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第五章.セルジュの完全犯罪

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50.ジョゼの恋

 娼館に来る色恋に狂った男たちのせいで異性を毛嫌いして来たジョゼだったが、自分の中で湧き出た新しい感情に嘘はつけなかった。


(私はセルジュが好き。きっと、そう。でも……)


 ふと、ジョゼの瞳が翳る。


(だからこそ、私怨にこれ以上あなたを巻き込むことは出来ない)


 ジョゼは裏社交界にセルジュと親睦を深めに来たわけではない。


 王をたぶらかしに来たのだ。


 復讐を遂げたら、もうこの国にはいられなくなるかもしれない。


 それにもし気づかれることなく暗殺を遂げたとて、娼館経営者と結婚するなど、彼の父が反対することは目に見えている。


 どの選択においても、貴族男性のセルジュを巻き込むわけには行かない。彼の将来や幸せを考えれば当然のことだ。


 一曲踊り終わると、ジョゼは覚悟を決めた。


 王に気に入られなければ、復讐は完遂出来ない。そうに違いないのだ。


 セルジュから体を離すと、ジョゼは言った。


「私、やっぱりさっきの知り合いに会いに行きたいな。いいかしら」


 セルジュは頷いた。


「もちろんいいよ。時間が来たら、あのラウンジで落ち合おう」

「ごめんね」


 ジョゼは踵を返すと、高級娼婦たちを掻き分けて行った。


 それを見送ると、セルジュは喉の渇きを癒しに給仕のいる方へ歩いて行く。


 彼はひとつワインを受け取ってから、ふと思い出した。


「毒入り、か……」


 アルバン二世には毒味係がいるが、庶民にはいないのだ。少し口をつけるのをためらっていると、


「どうした?」


と背後から知った声をかけられ、セルジュは振り返った。


 そこにはベルナールがひとり、立っていた。


「さっきの婦人警官は連れていないのか?」


 セルジュが尋ねると、ベルナールも給仕からワインを受け取りながら答えた。


「彼女も色々仕事があってね。私より、余程難しい仕事に行った」

「そうなのか」

「そっちこそ、ジョゼはどうしたんだ?」

「ジョゼなら、知り合いと話したいから抜けると言っていたが」

「ふーん……」


 ベルナールは周囲を見渡すと、セルジュと距離を詰めて囁いた。


「時間はあるか?ずっと君と話がしたいと思っていたんだ」


 それを聞いてセルジュが警戒の表情で後退すると、ベルナールは慌てて続けた。


「逃げるなっ。実は……ジョゼのことで、ちょっと気になることがある」


 セルジュは考える。


(そう言えば、ジョゼと彼はかなり昔からの知り合いらしいが、一体どういう仲なんだ?)


 それに、刑事がジョゼのことで〝気になる〟と言うことは、彼女の身に何か危険が迫っているのかもしれない。


 セルジュは快諾した。


「いいですよ」

「少し込み入った話になる。あのバルコニーへ出よう」


 二人の男は華々しい会場を出て、庭園の見えるバルコニーへ出た。踊って少し汗ばんだセルジュの首元を夜風が冷やして行った。


 ベルナールはワインを飲み干すと、空のグラスを見つめながら彼に問いかける。


「単刀直入に聞くが、君とジョゼはどういった関係だ」


 セルジュは尋問でもされるのかと一瞬ワインを取り落としそうになったが、何とかこらえた。


「なっ、何を急に……」

「周りに隠すような関係なのか?」


 セルジュは恥ずかしそうに歯噛みしていたが、首を横に振ると


「男女の関係では、ない」


と絞り出し、なぜか項垂れた。ベルナールはその顔をしげしげと観察し、何度か頷いた。


「なら、先輩党員と後輩党員と言ったところか」

「まあ、そうだな」

「先に言っておく。彼女の人生を背負う気がないなら、今すぐにでもあの娘から離れることだ」


 ベルナールの口から出た思いがけない言葉に、セルジュは呆気に取られた。


「……は?」

「これは忠告だ」


 ベルナールは業を煮やしたようにベランダの柵に背中を預けると、セルジュに向き合う。


 そしてひとつ咳ばらいをすると、声を低くして衝撃的な告白をした。


「あの娘は、サラーナ王朝の王族の生き残りだ。あらゆる組織に監視されている。このままだと、いずれ殺されるだろう」


 時が止まった。


 セルジュは混乱しながら、目を瞬かせている。


「そんな馬鹿な。サラーナ王朝一族はひとり残らず処刑されたはずだぞ」

「それが、傍流が生きていたんだよ。平民の女とサラーナ王の間に産まれた子。それがジョゼだ」

「……!」

「信じたくないなら信じなくていい。ただ、何の覚悟もないなら彼女に近づかない方が無難だと言っているのだ」

「……」


 ベルナールの様子を見ても、からかっているようには見えない。


 セルジュはふと、ジョゼとベルナールのいつもの掛け合いを思い出していた。彼は震える唇で尋ねる。


「近づかない方がいいなら……」


 ベルナールの視線が、セルジュの口元に注がれている。


「ベルナール刑事は、どうしてことあるごとにジョゼを構い倒しているんだ?」


 ベルナールは再びグラスに視線を落とすと、セルジュの質問に端的に答えた。


「それは……あいつを逮捕したいからだ」

「だから、それはなぜ」

「ん?ここまで言わせるのか……」


 ベルナールはため息を吐くと、顔を上げてセルジュに宣言した。


「とりあえず何かひとつでも罪を仕立てて、あの娘を勾留したいからだ。私はどんな手を使ってでも、ジョゼの命を守りたいと考えている」

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
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