【余話】ジャメルの戦い①
(ジャメル)
お節介、すぐ兄貴風を吹かす。仕切りたがり屋。馴れ馴れしい奴……自分が周りからどう見られているかは、わかっている。
ジャメルは四人兄弟の一番上だった。だから、なにかと人の世話を焼きたくなってしまうのだ。嫌われようが、こればっかりはしようがない。
じつのところ、戦死した父親は騎士だった。領地は持たずとも、そこそこ名を馳せた。育ちは悪くない。
母はすでに亡くなっていたので父が亡くなったあと、ジャメルたちは孤児になった。唯一の救いは弟妹たちが全員親戚に引き取られたことだ。亜人であるジャメルをのぞいて……
ジャメルは顎まで伸びた黒い巻き毛を撫でた。もう少しで夢にまで見た晴れ舞台だ。円形舞台の端で名前を呼ばれるのを待っている。試合開始まであと少し。
爆発事故のせいで遅れてしまったが、予定通り試合が再開され、本当によかった。クリープに連れて行かれたサチが気がかりではある。
あの後……
ジャメルはグラニエに闘技場の外へ連れ出された。
闘技場があるのはカワウとの国境近くの土漠だ。見渡す限りの荒れ地である。闘技場は真っ平らな空と地平線に挟まれていた。青空とオレンジ色の地面が視界一杯に広がるさまは絶景とも言える。
四階建ての観客席に囲まれた闘技場を外から見ると、幾つものアーチが並んだ巨大な城に見えた。あるいは、時間の壁に囲まれた我が国の縮図か。
外は闘技場内とは対照的に閑散としていた。ここなら聞き耳を立てられる心配はない。ジャメルは聞かれたことを正直に話した。
グラニエは聞いている間もずっと、厳しい表情を変えなかった。騎士団では最も理知的で道義心の強い上官である。そのグラニエが感情を露わにしている。サチに対して、相当腹を立てているのだと思われた。
「申しわけありません。サチが危なっかしいのはわかってるのに、止められませんでした。友人なのに……サチはときどき無茶をしますが、純粋な正義感からなのです。バカではないんですが、周りが見えなくなって突っ走るというか……とにかくオレにも責任あります! サチだけを責めないでください!」
頭を下げ、懸命にジャメルは弁解した。偉い人に楯突き、陰謀を暴くと大口をたたき、爆発騒ぎまで起こしたのだ。ただでは済まされまい。止められなかった自分も同罪だと、ジャメルは思った。
「試合出場も辞退します! どんな罪科も受け入れる所存です!」
腹をくくって、顔を上げる。
──あれ?
グラニエは口をポカンと開け、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
──オレ、なにか見当違いなこと言ったか?
運良く怒りを和らげるか、火に油注ぐか……どちらかだと思っていたのだ。この反応は想定外だ。ジャメルは困惑した。
すると、グラニエは突然笑い出したのである。
──え? え? なに?
ジャメルはいっそう困惑する。ひとしきり笑い続けたあと、グラニエはすっきりした顔で言った。
「君は真面目だねぇ」
「え? あ? え?」
元盗賊を捕まえて「真面目」はないだろう。ジャメルは言葉を返せなかった。
グラニエの目がまるで父親のようになる。ジャメルのほうは、怒られたあとの子供といったところか。年齢はそう変わらないはずなのに、なんだか恥ずかしくなり、ジャメルは下を向いた。
「ジャメル、君のような友人を持ってサチは本当に幸せだと思う。まさか庇おうとしてくれるとはね。でも心配はいらない。サチのことは私のほうで、なんとかしよう。ただし、さっきの出来事は決して口外してはいけない。わかるね?」
ジャメルは素直にうなずいた。
「モヤモヤするかもしれんが、サチを助けると思って呑み込んでほしい。世の中は不条理だ。謀反人が場内に入り込んで、そうだな……イクリクシー……燃焼系魔術だ。それを発動させた……と、こんな筋書きで口裏を合わせるのはどうかね?」
「……わかりました」
「下手人は上級魔法を使うには未熟で、爆発に巻き込まれて死んでしまった、と。うん、これで上手くまとまった」
「あの、アスター様にはどのような報告を?」
「今、言ったままさ。君も友達を思うなら、余計なことは言うな。なにも見ていない。近くにいただけだと言い張ればよい。君は賢いから、わかるだろう?」
別に賢くなんか……そう言おうとしたが、グラニエは背を向けさっさと歩き始めた。ジャメルは起こったことと今話した内容を整理するので、精一杯だった。
数キュビット進んでからグラニエが振り返る。跳ね上がった口髭に日の光が反射し、キラリと光った。
──なんだろう……この違和感
「なにをぼやっとしている? もう試合が始まるぞ?」
笑いながら言うグラニエを、ジャメルは訝しんだ。
──この人、サチの……ただの上官、だよな?




