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第九章.救いの聖女

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92.ルブラン村へ

 それから二週間後。


 三台の馬車が連れ立って海沿いの道を走っていた。潮の香りが馬車の中まで漂い、頭上をカモメが群れを成して飛んで行く。


 先頭の馬車にはジョゼとラウル──そしてセルジュが乗っていた。


「急進党の女性参政権推進派が世にも珍しい女性首長からその方法を学びたく取材を申し込んだ、というていで依頼してある。ラウルは私たちについてきた番記者という設定だ。勢い余ってしゃしゃり出て来るんじゃないぞ」


 セルジュはそう若い記者に釘を刺したが、既にラウルの鼻息は粗い。


「はいっ。絶対にロランを殺した犯人を捕まえます!」

「……話、聞いてたか?」


 先頭の馬車にはジョゼたち、二台目以降の馬車にはクロヴィスを含めた雑草派の急進党員が乗っている。ジョゼは潮風に吹かれながら、馬車の窓を開ける。遠くに小さな古城が見えて来た。


「ねえセルジュ、あそこに泊まるの?」

「ああ。予約しておいたよ。ラウルの希望通りにね」

「……え?」


 ジョゼが聞き直すと、ラウルが言った。


「ロランが殺された宿というのは、あの古城だ。現場検証がしやすいだろ」


 セルジュが肩をすくめて見せる。


「女性参政権推進派の宣伝をしてくれるというから、テオール側の要望を飲んだぞ。感謝するんだな」

「ロランが泊っていたのはあの古城で一番小さくて一番安い、一階の角部屋なんだ」

「その部屋を番記者用に取っておいた。取材期間中、隈なく調べるといい」


 ジョゼは遠目からもかなり古そうに見えるその城を見て、ぽつりと呟いた。


「へぇ……壊しやすそう」

「ジョゼ……また何か良からぬことを考えてるんじゃないだろうな」

「まあっ、セルジュったら。おかしな言いがかりはよしてよね!」


 二人の会話を遮るように、ラウルが言う。


「えーっと、村に入る前に情報共有をしておきたいんだが、いいか?」


 ジョゼは気まずそうに言った。


「はい、どうぞ」

「ルブラン村には古くから万病に効くとされる観光地〝ルブランの泉〟がある。その泉を代々管理しているのが、例の〝ルブランの聖女〟ことエメ女史だ。ルブラン村では女系社会の中で生まれた土着の宗教〝聖女信仰〟が未だに大きな意味を持ってる。ちなみにルブランは領有していた貴族が最近になって没落したので領民に自治権が渡り、今回のようなことになったそうなんだ」


 ジョゼが疑問を呈した。


「法律的には、女性首長は問題ないの?」


 それについてはセルジュが解説する。


「貴族の領地では男子が途絶えた家は一時的に女性に家督を任せることがあり、たまに女性領主が誕生する。国会議員は男性のみと決められているが、領の自治ということであればそういった法律はないので、女性の首長が誕生しても何ら問題はない」

「ふーん。じゃあ女性は地方議員にならなれるってこと?」

「……参政権を認められていない以上、投票で選ばれることはないはずだ。だが、貴族ならば土地を相続する形で領地の首長になることは出来る。エメが投票で選ばれたとなると、ルブラン村にはもしかしたら独特の自治法があるのかもしれないな。それが一体どういう構造になっているのかは不明だが……」


 ラウルがその謎について答える。


「バラデュール議員。ルブラン村の自治権は、当初は領主に、没落してからは領民に渡ったけど、実は大昔から領主よりも修道院が力を持っていたらしいんだ。村最大の収入源である観光地〝ルブランの泉〟を管理していたのが、修道院だったから」

「そうか。自治権は村人にあれど、権力構造は独特なものがあるんだな」

「その歴史を知っていると、謎が解ける。多分、修道院が貴族的な形で既得権益化しているんだろうな。その力で、修道院側はエメを議会にねじ込んだ……そんなところだと思う」


 ルブラン村に関しては、ロランについて取材をしていたラウルの方が詳しい。ジョゼは気になっていることを尋ねた。


「さっきからラウルが話している〝ルブランの泉〟って何なの?」

「おや?ジョゼは知らないのか。ルブラン村には万病に効くとされる〝ルブランの泉〟が湧き出ている。その泉を代々管理しているのが例の〝ルブランの聖女〟だ。国王の祖先もこの〝ルブランの泉〟で一命をとりとめた歴史があって、一時期は国王の保養地になったこともあった。古くから有名な観光地なんだよ」

「へえ、万病に……」


 ふとジョゼはかつての主マレーネのことを思い出し感傷的な気分になったが、思い直した。


「ふん。万病に効くなんて眉唾だわ」

「俺もそう思うよ。ま、伝説みたいなもんさ」


 深緑のなだらかな牧草地を、海に向かって馬車はひた走る。次第に、生ぬるい潮風がジョゼの頬を湿らせて行く。


(女が権力を握れる方法が、ルブラン村に眠っている……)


 古城が近づいて来るにつれ、議員志望の少女は武者震いをした。




 ルブラン村入口では、既に馬車が渋滞を起こしていた。観光地であることは確かなようだ。しかし、セルジュ及び急進党員はそれに巻き込まれない方法を心得ているらしい。


「街道ではなく、あの脇道を出てくれ。抜け道があるんだ」


 セルジュが御者にそう指示を出すと、馬車は街道を逸れて海へと走り出した。

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
― 新着の感想 ―
「ルブラン」という名を聞くだけで、推理小説ファンのオラはワクワクすっぞ!
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