあるとしたら……

 怖くて開けなかったページをユゼフは恐る恐る開いてみた。

設定集ありますので、良かったらご覧ください。

地図、歴史、人物紹介、相関図、時系列など。


「ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる~設定集」

https://book1.adouzi.eu.org/N8221GW/

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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる設定集

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