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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第一部 新しい王の誕生(後編)三章 眠り王子は目覚める
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32話 暁の城

アキラの実家、暁城。

保護を求め城内へ入ろうとするが、周りはカオルの雇った傭兵に囲まれていた。


ユゼフ、アスター、サチの作戦会議。

(ユゼフ)


 ユゼフたちは暁城から数百キュビット(数百メートル)離れた位置にいた。仄暗い森で頼りになるのは光の札だ。木に貼った地味な光源は仲間たちをおぼろげに映し出していた。話し合いの中心となる三人、ユゼフ、アスター、サチのそばにラセルタ、クリープが控えている。それ以外の女子供は少し離れた所で待機させた。

 マリクがユゼフの所に戻ってくるまで、思いのほか時間がかかった。その間、暁城はカオルの雇った傭兵にすっかり囲まれてしまったのである。

 赤い舌を出し、つぶらな瞳を向けるマリクの首輪にはアキラからの文が結わえてあった。


 文の内容は「可」と。


 表門と裏門に二十人ずつ。そして城を囲み、等間隔に傭兵が配置されている。全部合わせると、ざっと百人くらいだろうか……

 ユゼフは目を閉じ、気配を読むのに集中した。



「どうだ? ユゼフ?」


 長く続く沈黙にアスターが痺れを切らす。ユゼフは目を閉じたまま答えた。


「……近くに二人一組で四人いる……傭兵は百キュビット(五十メートル)おきに二人ずつ配置されているから、すぐに仲間を呼ばれてしまう」


 出入口付近は傭兵が多くて難しい。(やぐら)の見える西側から入るようにと、城内にいるアキラは伝えてきた。ユゼフはその周りの気配を調べていたのである。


 アキラの文では衛兵に話は通してあると。城壁に縄梯子(なわばしご)を下ろしてくれるとのことだが……


「罠の可能性はないか?」


 サチは冷徹な目をユゼフに向けた。気持ちの揺れなど微塵も感じさせない態度だ。落ち着いている。


「アキラは騙し討ちみたいな卑怯な真似はしない。カオル側について敵対することになっても、事前に話してくれるはずだ」

 

 アスターもユゼフの言葉にうなずいた。数日前、アキラは魔甲虫に冒されたユゼフをグリフォンに乗せて湖へ飛び込んだ。グリフォンには乗り慣れておらず、しかも切迫した場面でユゼフを救ったのだ。そんな奴が仲間を陥れるはずがない。

 ユゼフの横で控えていた子トカゲ、ラセルタが笑い声を立てた。


「さっちゃんはアキラさんのこと、知らないからね。卑怯者や臆病者が大嫌いで正々堂々とした人なんだ。アスターさんみたいに悪巧みを巡らせたりしないから」

「……その呼び方はやめろ」


 サチは苦い顔をしたあと、ユゼフに向き直った。


「あのさあ、俺が聞いてるのはそういうことじゃないんだよ。彼の人間性はどうでもいい。客観的に見て、罠ではないと言えるはっきりした根拠がほしいだけなんだ」


「それは……」


「客観的な根拠がない、ただ彼を信じるだけではリスクが高すぎる。マリクがここにたどり着くまでに文を見られている可能性だって、ないとは言いきれないだろう? あるいは、カオルが弟の筆跡をまねて文を書いた可能性だってある……」


 マリクは使い犬としてよく訓練されていて、嗅がされた匂い以外の相手に文を渡すことは決してない。それに、アキラは櫓の上で見ていると文に書かれてある。ユゼフたちの姿を確認後、縄梯子を下ろすから、気配を注意深く読んで向かえばいい。

 アキラが裏切ってさえいなければ、うまくいくはずだ。サチは用心深すぎる。


「じゃあ、どうしろと言うのだ? 今の我々には、限られた選択肢から選ぶことしかできまい」


 髭をいじっていたアスターが横やりを入れる。サチは何か言おうとして、一旦思いとどまってから、質問した。


「ユゼフ……その、気配を読むというのは知っている人間のことも識別できるのか?」

「いや……はっきりとはわからない……でも、親しい人なら、なんとなくわかるかもしれない。距離が近ければ……」

「アキラの気配はわかるか? どれくらいの距離なら識別できる?」


 ユゼフは考え込んだ。この能力に関して、サチがどのような感情を抱いているかはわからない。懐疑的かもしれないし、能力の先にある「非人間」という答えをとうに出しているのかもしれない。

 何にせよ、人間離れした能力は親友にも知られたくなかった。


「アキラの気配は、なんとなくわかる。だけど、かなり近付かないと……」

「では、こういうのはどうだ? 城壁の上から縄梯子を下ろされたら、誰か一人だけ入り込む。それで、危険がなければ皆で行けばいい」

「その役は誰がやるのだ?」


 アスターが(たず)ねた。


「言い出しっぺの俺がやる」

「もしアキラが裏切っていたら? 衛兵に捕らえられた場合は?」

「すぐに合図がない場合は城に入るのをあきらめて、アオバズクへ向かってくれ」

「おまえはどうなる?」

「逃げ足と悪運には結構自信がある。どのみち、国に帰れば大罪人だ。ユゼフにもらったような命だから、死ぬのは怖くない。殺されたら運がなかったと、あきらめるさ」


 ユゼフが反対しようとした時、口を挟まれた。潜むようにいた無表情クリープだ。


「僕にお任せください。俊敏さには自信があります。僕は連中に命を狙われているわけでもなく、捕えても彼らにとって、なんの益にもなりません。存在感もないですから」

「オレでもいいっすよ。オレは梯子なくても壁歩けるし素早い」


 とラセルタ。

 その時、離れた所で待っていたイザベラの声が響いた。


「ダメよ! ダーラ、やめて!」


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