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第七章.真夜中の幽霊騎士

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81.古井戸の底に

「オディロンの死因が分かっただと!?」


 驚くダヴィドに、ジョゼは平然と言った。


「はい。貴族の方々は知らないかもしれませんが……空になった井戸は、危ないのです」


 ダヴィドは更に怪訝な顔をした。


「詳しく教えろっ」

「はい。以前校内で埋めた井戸とやらは、何やらパイプのようなものが突っ込まれてから埋められていませんでしたか?」

「ああ、確かに……」

「あれは、水が湧かなくなった井戸から時たまガスが発生するので、通り道を作ってあげているのです」

「ガス……?」

「種類は色々あります。硫化水素や、目には見えない微生物が繁殖する場合もあります。そのまま埋めると、時たまその毒ガスが爆発することがあるのです」

「そんなことが」

「特に硫化水素は空気より重いため、沈殿します。ネズミが底で大量に死んでいるので、毒が発生している可能性は高いかと。もしそこにオディロンが突き落とされたとしたら、井戸の中で座り込むような形になって死に、あのように死後硬直しても不思議ではないでしょう。というわけで……」


 ジョゼはそう言うと、いいアイデアが浮かんだようにうっとりと微笑んでダヴィドの背中を肘で押した。


「実験してみましょうか」


 ダヴィドはそれを聞くや凍りつく。


「なっ……変な気を起こすのはやめろっ!」


 ジョゼはケラケラ笑ってから眼前で手を横に振り立てる。


「ご安心を。ダヴィド様は突き落としませんよ?」

「ぐっ……からかいおって……」

「けれど、生徒のみなさんには手伝って貰いましょう。現場検証をするのです」


 それを聞くや、ダヴィドの顔は更に青くなった。


「馬鹿なことを言うな!生徒にこれ以上犠牲者は……!」


 そう言ってから、ダヴィドはハッと何かに気づいた。


「犠牲者は、出せない……」

「そうです。この井戸が危ないことを知っているのは、どの生徒でしょうね?」

「むぅ……そういうことか……」


 ジョゼはさも面白そうに歯を見せて笑った。


「一番あやしい奴らから行きましょう。証言者の三名を、ここに呼ぶのです。それから……」


 ジョゼはくるりと寮の方を向いた。


「鎧一式を貸してもらいましょうか」




 井戸の前に、三人の少年が連れて来られた。アンセルム、バジル、レジスの三人である。三人は真っ青になって、大人たちの前に引きずり出された。


 ジョゼとダヴィドは遠巻きにそれを眺めている。ジョゼから事情を聞いているベルナールほか警官が、彼らを取り囲んだ。


「君たちに、実験に協力して貰いたいんだ」


 あらかじめ用意された台詞をベルナールが述べた。


「今から現場検証をする。誰か一人にこの銀の鎧を着てもらって、井戸の底まで入って貰いたい」


 三人は話し合う間もなく、急に怒りを露にした。


「僕たち、疑われてるんですか!?」

「私に何かあったら親が黙っていませんよ」

「警官がやればいいじゃないですか。くだらない!」


 大人たちは困惑気味に目配せし合う。ジョゼがダヴィドを睨み上げていると、彼は諦めたような顔で警官を分け入り、少年たちの前に出て言った。


「君たちがやらなかったら、私がやるしかあるまい」


 場がしんとした。


「この鎧を着て入ればいいのか?」


 ベルナールが虚を突かれたように黙っていると、少年たちはやにわに青くなって騒ぎ出した。


「バラデュール先生がやる必要はありません!」

「だから警官がやればいいんですって!」

「先生、危ないですっ」


 更に場が冷えた。ベルナールが問う。


「ほう?危ないとは、具体的にどのようなところがだ?」


 少年たちは黙っている。


「よし、私が行こう」


 ダヴィドが鎧を着用し出した頃、ジョゼは警官の間を縫って前に踊り出た。


「待ってください、バラデュール先生」


 少年たちの視線が、ジョゼに注がれる。その美しい少女は死神のように白い顔で彼らに近づいて来ると、こう尋ねた。


「あなたたちは、この井戸が危険だと知っているのね?それはなぜかしら」


 少年たちはぎくりと顔をこわばらせると、押し黙ってしまう。ジョゼは更に続けた。


「埒が明かないから、答え合わせをするわね。この古井戸の底には毒が充満しているの。だからあなたたちは今、先生を必死になって止めている。そうなんでしょう?」


 三人の顔が絶望に歪む。それを認めて、ジョゼは静かに語り出した。


「銀の鎧を着せられたオディロンはそれを知っていたあなたたちによって、ここに突き落とされたの。井戸は狭いから、人が落ちると体を曲げたままになってしまう。そのままオディロンは死んで……あなたたちは釣瓶を使いどうにかオディロンを引き上げたまでは良かったものの、遺体の足と背中が曲がったまま硬直して戻らなくなってしまったのよ」


 三人は黙ってうなだれている。


「学校と寮の往復で死体を埋める時間もないし、井戸に放置しておくわけにも行かない。大騒ぎになりますものね。そこであなたたちは、馬に硬直したオディロンを乗せた。そして必死の浅知恵を使って馬に薬を飲ませ、暴走させたの。オディロンが落馬して死んだと思わせるため──けれど、馬は思わぬ動きを見せた。学校を飛び出してしまい、あなたたちはそれを見失ってしまった」


 ふと、こらえ切れないようにアンセルムが問う。


「どうしてそれを……」


 レジスがそれを咎めて「おい!」と叫ぶ。ジョゼは平然と嘘をついた。


「目撃者がいたのよ」


 するとバジルがパニックを起こして叫んだ。


「……あれは故意じゃない!事故なんだ!」


 それを聞いたジョゼは片眉を上げる。


「……事故ですって?」

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
― 新着の感想 ―
[一言] ホントに事故か?( ˘ω˘ )
[良い点] 小わっぱどもめ、チョロすぎるやろ(笑) あ、ジョゼ警部、お疲れさまっす!
感想一覧
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