3話 アキラの命日(ユゼフ視点)
アスターの言葉が無情な現実を突きつける。
「おい、ユゼフ! なんでおまえをここに呼んだかわかるか? 今日はアキラの命日だ」
そうだ。五年前……紫陽花の月にアキラは死んだのだ。校舎の脇に咲き乱れる青紫の花弁が、ユゼフの視界に映りこむ。爽やかに開いた花弁を見て、まざまざと記憶が蘇ってくる。
カオルを殺そうとしたウィレムに、刺されて……
あの二人の顔は見たくもない。あの二人だけではない。あの場にいたジェフリーも、キャンフィも。たまに彼らと王城内で会っても、ユゼフは知らぬふりをしていた。
「間もなく時間の壁が現れ、カオルたちが五年前の我々を殺しに行く。未来を変えることができるかわからぬが、しないより何かしたほうがいいだろう」
アスターの言葉にレーベ、ダーラ、ラセルタがうなずいた。
「王城内は敵だらけだからな。城下も魑魅魍魎で溢れている。話をするにあたり、レーベも交えたかったし、この場所を選んだというわけだ」
なるほど。ここは選ばれた優秀な者だけが入れる学校だ。参観日に訪れる父兄も、審査を受けてからしか入島できない。
アスターはカオルたちに対して、何か策を考えているのだろう。ユゼフは口を開いた。
「時間移動には魔女のリゲルが必要だ。リゲルの居所はつかめてるのか?」
「それが一番の問題なのだ。神出鬼没だからな? カオルたちとどのようにして、つながったのかがわからない。ユゼフ、おまえのほうは何かつかめていないのか?」
「いいや。ディアナ様を連れ帰った五年前から、リゲルは姿を現していない。ヘリオーティスにいたとか、クレマンティ(前宰相)の屋敷、グリンデル王国にいたとか……転々としてるようだが、足取りがまったくつかめないんだ。何が目的なのか、誰の味方なのか……」
「うむ。見つけたら、必ず引っ捕らえよう。もともとガーデンブルグ王家に仕えていた女だから、王城に現れそうなものだが……」
「姿を変えることも、できるようだ。若く美しい女の時と老婆の姿の時もある」
「あの魔女以外に同じ能力を持つ者はいないのか?」
ユゼフは頭を振った。アスターは黙って聞いていたレーベを見る。
「ぼくも知りません。時間移動者は昔話だと思ってましたから。リゲルの能力はエゼキエル王に準ずるものです。王家に仕えるようになったのは、いつからなのでしょう?」
レーベの問いから浮かび上がるのは、異常性格のあの娘である。
「わからない。クレマンティ家にずっといたそうだ……イザベラがなにか知ってるかも」
「で、そのイザベラは、五年前に置いてきてしまったというわけだ」
ユゼフの言葉をアスターが引き継ぐ。
「本題に入ろう。五年前の悲劇は奴らとの関係悪化が招いたことだ。それで、だ。友好関係を築くため、剣術大会を催そうと思う」
アスターは白々しく提案した。ユゼフは呆れて言葉を失う。カオルたちが騎士団で酷い扱いを受けていることは、ティモールの報告で知っていた。半ばイジメに近いような……
英雄であるアスターの人気は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。騎士団長になってからは、もはや独裁者だ。逆らえる者は誰一人としておらず、アスターに嫌われることは騎士生命を絶たれることに等しかった。
「なぁに、毎年この時期に開催される馬上槍試合をちょっと豪華にするだけだ。税金の無駄遣い? いやいや、経済効果も上がるし一石二鳥だろう。な、レーベ?」
「ええ。良き考えだと思います」
──友好関係だと? 徹底的に打ちのめすつもりだろうが?……もしかして殺す気か?
今まで彼らを泳がせておいたのは、黒幕を特定するためである。が、五年が経過したので、悠長に待っていられなくなったのか。
ユゼフは邪悪な笑みを浮かべるレーベに気づいた。
──そうか……バレないように毒か、魔術を使う気なのだな……試合用の剣は運営が管理するから細工しやすいと。目立つ場で彼らを始末するのは黒幕への牽制か。いや、あぶり出すつもりか
「ユゼフ、悪いな。じつは陛下にもこの話は通してある。陛下は手を打って妙案だとお喜びになられた。それで、私のほうからユゼフに話して、段取りなど決めるようにと……」
「わかった」
途中でユゼフは遮った。こういう茶番はこりごりだ。シーマはそう、シーマなら大賛成するだろう。
ユゼフも反対はしない。他に良い策などないからだ。卑劣なやり方だろうが仕方ない。やるからには率先してやる。シーマの手はもう汚させない。




