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第七章.真夜中の幽霊騎士

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83.危険な女

 その頃、セルジュは議会を終えてバラデュール邸に戻って来ていた。


 ジョゼが事件を解決したと御者から聞き、父の顔が見たくなり、いてもたってもいられなかったのだ。


(きっと父は、ジョゼをただの女ではないと認識しただろう)


 セルジュにはそのような確信があった。


 玄関に入ると、すぐに執事が彼に声をかけて来た。


「セルジュ様。ダヴィド様が書斎でお待ちです」


 言われた通り、彼は軽やかな足取りで父の書斎に入った。


「父上。ただいま戻りました」


 ダヴィドは何やら考え込むような顔で頷く。やはりだ。どうやらいつもとは様子が違う。


「セルジュ、そこに座れ」


 二人は相対した。


「あの、ジョゼという娘だがな……」


 早速その話題が出て、セルジュは期待に前のめりになる。


「彼女は普通の女性じゃない。父上もここ数日で、そのあたりをよく理解されたことでしょう」


 ダヴィドは深く息を吐くと、降参するように頷きながら続けた。


「……だが、お前はあの女に、異性として惚れているわけではあるまい?」


 セルジュは目を点にする。


「……は?」


 ダヴィドは何かを諦めるように椅子の背にもたれた。


「あれは、王だ。王の気質をそなえている。覚えておけ、お前は決してあいつの恋人などではない……王に従属する従者に過ぎん」


 セルジュは父の言わんとしていることをようやく理解した。


「それは……確かにそうです。彼女はただの娼館の主で終わる女ではない。私は彼女を、もっと広い世界に出すべきだと思っています」

「そうか。お前が自分とあの少女の関係性をそのように理解しているのなら大丈夫だろう。別にあの娘を嫁にするつもりがないなら、ずっとそばにいてやるがいい。だがな……ジョゼをバラデュール家の身内にすることは許さない。この意味が分かるか?」


 そう問いながら、ダヴィドは息子に鋭い視線を投げかける。セルジュは一瞬ひやりとしたが、


「ジョゼはどこかの嫁に収まっているような格ではない……ということですか」


と問い返すと、ダヴィドは静かに頷いた。


「ああ。彼女の行動は既に社会に影響を与え始めてしまっている……つまり、王族や貴族にとって危険な存在になっているのだ。セルジュ、お前が彼女専属の騎士になりたいと言うのなら止めはしない。だが、ジョゼを正式にうちの嫁にすることはまかりならん。彼女のまき散らした火の粉が、バラデュール家を燃やす予感しかしない。何はともあれ、もう私はお前を縛ったりはしない。お前はあの娘と自由にやるがいい」


 セルジュは父の意外な見識の鋭さに驚きつつも、理解を示した。


「自由に……分かりました」

「まあ正直なところ、あのおてんばから首輪を外して放置しておくのはおっかないからな。お前が監視役を担えるというのなら、適任だろう」


 セルジュは肩をすくめて笑った。


「……はい」

「彼女は多分、頼れる人間がいない。大人を相手する手前賢しらにしてはいるが、社会の中で誰かを頼る経験が浅そうに思う」

「……」

「早く独り立ちをしなければいけない理由でもあったのだろう。子ども時代を奪われて、大人になり切れていないようだ。私もあの手合いはよく見て来た。ああいう世間知らずのすれっからしは貧民からのしあがって来た下士官に多い。ああいうのは概して敵を作りやすいから、お前が面倒を見てやればよかろう」


 セルジュは父をまじまじと見つめた。ジョゼを語る父は、部下を慮る上官の顔をしている。


「彼女は、特別な意志の強さがある。それに、既存の何かをひっくり返す力を持っている。そういった人間は敵を作りやすい。お前はそこに惚れ込んだんだろうが……そばにいると危険だ。それだけは忠告しておこう、私も何だかんだお前の親なのでな」


 しかし以前より、ダヴィドから彼特有の女を軽んじる気配は消えていた。


(やはり、ジョゼには人を変える力がある。あの頑固な父をも変えた)


 セルジュはその事実に心躍らせながらも、父に言われたことを冷静に捉え直す。


 従者。


 確かにその通りなのかもしれない。


(いや、いい。何を言われても、私はなるべく長くジョゼのことを近くで見ていたい)


 セルジュは父の書斎を出ると、再び馬車に乗り込んだ。


「リロンデルまで出てくれ」


 日が落ちて来た馬車の外を眺め、セルジュは妙な焦りを感じていた。




 その頃、王都中心街、リロンデルでは──


「お待ちしておりました、マシュー様!」


 あの日宴に乗り遅れたマシューが、従業員を引き連れて娼館リロンデルを貸し切りパーティを開いていた。今日はマシューの連れて来たコックが料理を提供している。


 ジョゼが話し相手になっていると、アナイスからこっそりと肩を叩かれた。


「ジョゼ、ちょっと」

「……どうしたの?」

「裏手にセルジュが来ているわよ」


 ジョゼは首をひねった。


「え?今日は特に何の約束もしてないけど?」

「追い返しちゃうの?」


 その問いにジョゼはハッとした。


「……ううん」

「ちょっと顔が見たくなっただけだと思う。行ってあげなよ」


 ジョゼは落ち着かない様子で立ち上がると、アナイスと入れ替わるように娼館の裏手に出た。

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
― 新着の感想 ―
[一言] 流石パパは慧眼ですね( ˘ω˘ )
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