92話 自己紹介
(あらすじ)
さらわれた王女を助けるため、魔国へ行ったユゼフと盗賊たちだったが……
イアンの鳥ダモンに導かれ、とある廃村にたどり着く。そこで、黒獅子の襲撃に遭い気球は墜落。死者を一名出してしまった。原因は戦闘に参加できなかった三人にある。
アルシア、ダーラ、ファロフ、この三人をアスターが指導するというので、ユゼフはアスターの天幕へと向かった。
バルバソフの天幕を出て、ユゼフはアスターのいる天幕へと向かった。
窓のない家は、アンデッドの腐臭がこもっているので使用したくない。結局、村にある材料を使い、隊ごとに天幕を張っていた。
ユゼフが姿を現すと、アスターはすでにアルシア、ダーラ、ファロフの三人を前に座らせ待っていた。
「遅いぞ。とにかく適当に座れ」
天幕の隅では、アスターの隊の面々が様子を見守っている。レーベはいない。
緊張した空気ではなく、問題のあった三人も胡座をかいたり、膝を立てて座ったり、それぞれ楽な姿勢でいた。
皆、十代後半か二十代前半の若者である。
三人のうち、アルシアだけは普通の人間。筋骨隆々として身体能力が高い。狐の耳と尻尾を持つ獣人はダーラ。緑色の髪のファロフは下町にいる不良少年といった風体だ。
「まず、先ほどのアンデッド退治、ご苦労だった」
ユゼフが空いているクッションに腰かけるのを見届け、アスターは口を開いた。
「おまえたちは先頭に立って、よく働いた。そのおかげで、我がチームは感染者を一人も出さずに済んだ」
アスターは一人一人の目を見て話した。
「アルシア、おまえのサーベルは強い。アンデッドの首を的確に……何回か打ち損じも、あるにはあったが……すばやく、多くのアンデッドの首を飛ばしたのは見事だった──ダーラは戦いながらも、仲間のことをちゃんと見ていたな? アルシアが討ち損じたアンデッドを仕留めていた──ファロフは冷静にタイミングを見計らって、火をつけていた。アンデッドが次々に襲いかかるなかで、全体的な攻撃を想定し、行動するのは容易ではない……」
アンデッド退治の時、アスターは彼らの戦いぶりを観察していたのだ。
褒められた三人の表情が和らぐ。
「三人ともよくやった! 戦いぶりは九十五点といったところだ。だが、自らに課題を課さないと成長しない。よって、残り五点分の課題は自分で見つけて鍛錬せよ」
意外だった。
アスターのことだから、激しい怒号を浴びせるものとばかり、ユゼフは思っていた。それがまず、褒めることから始めたのである。
「話をするまえに、おまえたちのことを知りたいと思う。一方的に自分のことを聞かれるのは嫌だろうから、先に私自身のことを話す」
アスターはいつも見せる鋭い目つきとは異なり、優しげな視線を三人へ向けた。
「名前はダリアン・アスター。王国歴二百七十八年生まれ。四十五歳。おまえたちより、ちょっと幼いくらいの娘が二人と……息子が一人いたが……息子のディオンは先の戦争で五年前に亡くなった……」
アスターの話はこのように始まった。
「知っての通り、鳥の王国を追放されるまえはクロノス国王に仕え、王議会の一員として国政に携わっていた……というのも、カワウとの戦争で武功を評価されたからであるが、最も大きな戦績は王子二人の首を討ち取ったことだな……しかし、こんな自慢話を今しても、しょうがない。聞きたければ個人的に来るがよい……」
アスターが自分の話をするのは初めてだった。息子や娘がいたというのも初耳だ。
アスターは大きく息を吸い込み、吐き出してから話を続ける。
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私は内海の小さな島、バム島の領主をしていた。
一応、男爵という爵位を王家から授かってはいたものの、典型的な田舎領主で、おまえたちが想像する貴族社会とは縁のない生活を送っていたよ。
