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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第一部 新しい王の誕生(後編)三章 眠り王子は目覚める
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33話 彼は気付いてない

 ユゼフたちが真面目に話し合っている間、ダーラ、イザベラ、エリザ、レーベの四人は数十歩離れた所で待機していた。基本、話し合いはユゼフ、アスター、サチの三人で行う。他はクリープやアキラみたいに参加する気がないか、幼すぎるかのどちらかである。


「ダメよ! ダーラ、やめて!」


 イザベラの叫び声に振り返ると、ダーラが走ってくる。ダーラの背後には髪を振り乱し、オーガの形相で追いかけるイザベラが見えた。薄闇のせいで陰影が濃く、おどろおどろしい。なにをそんなに切羽詰まっているのか。今にもダーラは取って食われそうだった。

 獣の速さで風を連れ、ダーラはサチの前に立った。突然、向かい合うことになったサチは瞠目(どうもく)している。


 ユゼフの隣でラセルタが反射的に剣柄を握る。いったい何事かとユゼフも身構えた。瞬間的に懐に入り込まれたのだ。これが敵だったら、生死に関わる。

 敵の目をくぐり抜け、城内へ入り込む相談をしている最中。その城内も完全に安全とは言い切れないため、議論を重ねていた。真剣に話し合っているところに飛び込まれたら、誰だって肝をつぶすだろう。

 しかし、勢いよく登場したにしては、ダーラはニコニコしており、緊張感がなかった。

 

「サチ! イザベラが勇気でないから、おいらが代わりに言う……」

「待って! 待ちなさい!」


 後ろから追いついたイザベラが、ものすごい剣幕で怒鳴った。怖い。空気の読めないダーラを一瞬で萎縮させるほどの迫力があった。くわえて、二人とも常人離れした速さだった。ダーラは亜人なのでまだわかるにしても、イザベラの身のこなしは腑に落ちない。


「……なに?」


 怪訝な顔のサチは、イザベラとダーラの顔を交互に見る。驚異的な身体能力を駆使し、突然やってこられたら当然だろう。なにか重要なことを思い出したのか、敵が迫ってきているのかと思う。


 イザベラは顔を真っ赤にした。乱れた髪に差していた花がホロリ落ちる。丸い花弁からポヨポヨ突き出す花芯が腐葉土の上で揺れた。

 イザベラはダーラの胸ぐらをつかんで、連れて行こうとした。ダーラはイザベラに怯えながらも、納得できず頭を振った。


「なんでもないの! なんでもないのよ!」

「でも、まだ言ってない」


 ダーラは興奮した状態のイザベラに訴える。イザベラが激怒した理由がなんなのか、いまいちわかっていない様子だ。ユゼフたちも、わけのわからぬやり取りを見せられ、困惑する。

 

 状況から察するに、緊急性のある話ではないと思われた。耳のいいユゼフには聞こえていたのだが、イザベラたちが話していたのは誰が好きだの嫌いだの、他愛のないおしゃべりである。ダーラのとぼけた顔や、イザベラの羞恥心むき出しの顔を見て、緊張感は抜けていった。と、同時に沸々と怒りが沸いてくる。

 今は戦地にいるのと同じ。命を狙われている状態だ。幼いからといって、キャッキャッとふざけていいこともない。


「こっちは大真面目に話をしているのだ! おまえたちは、あっちへ行ってなさい!」


 ユゼフの代わりに叱ってくれたのはアスターだった。髭の強面に怒ってもらうほうが効果覿面(てきめん)である。ダーラはいっそう小さくなった。しょげ返るさまは、叱られた子犬と大差ない。

 出会ったころより、アスターのおかげでだいぶ落ち着いたと言えよう。良い意味で躾られている。ダーラの場合、物を知らぬだけで知能は高い。時計の見方も教えれば、すぐ理解したし、読み書きの覚えも早かった。空っぽな脳は、海綿のごとくなんでも吸収する。欲を持たぬ純真さは武器だ。

 アスターはこの獣人を気に入り、そばに従わせるようになっていた。


「ごめんなさい……」


 何はともあれ、尻尾を下げ、耳を寝かせたダーラはイザベラに引っ張られ、もといた場所に戻った。


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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる設定集

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダーラとイザベラの掛け合いが、面白いですね! ところで、今まで朗読アプリの1倍速で読んでいたのですが、黙読で読むようにしました。 少しばかり、読むスピードを上げて行きます(^◇^;)
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