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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第二部 イアン・ローズとは(前編)五章 シオン王子の行方
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82話 流血(サチ視点)

(サチ)


 ローズ城まで来て、門前払いされると思った。だから、正門の衛兵がすんなり通してくれて、サチは拍子抜けしてしまった。



 ──正気の沙汰じゃないよな。ここの主に過去二回も命を狙われてる。その敵陣に一人で殴り込むんだからな



 少し後悔もしたが、どうでもいい気持ちに流された。失恋のダメージは、サチを投げやりな気持ちにさせていたのである。


 主殿の玄関で待たされることしばし──


 高い天井には巨大蜘蛛と戦う魔王の絵が色鮮やかに描かれている。きらびやかなシャンデリアに細やかな装飾が施された窓や柱。床にはきっちり整えられた石が埋め込まれ、美しい幾何学模様を作っている。


 石造りのローズ城は薔薇が咲かなければ、地味なイメージだが、内装は豪華である。ただ、派手なだけでなく、品もあるのだ。


 懐かしかった。二年もの間、サチはこの城に仕えていた。サチはこの城が好きだった。


 玄関には飲み物を置くための小さなテーブルが置かれてある。一つだけの花瓶に活けられた水仙が揺れる。



「サチ!!」



 見上げると、玄関に通ずる階段の踊り場にイザベラが見えた。黒髪はいつも通りだらしなく垂らしているが、いやに豪華なドレスを着ている。胸元に大きなリボン、レースをふんだんに使い、細かい刺繍が所々に施された空色のドレス。これから舞踏会へ行くような装いだ。


 対するサチは落ち着いた風合いのダブレットに磨いてはいても、履き古したブーツといった出で立ち。客人には見えないだろう。


 頬を紅潮させ、胸を揺らして下りてくるイザベラをサチは睨んだ。


 彼女からフワッと甘い香りが漂った。ランと似たような、若い娘の匂いだ。

 


「サチ、どうして? あの、わたし……」


「どうして嘘をついた?」


「えっ? あ、え?」



 五段くらい抜かして、一番下にイザベラは下り立った。丈の長いドレスを着て、シュタッと飛び下りるのは何気にすごい。忍びの者か。しかし、今のサチにとって、彼女の異常行動はどうでもよかった。



「ランに、俺の婚約者に恋人だと嘘をついただろ? 婚約を解消された」



 イザベラは呆けた顔をしている。怒りをぶつけられることを予想してなかったのか。それとも、とぼけているのか。



「どうして……どうして……いつも俺に嫌がらせばかりする?……いや、わかっている。その理由は……」



 イザベラが口を開くまえにサチは遮った。自分でも声が震えているのがわかる。感情を抑えて話すのは困難だ。



「俺が君の父親を殺したから。そうだろ?」



 イザベラがうなずくのを確認してから、サチは続けた。



「そうだ。言い訳はしない。でも、ずっと俺を見張って、俺の幸せを奪い続けるのが君の幸せなのか? それで、君は幸せになれるのか? お互い関わらない、そうしたほうが君のためにもなるんじゃないのか?」



 イザベラはアホ面のまま、答えない。この女、自分のしたことをわかっているのかと、サチの怒りは増幅した。



「聞いてるのか、イザベラ? 俺から奪い続けて、その時は楽しいかもしれないが、永遠に君は幸せになれないぞ?」


「……るさい……」


「え? なんつった?」


「うるさいって言ったのよ! このチビ!」


「……君のほうがチビだろ!」


「グダグダ理屈ばっかこねてんじゃないわよ! わたしは美人だし家柄もいいし、あんたとは違うの! 引く手あまたなんだから!」


「たいした自信だな? でも最大の問題点を忘れてる。性格が悪いということを」


「なんですって!?」



 その後は醜い罵り合いが続いた。サチもイザベラも気が強いから、どちらも決して折れない。大声で争っていたため、何人か使用人が様子を見にきては去っていった。



「人の幸せを妬んで邪魔するぐらいなら、さっさとその自慢の美貌と高貴な家柄とやらで、王族と結婚したらどうだ? ま、無理だろうけど」



 その一言が引き金となり、イザベラはキレた。


 バチィン!!


 耳元でものすごい爆発音がしたと思ったとたん、サチは吹き飛ばされた。


 すぐにはなにが起こったか、わからなかった。背中に硬い石柱がある。ズキズキするのは頬だけでなく、頭もだ。どうやら、柱に頭をぶつけたらしい。額に生ぬるい血が伝うのを感じた。



「サチ、大丈夫? ごめんなさ……」



 慌てた様子のイザベラが駆け寄ってくる。自分がやったくせに、サチの負ったダメージの大きさに驚いているようだ。

 


「ど、どうしよう……頭から血が……」



 イザベラの手をサチは振り払った。口の中は血の味がする。


 

「大丈夫だ。もう俺に関わらないでくれ」


 

 やっと、かすれ声が出た。上衣の袖で鼻と口の血を拭う。サチはふらつく足で立ち上がり、彼女に背を向けた。

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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる設定集

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは! こちらまで拝読しました〜!! サチがお料理していると、なんかだか和んじゃいますね〜(*´ω`*) 癒されます\(//∇//)\♡ 変なことに?首を突っ込まないで、ウチで料理を…
[一言] イザベラ、このまま終わる気がしませんね(;´д`)
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