表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第一部 新しい王の誕生(前編)六章 魔国での戦い
121/914

112話 アスターとみんな③(アスター視点)

 ジャメルを見つけたアスターは、他のリーダー格、カレンとビジャンを呼ぶように命じた。

 エルフ族の特徴である尖った耳のジャメルは、アスターのお気に入りだ。読み書きできぬ者が多いなか、魔族語も多少わかり、機転も利く。礼儀、マナーをわきまえているところも気に入っていた。


 やがて、ジャメルがビジャンを連れてきたので、アスターは二人から報告を受けた。もう一人の隊長、囚われたアキラの代わりに五番隊を率いるカレンは行方不明だ。


「戦死者は五名、それと瘴気しょうきにあたってせっていたベフナムが死んだ。バーバクも相変わらず高熱で意識がねぇ。ユゼフの血を飲ませたんだが、効果あんのかどうか……負傷者は十二名だ。ユゼフの血を飲み、回復したから命に別状なし、だ」


 ジャメルの報告にアスターは満足した。戦死者の数は思ったより少ない。王女を逃がしたことで、目的はほぼ達成した。

 ホッと安堵の溜め息をつきそうになるも、呑み込んだ。まだ城内に仲間は残っているし、後始末がある。

 次に坊主頭のビジャンが口を開いた。癖なのか、剣傷のあるほうの右目を細めている。


「突撃するまえから、隊長のカレンが見当たらなかった。しょうがないので、代わりにオレが皆を指揮した……それと、ユゼフが首をねた女の魔人の胴体が見当たらない」


 先鋒隊が黒獅子に攻撃を仕掛けたあと、カレンとビジャンの隊は東から攻め入り、敵勢を湖へと追いやった。


「カレンのことは気になるな……レーベ、魔人は首がなくても動けるのか?」


 アスターは(かたわ)らのレーベに尋ねた。レーベはアスターがうろついている間、ケガ人にユゼフの血を与えていたが、今は戻って付き添っている。


「個体によりますが……切られた部位を再生させる種族は珍しくありませんし、脳ではない場所に自意識を置いている場合もありますから……首なしの状態で逃げた可能性は高いですね」

「ふむ……魔人を倒すときは心臓を貫いて、必ずトドメを刺すよう周知させよう」


「もう攻撃は終わりかな……」

 

 ジャメルのつぶやきに、アスターは首を横に振った。


「今のところ、攻撃はやんでいるが、連中の手のうちはベールに包まれたままだ。村を全滅させた魔甲虫やアンデッドはまだいるはずだし。それに、あれだけの魔物を操る主導者がいる。化け物以上の化け物に違いないだろうが、そいつを倒すまでは安心できまい」

 

 アスターは乱れた髭を整えた。アスターにとっては、髪より重要な身嗜み要素である。


「とはいえ、王女はすでに逃がしたし、すぐに攻撃してこないということは、敵にとって予想以上の反撃だったわけだ。我々がここに長居する理由はもうないのだが……」


「頭領と副頭領がいない」

 

 ビジャンが感情を込めずに言う。

 魔人に育てられたビジャンは、成長期にすべての感情を奪われているから、つねに無表情だ。

 アスターは声のボリュームをあげて反応する。


「そうだ! それが問題なんだ!」

「オレはアスターが頭領でも構わないぜ」

 

 と、ジャメル。アスターは拒絶した。


「冗談じゃない! おまえら、ガキのおりは、もうコリゴリなんだよ! とにかく、あの馬鹿二人を連れ戻さないと……」


 アスターが心底嫌そうな顔をしたので、ジャメルは肩をすくめた。いつからいたのか、トカゲの亜人ラセルタが会話に入ってきた。


「もう、勘弁してくださいよ? アスターさんが頭だとか、最悪なんすけど……」

「入ってくるな! クソガキが……ケガ人の手当てでもしてろ」

 

 アスターはシッシッと手で追い払った。

 この子供は自由過ぎる。大人をナメているふしがあり、言葉使いや立ち居振る舞いがよろしくなかった。捨て子だから仕様がないとはいえ、アスターはいちいち注意したくなってしまうのだ。

 ラセルタは口をへの字に曲げ、向こうへ歩いていったが、途中で振り返り舌を出した。

 無視して、アスターは打ち合わせを続ける。

 

「で、残っている気球は何基だ?」

「二基だけだ。行方不明のカレンも入れると、生き残りは四十五人。半分も乗れねぇ」


 王女を乗せているのが一基、人面鳥の大群を倒すため、爆破した気球が一基、畑に墜落したもう一基は気嚢が燃えてしまい、使い物にならない。


「アキラたちの不時着した気球は使えぬのか? 村からそんなに離れてもいまい」

「鳥に穴を開けられただけだから、修理すればなんとかいけるかもしれないが……詳しい奴に見てもらわないと、なんとも……」

 