バム島は米の産地。我々はパンではなく、米を主食とする。春は泥だらけになり、田植えの手伝いをした。夏は野菜の収穫、秋になると刈り入れ、脱穀……
領民は私のことを「殿様」と呼んでいたが、平伏されたり、恐れ敬われることはなかった。内海の田舎領主とはそういうものだ。
私は彼らの長だったが、苦楽を共にする仲間でもあった。盗賊の頭領に少し似ているかもしれない。
よく領主が贅沢三昧、重税を課して民を苦しめる話があるが、内海でそんな話はあまり聞かない。内海ではおまえたちのような亜人も鳥人も、めずらしくないし差別もされぬのだ。
私も含めて皆が水に浮かべない旧国民で、エゼキエル王時代から代々、ずっとその地を守って生活してきた。私は島と民を愛していたし、素朴で穏やかな生活に満足していた……
まあ、正直言うと、単調で退屈な生活に嫌気がさすこともあった。華やかな大陸の生活に憧れを抱いていなかったかというと、嘘になるし……それでも、戦争が始まるまでは平和におとなしく暮らしていたのだ……
※※※※※※※
そこでアスターは皆に尋ねた。
「おまえたちはモズとカワウの出身者が多いはずだが、主国(鳥の王国)とカワウの戦争で生活が変わった者はいるか?」
アスターの隊も含め、四人が手を上げる。アスターは静かに目を閉じ、何かを思い出しているようだった。
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カワウと戦争が始まると、島中の若者が強制的に徴兵された。貴重な働き手を失った田畑は荒れ、島の生活は一気に苦しくなった。
私は国王に直訴しようと王都まで出向いたのだよ。大陸では志願兵のみ服役するのに、内海の民は強制。選択権がないのはおかしいと……。
ど田舎の男爵風情が何を言っても、まったく相手にされなかったがな? こんな愚痴話はつまらないだろう。
とにかく私は戦場に出向いて戦功を挙げなければ、何も発言できないと思った。それで軍に志願したというわけだ。
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一人、手を上げる者がいる。
「なんだ、ジャメル?」
ジャメルはアスターの隊の亜人。黒い巻き毛に尖った耳を持つ。妻子がいて、落ち着いた雰囲気だ。
「発言しても?」
アスターはうなずいた。
「オレも戦争で親を失って盗賊になった。カワウの城下町の生まれだ。アスターやユゼフに出会うまでは、主国の連中を皆殺しにしたいくらい憎んでいた……」
そこでジャメルはアスターを見たが、その瞳から怒りは感じられなかった。
「でも、何というか……敵もオレたちと同じというか……理不尽に戦いへ駆り立てられ、命を奪われる……今回の任務に参加した奴らは、オレも含めてそんな現状を変えたいと思ったんじゃねぇか?
政治的なことは、よくわからねぇ。けど、王女を助けることは、金のためだけか? 違ぇだろ? 王子とコルモランの首を持って、ユゼフがアジトに来た時、オレは感じた。何か変わる、変われる気がした。今までの戦いとは違う。何か特別な意義があると──今まで、体験したことのない邪悪と戦うことになるかもしれない。でも、恐怖より自分の意志で戦えることに誇りと喜びをオレは感じる。皆も同じ気持ちだと嬉しい。以上だ。話を遮ってしまい、申しわけなかった」
話が終わるまで、アスターはコクコク首を縦に振っていた。
「ジャメル、話してくれてありがとう。私の自己紹介はこれくらいにさせてもらう。軍に入ってからの話は、皆だいたい知っているだろうから。さあ、おまえたちの番だ。話してくれ」
アスターは促し、独白会が始まった。
アルシア(玉座)
ダーラ(富裕)
ファロフ(幸運)
三人ともペルシャ語で命名しました。盗賊になる前は普通の子供でした。ちょっとしたことで運命は変わります。
この三人の歩む道は過酷ですが、救いもあります。




