ローズ
「そんなの絶対に認めない。次の国王になるのはスカル様。
そしてその妃には、私がなるのよ」
ローズは目をほとばしらせながら言った。
「ふふふ、本当はこの後処分するつもりだったけれど、気が代わったわ。エミリア死になさい」
ローズがそういうと後ろに控えていた彼女の侍従がナイフを抜いて、エミリアに走っていった。
「はあ、やっぱりね」
エミリアはため息をつきながら、近づいてくる侍従の男に怯えた様子もなくただ突っ立っていた。
そして……ほとんど体を動かさず、最低限の動きで、彼の持っていたナイフを避けた。
侍従の男がその後も連続して、ナイフを斬るも全くエミリアに当たる様子はない。
「な、なぜだ。なぜ当たらない」
男もエミリアにここまで避けられるとは思っていなかったのであろう、心の声が漏れていた。
「どうしたの、早くエミリアを殺しっちゃってよ」
ローザが声を上げた瞬間、逆に男の体がよろめき、気絶した。
エミリアが男の隙をついてみぞおちに拳を入れたのだ。
「ど、どうなっているの!」
ローズは場の状況変化ついていけず、後ずさりした。
「動くな。姫様を狙う不届き物が」
すると、ローザの後ろから首筋にナイフが突き立てられた。
「こ、これはどういうこと。私は未来の王妃なのよ。そんな私にこんなことしてもいいと思っているの」
「それをあなたが言うの?私のことを殺そうとしたくせに」
エミリアは呆れた口調で言った。
「それにねローズ。あなたは私のことを普通の儚い貴族の娘だと思っていたのでしょうけれど、私、実は武術の心得を持っているのよ。
私が、陛下から管理を任されていた土地は隣国との諍いが絶えない土地でね。必然的に私も前線に立たなくてはいけなかったのよ。だから、私は剣を振るうこともできるし、敵をなぎ倒すことだって朝飯前なのよ」
「は、は、は。そうですね姫様に儚い娘なんて言葉一番遠い言葉ですからね」
「ブラド、その言葉は余計よ」
ローザにナイフを突き立てていたのは、エミリアの密偵ブラドだった。
「なあ、お前知っているか、隣国で有名になっているとある女の名前。
戦場を最前線で駆け回り、指揮をとりながら敵を薙ぎ倒す女」
ローズはブラドが耳元でささやいた言葉に一人だけ心当たりがあった。
「ま、まさか、『血の戦姫』」
「お、知ってるじゃねえか。そうだ。その『血の戦姫』こそ姫さんさ」
***
その後の話を少しだけしよう。
知らなったとは言え王女であるエミリアに暴力をふるったとして不敬罪としてヘルニア公爵家、シシリア男爵家は取りつぶし。
そして、ローズ、スカルの両名は国外追放になった。
そして、エミリアはリリア女王として王位に就くことになった。




