8話 マリク争奪戦その一(アキラ視点)
(あらすじ)
オートマトンから逃れ、虫食い穴を通ってソラン山脈へ。シーマからの手紙を持った犬を確保するため、アキラたちは五首城へ向かった。
(登場人物)
アキラ……盗賊の元頭領。顔に剣傷がある
ラセルタ……トカゲの尻尾を持つ亜人
ダーラ……狐の尻尾と耳を持つ亜人
グリフォンの着地が成功し、アキラはホッとした。
着地は馬を止める時と同じく綱を引けばよい。スピードが落ちたら、古代語で着地の指示を出し腹を軽く蹴る。そうすれば、ユゼフが躾けたグリフォンは降下してくれた。
アキラたちが降り立ったのは、五首城の屋上である。
崖と一体化して建つ五首城は高い城壁に囲まれ、外からは内部を窺うことができない。鋸型の胸壁に囲まれた主殿の屋上は、三階建ての高さがあるだろうか。主殿と連結する五つの塔が、こちらを見下ろしていた。屋上の東には豪奢な居館が建てられている。その居館の近くにグリフォンは着地した。
アキラたちが降りると、グリフォンは突風を起こし空中へ舞い上がった。そして、モズの方角を目指して飛び去ってしまった。
「ユゼフ、大丈夫かな?」
「今、話すことじゃねーだろ」
不安そうな声を出すダーラに、ラセルタが腹立たしげに答える。
「でも、いっぱい血が出てたし……」
ラセルタが怒鳴りつけようと息を吸いこんだところで、アキラは間に入った。
「大丈夫だ。アスターがいる。レーベとイザベラも手当てができる。マリクを早く探そう。ダーラ、獣の匂いはするか?」
ダーラは目を細め顎を上げて、匂いをかぎ分けるのに集中した。聖水の効力が消え、狐の耳と尻尾が出ている。ラセルタも同じく角とトカゲの尻尾が生えていた。
「なにか、いい匂いがする……」
「いい匂い?」
ラセルタがクスリと笑った。
「香水の匂いだ」
ヒュンッ……
空を斬る。硬く鋭い金属だ。つぎに響くのは刃と刃がぶつかり合う音──
ダーラが言ったのとほぼ同時、背後から襲ってきた男の剣をラセルタは受けた。
まっすぐな黒髪を背中で束ねている。袖口に繊細な刺繍が施されたジュストコールをまとい、よく磨かれたブーツを履いていた。
貴族らしい風体の青年は勢いよく剣を突き出してくる。鋭く長い細剣だ。
「止まれ!」
アキラは男の背に剣を突きつけ、動きを止めた。ラセルタが鼻で笑い、尋ねる。
「いかにも貴族様って感じだな? いい匂いってのはこいつのことか?」
「……ちがう……もう一人いる!」
ダーラが訴えるなり、アキラの頭上から斬りかかってくる影が見えた。すぐ背後に建つ居館の二階から……落ちてくる!
アキラに襲いかかったのは、鶏のトサカのような髪型をした男だった。両手に一本ずつ片刃の剣を持ち、凄まじい速さで斬りつけてくる。
危ないところで剣を受けると、間断なく激しい打ち合いになった。
──双剣か
アナン家の剣術指南役から、アキラは聞いたことがある。一つの剣を二つに割った造りの刀剣があると。これを両手に持って戦う。戦うのは初めてだ。
──速い……強い
男の剣撃は速いだけでなく、力強く重たかった。一撃受けるたび、柄を握る手に痺れるほどの衝撃が走る。
もう一人の貴族風の男はラセルタに襲いかかり、ダーラはラセルタを援護した。
少時、火花を散らし激しく打ち合う。
アキラ、ダーラ、ラセルタの三人は背中合わせに二人の刺客と対峙した。
「ジェフリー! てめぇ、軽率にも敵の前に姿を現すたぁ、どういうことだ!?」
鋭い視線をアキラたちに固定し、トサカ頭が怒鳴った。しゃがれたガラガラ声だ。黒髪の貴族がそれに答える。
「貴公の姿が館の窓から見えたから襲いかかったまで。二対三であれば容易い。亜人のガキ二人は数のうちに入るまい」
トサカ頭は舌打ちをした。
「でも、こいつら見かけより使えるぜ……それに、どこかで見たような……」
「一人はアスター様の従者だ。もう一人も見たことがある……貴様ら、亜人だったのか……?」
ジェフリーと呼ばれた身なりのいい貴族が目を見張る。どうやら、ラセルタとダーラのことを言っているらしい。トサカ頭は地面に唾を吐いた。
「顔に剣傷のある男も見たことがある。ごく最近見た顔だ。ムカつく顔だぜ」
「だが、これでわかった。こいつらはシーマが放った刺客ではない。この時代のユゼフが遣わした者たちだ」
ジェフリーが言うと、トサカ頭はニヤリとする。
「ひとまず、安心といったところか……一人殺さずに残そう。ユゼフ様の居場所を聞き出すために」
「了解」
ジェフリーは答え終わると、今度はダーラに斬りかかった。ダーラはすんでのところで避け、そのまま獣のように四つん這いになる。あっという間に居館の中へ姿を消した。
「あいつ、犬を探しに行ったぞ! 追えよ、ジェフリー!」
トサカ頭がアキラの攻撃を避け、後ろに跳びながら叫んだ。




