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第九章.救いの聖女

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96.聖女エメ

 ジョゼたちを乗せた馬車は、古城から町の方へと降りて行く。一同はジョゼが窓から眺めたあの教会を目指した。


 ルブラン村の教会では、葬儀を終えた喪服の女たちがまだ集まって歓談していた。悲しいはずの葬式を終えたはずなのに、彼女たちの間にはどこか呑気な空気が漂っている。


 急進党の馬車は葬儀の参加者に遠慮して遠くへ停めると、教会に向かって歩き出した。


 葬儀を終えた村人たちは、見慣れない集団にじろじろと視線を投げかけた。ひときわ注目を集めているのは無論、妙に若い女のジョゼである。


 人目をはばかるように一人のシスターが出て来て、先頭のクロヴィスに告げた。


「修道院裏手の入り口からお入りください。ご案内致します」


 なぜか周囲に存在を隠されているような対応だ。ジョゼは男性に交じって歩きながら、奇妙だと思った。


 教会の庭の中の小道を歩いて行く。ふとジョゼが足元を見ると、きらきらと虹色に輝く破片が散らばっている。彼女が脳内でそれの正体が牡蠣であることを導き出している間に、一行は教会の裏口に到着した。


 教会の中は閑散としている。まるでシスターたちが、彼らとの接触を避けているかのようだ。


 誰もいない廊下を歩き、応接間に辿り着く。案内役のシスターが扉を叩いた。


「エメ様、急進党員の皆様がおいでになりました」


 扉の向こうから「お通しして」と声がする。扉は開かれた。


 部屋の奥に、背の低い女性が佇んでいる。


 年の頃は、50代くらいだろうか。グレーの髪をひっつめにし、シスター特有のローブを被っている。女首長とは思えない、柔和な微笑みを浮かべた女性だった。思っていたような〝屈強な〟女性ではないことに驚きを隠しながら、ジョゼはその女性の頭から爪先までをしげしげと眺めた。


「初めまして。私の名はエメ。ルブランの村長でございます」


 男たちは突っ立っているが、ジョゼだけはうやうやしく膝を折って挨拶した。


 クロヴィスが前へ出た。


「初めまして、私は急進党のクロヴィスと申します。今回はお忙しい中、取材の許可を頂きありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。恐縮です」


 エメはそう言いながらニコニコと笑っている。想像をどんどん裏切って来るこのエメという女性に、ジョゼは次第に親近感を覚え始めていた。


 エメは言った。


「皆さま、どうぞその椅子に座ってください。どこへ移動させても結構ですよ」


 壁に並べられている簡易な折り畳み椅子を開き、党員たちは各々の位置を陣取る。


 記者ラウルは顔を見せぬよう被っている帽子を目深にして、部屋の隅でメモを取る。


「では、ご質問を受け付けます。私個人のことでも、村のことでも構いませんよ」


 まるで授業中の生徒のように軽快なノリでパスカルが手を挙げた。


「はいっ、質問よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「まず、村長になるまでのいきさつを教えていただけますか?」


 微笑みのエメはなぜか一瞬、ジョゼに視線を送る。ジョゼはどきりとしたが、彼女は何事もなかったかのようにパスカルの方を見て答えた。


「議会の投票で決まりました。一番票を集めたのが私だったのです」


 当然のごとくそう言い切ったエメに、パスカルは疑問を呈した。


「村の議会は男性で独占されています。それなのにどうして皆、議員でもないあなたにあえて票を投じたのでしょうか?何か深いワケでもあるのでしょうか。そのあたりをよくよくお聞かせ願いたい」


 エメは端的に答えた。


「そうですね……当選してから私なりに考えたのですが、一番は村の病人を多く介抱したことにあると思っております。献身的な姿勢が評価されたのかもしれません。議員でもないし力不足だと言って一度は断りましたが、周囲の説得に負けて今に至ります」


 パスカルは「ほう」と、感嘆とも疑問ともつかない声を出した。


「つまり、あなたは村の功労者である、と……?」

「僭越ながら、皆様にはそう言っていただけました。なのでお受けした次第です」


 パスカルはそこで質問をやめた。


 次にセルジュが手を挙げる。


「〝村人を介抱した〟とありますが……それは常日頃、村人の病の治癒にあたってきたということでしょうか?」

「ええ、そうです」

「それは教会内に医療施設が併設されているということですか?外から見た様子だと、特にそのようには見えないのですが……医療施設などが別にあるのでしょうか?」


 その質問については、エメは笑顔を消して答えた。


「ルブランの泉で治療をします。あの水は、心にも体にもいいもので、神のご加護があるのです。村人はそれを知っていて、病にかかると水を求めに教会にやって来ますよ」


 セルジュはそれを聞き、更に疑問を呈した。


「教会に……?その水は、村人が勝手に飲んではいけないものなのですか?」


 エメは真摯に答えた。


「泉は教会が使用権を持っています。けれど、この村の住民は無料で利用できます。ただしルブランの泉は昼間は観光客用のため、村人は夜に利用することになっているのです。夜の泉は足元が滑って危険なため、管理者である私たち修道女が共に参ります」


 思わぬ情報がもたらされ、議員たちはざわついた。


「では、その水を飲めばあらゆる病が治るということですね?」

「私たちは遥か昔に泉に現れた天の使いを信奉しております。ですから、そのように信じています」

「村に病院はありませんか?」

「ルブランには、ございません。泉の力を借りずに治療したい方がいるとすれば、隣の市まで行かないと病院はありません。都会の病院は莫大なお金がかかるので、無理に行く方は余りいらっしゃいませんね」


 セルジュは怪訝な顔で黙ってしまう。


 エメは言った。


「はい、次の方」


 その次に手を挙げていたのは──ジョゼだった。

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
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