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第六章.ノールの毒殺農園

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62.フェザンディエの古城

 一週間後。


 フェザンディエ郊外にある王族専用牧場にジョゼは向かっていた。警察の馬車に揺られること二日間。宿を泊まり継いでようやく辿り着くことが出来た。


 降ろされた場所は、広大な牧場の中の一本道の途中である。


 秋の早朝。まだ夏めいた日差しが頭を焼き、ジョゼはふうと額の汗を拭った。


 ジョゼの推理に伴い、警察が動いたのは初めてのことだった。ある意味、彼女がアルバン二世からの信用を得たというのが彼らの意識に大きな変化をもたらしたらしい。


 道の向こうに小さな古城が見える。既にベルナールはそこへ滞在していると言う。


 警官隊から荷物を持ってもらい、移動するのにジョゼは微かな快感を覚えていた。娼館の主と言う世間的にも低く見られがちな職種の彼女が、ついに警官隊を顎で使えるようになったのだ──なってはいないが、ジョゼはそのように感じて今日はいつにも増して気分がいい。


 道の途中に巨大な門がある。馬車ひとつ通れるくらいの、王宮でしか見かけない立派な門構えだ。


 そこで手荷物の検査を受ける。パンをこねでもするように鞄の中をこねくり回されてから、ジョゼは入館を許可された。


 古城は小奇麗に整えられ、ツタのひとつも這ってはいなかった。ツタは牧草に悪さをするので、取り払われていて当然だろう。


 ジョゼが古城の玄関口に立つと、すぐさま扉は開かれた。


 扉の向こうにいたのは、太った執事。そしてベルナールだった。


「お部屋へご案内いたします」


 ジョゼは執事に連れられ、二階にある簡素な客間に通された。荷物を下ろすと、早速ベルナールが入って来る。


「あら、もう捜査を開始するの?」


 ジョゼが問うと、ベルナールは周囲を憚ってこう言った。


「この城で話をする時は声を低くしろ」

「どうして?」

「この城に住む従業員は、我々を敵視している。理由は分かるよな?」


 どうやら先に城に入ったベルナールの身には、既に何か起こったらしい。


「そっか。自分達に毒殺未遂の嫌疑がかかっていると思っているのね?」

「そういうことだ。だから我々の一挙手一投足が噂の種になる。話も聞かれて共有されている」

「なるほど……」

「もし犯人がここにいたら、全て筒抜けになる。それは避けなければならない」

「面倒ね」


 ジョゼは歩いて行くと、窓を開けた。


 一階の窓から顔を出し、じっとこちらを見上げているメイドと目が合った。


「……面倒ね」

「基本的に彼らは暇なんだろう。この城は牧場を管理する連中が半分、古城のハウスキーピングをする連中が半分で構成されているから、主がいない。全員が従業員なのだ」


 それを聞き、ジョゼは頭をフル回転させる。


「王を毒殺して、得をする人がここにいるかしら?」

「あまり考えたくはないが、内ゲバみたいな要素も考えておく必要がある。誰かに罪を擦り付け、追い落とそうとしている可能性も」

「……面倒」


 ジョゼは窓を閉めた。


「でも、要は犯人を捕まえればいいわけでしょ?」

「そういうことだ」

「さっさと解決するわよ。ベルナールには先に言っておくけど、ちょっと怪しいと思っている食品があるのよ」


 ジョゼは周囲を憚ると、ベルナールと顔を寄せ合って情報共有した。


「牛乳」


 ベルナールはきょとんとしている。


「……牛乳?」

「献立表を見比べたところ、毒味役が食べたもので共通しているものが、牛乳または乳製品だったの」

「牛乳にどうやって毒を入れたんだ?」


 ジョゼはそれ以上は推理せず、


「一度、乳牛のいる牧場へ行ってみたいわ。解決に繋がるヒントがあるといいんだけど」


と会話を打ち切った。ジョゼは一刻も早くこの陰鬱で不自由な古城から出たかったのだ。




 牧場へ出ると、ジョゼは早速ベルナールと馬に乗って乳牛のいる小屋へと向かった。


 たくさんの牛が放牧されている。ホルスタイン模様の牛もいれば、黒毛のがっしりとした牛もいる。


 ジョゼは馬を降りて繋ぐと、牧場を歩き出した。ベルナールもついて来る。


「どこへ行くんだジョゼ?牛小屋はあっちだぞ」

「ちょっと気になることがあって」

「?」


 ジョゼはしゃがみ込むと、牧草を千切った。そして香りを嗅ぐ。


「うーん、違うわね」

「だから、何が──」


 ジョゼは牧草を投げ捨てて立ち上がると、ベルナールを振り返った。


「牧草に紛れて、毒草がないか見ているのよ」

「……王族専用牧場に毒草だと?」

「可能性がないわけではないわ。みんな知らないだけで、意外な植物が強力な毒を持っていることがあるのよ」

「しかし、そんなものを食べていたら乳牛自体も死んでしまわないか?事前に分かりそうなものだが……」

「牛馬は体重があるから、人間より遥かに多くの毒を取り込める。人間より特定の毒に耐性があることだってあるの。もしその状態でお乳が出る牛がいたら、その牛乳に毒が移行する可能性があるわ」

「なるほど……」

「これが、直接毒を入れずに毒を入れる方法ってわけ。遊牧民なら、みんな知ってることだわ」


 ジョゼが牧草地をうろうろしていると、遠くからガラガラと荷馬車の音が近づいて来た。

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
― 新着の感想 ―
[一言] 勉強になるなあ( ˘ω˘ )
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