 ビジャンが答えた。


「一隊、気球の回収に向かわせろ。残った奴らはケガ人を優先して気球に乗り、まだ西風が吹いているうちにここを離れろ」

「アスター、回収した気球が使えても三基だ。一基につき、定員より一人多く乗せたとしても、十二人が残るぜ?」


 ジャメルが横槍を入れる。アスターは即座に計算した。


「残るのはまだ城にいるアキラ、バルバソフ、ユゼフ……レーベもできれば残ってほしい。無理にとは言わんが……」


 子供には負担をかけたくない。アスターはバツが悪くなり、レーベと目を合わせられなかった。

 レーベは嫌そうな顔をするわけでもなく、すんなり承諾した。


「ぼくは構いませんよ」

「ジャメル、ビジャン、おまえら二人もリーダー格だから残ってほしい。カレンはどこに行ったかわからんが、同じく残る組だ。あ、あともちろん、この私も残る。これで八人。あとの四人は適当に決めてくれ」


 ジャメルとビジャンは、うなずいた。


「オレも! オレも! 残りまーす!!」


 戻ってきたラセルタが手を上げる。


「三人だ」

 

 アスターは言い直した。


「それと、最も重要なことを(おろそ)かにしてはいけない。」


 と前置きして、アスターはジャメルとビジャンに言い聞かせた。


「敵の長であるイアン・ローズの首をまだ討ち取っていない。私はこれから城へ向かう。ここは、おまえたち二人がいれば大丈夫だ。私が戻るまえに襲撃を受けた場合は、打ち合わせどおりにやれ。戻ってこなかった場合は、見捨ててもらって構わない」


 ジャメルはビジャンと顔を見合わせた。


「……一人で行くのか?」

「ああ」


 重苦しい沈黙が流れる。アキラもバルバソフもユゼフもいない。事実上のリーダーはアスターだから、不安になるのは当然だろう。

 沈黙を破ったのはラセルタだった。


「オレもアスターさんと行く!」

「おい、遊びに行くのではないんだぞ?」


 アスターは渋面を作った。少年は、ことの重大性を理解していない。幼いゆえの無邪気さは危険だ。


 ラセルタ──トカゲと人間の合いの子みたいな少年は、いつでも愛嬌たっぷりで年長者から、かわいがられていた。が、人懐っこさの反面、行動は突発的。予測できない難点がある。

 また、妙に達観したところがあり、底意地悪いレーベとは違った意味で悪魔的だった。


 ──ガキのおりなどしたくないのに……


「連れて行けば、ラセルタなら、そこそこ役に立つと思うぜ?」


 ジャメルがニヤリと笑う。アスターは「よし」とも「だめ」とも言わなかった。罪悪感を伴う選択は天に丸投げする。

 大きく息を吐くと、


「では、幸運を祈る!」  

 

 その一言を別れの挨拶とした。歩き出したアスターを子供の足音が追いかける。ラセルタだ。

 勝手についてくるから仕方がない。勇気ぐらいは認めてやってもいい。

 アスターは、ラセルタのあどけない顔を見て思う。


 ──情けなんぞ、持ち合わせてないからな? 勝手についてこられても、助けはしないぞ?




「アスターさん、待って!」


 丘の麓まで来ると、息を切らせたレーベに呼び止められた。


「これ!」


 レーベは赤い液体の入った小瓶をアスターに差し出した。


「ユゼフさんの血。何事もなかったかのように振る舞ってるけど、あなたは重傷者です」

「必要ない」

 

 レーベは頭を振った。


「飲んでください。みんなのためにも」

「みんなのため?」

「あなたが死ねば、みんな不安になる。この計画の中心人物が今、全員敵の居城にいるんです。本当は無理してるんでしょう? みんなの前では、なんでもないフリをして……ぼくは傷を見たからわかります。命を粗末にしないでください」


 アスターはムスッとしたまま、レーベの手から小瓶を奪い取った。そして、一気に飲み干した。


「これで満足か?」

「ええ」

 

 レーベはニッコリ微笑んだ。

 純真な笑顔はいつもの小馬鹿にした笑い方とは異なっていた。ゆえに、疑念と後悔がアスターの心に湧き起こってしまった。


「ユゼフの血はまだ残っているのか?」

「いいえ」


 ──最後の……飲んでしまったではないか!


 一縷の望みをかけて、尋ねてみる。


「……他の亜人の血ではダメなのか?」

「森のアジトにいた時、亜人全員の血を採取して調べました。ケガの回復に効果があるのは、ユゼフさんの血だけです」


 なんたることか……残り一瓶を、死んでもいい自分が飲んでしまった……。


「学匠たちの間では、魔人の血は回復に効果なしとされています。無学な民が生んだ迷信だと。ぼくもの当たりにするまでは、信じられませんでした」


 小瓶をレーベに無言で返し、アスターは丘を登り始めた。追いかけるラセルタは無視する。

 数歩歩いてから立ち止まり、アスターは見下ろした。丘を下っていくレーベの背中が見える。華奢な肉の付いていない背中……


「レーベ! 死ぬなよ!」

 

 自然と言葉が口をついて出た。レーベは振り向かずに、そのまま下りていった。

この後、カットしたバルバソフ視点↓↓

https://book1.adouzi.eu.org/n8133hr/29/


アキラ視点↓↓

https://book1.adouzi.eu.org/n8133hr/30/


https://book1.adouzi.eu.org/n8133hr/31/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不明な点がありましたら、設定集をご確認ください↓

ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる設定集

cont_access.php?citi_cont_id=495471511&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] レーベはニッコリ微笑んだ。  この純真な笑顔はいつもの小馬鹿にしたような笑い方とは違った。ゆえに見たとたん、疑念と後悔がアスターの胸に湧き起こってしまった。 ……引用失礼します。 こ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