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第六章.ノールの毒殺農園

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65.殺意の花束

 ルフォール邸の食堂においてベルナールや警官たちも交えて小さな食事会が催された後、警官隊は屋敷の捜索に入った。ジョゼだけがアトスに呼ばれて応接間に向かう。


「ノールのことなんだけどね」


と、使用人に紅茶を用意させながらアトスは切り出した。


「私は彼女が本当は何を欲しているのか知りたいんだ。彼女はいつも私を適当にあしらい〝貴金属が欲しい〟っていう話しかしないんだけど、それだとまるで教祖と信者の関係みたいで落ち着かない。私は彼女の心の奥底に一度でいいから触れてみたいんだ」


 ジョゼは彼の真剣な話し振りに胸を打たれた。しかし同時に、これは負けが確定している恋愛でもあると思う。「あの子が欲しいものは王の首です」などとは口が裂けても言えない。


 彼女が二の句が告げずに困惑していると、アトスは話題を変えた。


「ジョゼはノールと同郷らしいね。君の活躍を話す時だけ、彼女は生き生きしているよ。先頃滅びたサラーナ王国……それって、どんなところなんだろう」


 ジョゼはそれに関しては嬉々として口を開いた。


「サラーナは、遊牧民が暮らす国です。国民は牧草のある場所や他国の街を移動して、仲間と支え合って暮らします。ですから、ひとりひとりの重要性がとても高い民族なのです。ノールも遊牧民の出ですから自分のことは何でも出来るし、どの国の女性よりスキルを沢山有しているわ」

「へー。確かに、ノールは何でもひとりで出来る女性だ」

「そうなんです。だからあの子は、男性の支えをそこまで欲していないんです。きっと」

「……」


 アトスはじっと何か考えている。


「〝支え〟はいらないということか」

「ええ。なので彼女が本当に困っている時にだけ、手を差し伸べてあげればいいと思います」


 ジョゼはそう言いながら、セルジュのことを思い出していた。そこまで頻繁に会っている間柄ではなくても、思いが通じる瞬間が何度かあれば急速に惹かれ合うこともあるはずだ。


「……チャンスを待つか」

「ふふっ。その言い方では、まるでノールの失敗を待っているみたいですね」

「否定はしない。残念ながら、私はそこまで追い詰められているようなんだ」

「あら……」


 ジョゼは正直な意見に驚いたが、同時になぜか安心した。


 ノールがどんなヘマをしても、味方をしてくれるらしい人間がこの国の辺境に居た。そんな些細な事実が、たまらなく嬉しかったのだ。


「ではアトス様は、ノールがどんな危険な目に遭っても救い出してくれるのですね?」

「そうだな。ジョゼもノールにそう言っておいてくれよ」

「私を伝書鳩にするのはやめて下さい。直接、あなたが自らの口で伝えるべきです」

「手厳しいな。最近は彼女と余り会えていなくてね……」


 男女の気持ちのやり取りはとても難しい。けれど親切のやり取りならば、きっともっと簡単に出来るはずだ。


「あなたが差し上げて来た貴金属だって、あの子の助けになっていると思いますよ。それを担保に色んなことが出来ますもの」

「そうかな?彼女の反応が薄くてちょっと辛い時があるんだけどね……」

「反応を気にしてものをあげていると、娼婦はすぐに勘づきます。下心はもう少し抑えめにしないと」

「……はは」

「見返りを求められているのが分かるから、相手は引いてしまうの。もう、それこそ藁をあげるぐらいのつもりで差し上げたらいいのよ」


 ジョゼがそう言って少しぬるくなった紅茶を飲み干すと、アトスは少しうなだれて言った。


「……やはり、陛下にはかなわないか」


 ジョゼは思わずむせた。同時に乾いた笑いがこみ上げる。


「ぶふっ。そんなこと……ないと思うわ」

「本当?」

「ええ、これだけは先に言っておきます。ノールは陛下のことはちっとも好きではないの。それこそ、便利屋か何かだと思ってるわ」

「へー。それを聞いたら、何だか希望が出て来たな」

「希望を持ってもいいと思いますよ。あなた、陛下よりはいい人そうだもの」

「……ははは」


 二人が笑い合っていると、執事が扉をノックした。


「ジョゼ様、ベルナール様がお呼びです」

「あら、どうしたのかしら?」

「屋敷内の捜査を終えられ、話したいことがあるとのことです」

「分かったわ」


 アトスが小さな声でブツブツとひとりごつ。


「私たちが犯人じゃないのに……王妃陛下もなぜあんな花を寄越したのか……」


 王妃がアトスに毒の花を贈り続けたのには、一体どんな意味があったのだろうか。ジョゼは執事に連れられ、応接間を出て行った。


 案内されたのは書斎だった。書類の山から何枚か見繕うと、ベルナールはジョゼの目の前にそれらを差し出した。


「これは、王妃陛下の牧場がこの屋敷にもたらした花の記録だ。ジョゼにも確認して貰いたい」


 こんな記録があったとは驚きだ。ジョゼは頷いてから、ずらずらと文字を読み下した。


「スイセン、スズラン、ジギタリス、ケシ、キョウチクトウ、カラー、グロリオサ、イヌサフラン……」


 ジョゼはくすぐったそうに笑う。


「面白いわね。毒草だらけじゃない」

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