表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

第8話 おにいちゃんなら抱きしめて 中


 井網いもうホテルから北へ進むと、丘の上に『パラソル・ジャパン 井網島支部』の研究棟があった。

 敷地はサッカー場なみに広く、その半分を二階建ての建物が占めている。

『第三研究室』の前には数人の中年男性がつめかけていた。


「こんな騒ぎを起こすなど、正気かね君!?」


「説明とちがうじゃないですか!?」


「いったい、わたしたちはなにをやらされていたんだ!?」


 囲まれている白衣のオールバック男は肩をすくめて鼻で笑う。

 第三室長の植坂有葉人うえさかゆはとだった。


「落ち着いてください支部長、ホテル部支配人、村長……私は自分の才質に見合う規模で、当たり前のビジネスを進めているだけでしてね。まずはこのデータを見てもらおうか」


 薄いサングラスをクイッと整え、小型のノートパソコンを開く。

 再生した動画には女子小中学生が映っていた。


『わたしたち修学旅行で来ているだけなんで、そういうのはかんべんしてください』


『いえ、すみませんが、そんな高い実験協力費とか、ちょっと怖いんで……』


『てゆーか人類に貢献とか本気でキモいし、それ以上に近づいたら通報します』


 一分もしないで中年男たちはまゆをしかめる。


「まずいだろ君。女の子の撮影なんて、本人の許可があっても問題になりやすいのに」


「なぜ小中学生の、それも女子ばかり……」


「しかし内地の子はしっかりしていて頼もしいですね。おしゃれで顔もかわいいのに……防犯訓練ですよね?」


 植坂は突然に壁を殴りつける。


「そうではない! この記録画像のように人の話もまともに聞けない、ゆがんだ成長をしたサンプルは救わねばならないだろう!? ……ふん、どうやら実物を見なければ理解できんようだな?」


 植坂は呆気あっけにとられている中年男たちに背を向けて研究室へ入り、さらに奥にある扉を解錠する。


「貴様らなどには惜しいが、そろそろ頃あいだろう……出てこい! おにいちゃんにあいさつするがいい! 最初は美桜羅みおらか!?」


 中では十数人のフラフラとした少女たちがうめいていた。

 その先頭にいる三つ編みの中学生は動画に出ていた『通報します』の少女で、撮影時と同じ体操着にビーチサンダルのまま。


「おにいちゃ~ん」


 しかし口調は悲しげに細く、表情は暗く生気がない。


「ふっ、このとおり従順なものだ。まだ調整不足でぎこちないが……私の計画は、貴様らなどの想像を絶する改革となる!」


「それ以前に、君はまず刑務所で未成年者略取の罪を……おっと美桜羅くんだったか? は、離れてくれ! いや、君たちには十分な補償を約束するから、示談でどうか……」


 先頭に立つスーツの中年男は美桜羅にせまられて払いのけつつ、部屋からは出さないように立ちふさがる。


「ふん。旧時代の社会規範を元にした法倫理など、それを超越した存在にとっては塗り変える下地に過ぎん。兄の言うことを聞かない妹などいない! ほら、支部長から離れてやれ美桜羅……妹を怖がるなど、滑稽こっけいなものだ!」


「なにを言っているんだ君は? わたしにも妹はいるが、わたしの話なんてまるで聞いてくれな……いたたた!? 離れないし、かみついているが!?」


 支部長の手から血がにじむ。しかし誘拐の被害者を突き飛ばすわけにもいかず、耐えるしかなかった。


「あれ? ……やめないか美桜羅。おにいちゃんが命令しているのだ」


「おにいちゃ~ん? どこ~?」


 美桜羅と同じようなうめきをあげて少女たちが広がり、中年男たちはあとずさる。


「植坂くん? これのどこが従順なんだね? これでは『女の子らしい』どころか、まるでゾンビのような……」


「ふ。専門知識もなしに口を挟んで、恥をかきたいのですか? 彼女らは私が複合的に構築したマインドコントロール下にあり、兄に対する依存意識へ応えてやれば造作もなく……」


「いや現に止まる気配がまったく……いだだだっ!?」


「おにいちゃんをどこに隠したの~!? じゃましないで~!?」


 さらに犠牲者が増え、一部は逃げ出しはじめる。


「あれ? あきらかに年上の男性だろうに……どうやら『おにいちゃん』と認定されるには、貴様らの外見では厳しかったようだな? まあいい。手間がはぶけたというものだ。私の崇高な理念についてこれない愚者どもは、遅かれ早かれ同じ末路をたどってもらう」


「なに!? 君まさか、わたしたちにも同じ試作品を……う……ぐぬ……」


 最初の犠牲者である支部長がうずくまり、ぶつぶつとうめきはじめる。


「この成果を目の当たりにすれば、貴様らに代わる協力者など、すぐに殺到する。それまでは美桜羅たちと高みの見物でもするか……」


 少女たちは中年男たちをかみまくりながら、ひたすら廊下をめざしていた。


「……いや待て。なぜ私に甘えようとしない? 遠慮などしなくていい、こっちへ来い……せめてこっちを向け!?」


「彼女たちの年齢では、三十路みそじの植坂くんだって親世代でしょうが!? ぎゃっ!? いたたた!?」


 ほかの中年男たちも逃げ出そうとするが、廊下はいつの間にかフラフラした女性職員が群がりはじめていた。


「おにいちゃ~ん。わたしがいるのに~」


「妹より二十も三十も年下の女の子といちゃつくなんて、変だよ~」


 年増の妹たちも、植坂ではない男たちを優先して襲いかかる。


「ば、ばかな……私のどこが兄にふさわしくないというのだ!? 待て美桜羅! おにいちゃんを独りにするな!?」


 ようやく少女たちがふりむく。


「おにいちゃんのふりとかキモ~い!」


「おにいちゃんはどこ~!?」


「おにいちゃんを返して~!?」


 その表情は動画の記録よりも怒りに満ち、牙をむいて組みついてくる。


「ぐああっ、やめろ!? 私は体育で平均に近づけたことがないのだ! しかたあるまい、こうなれば……ほら、そっちにおにいちゃんが逃げたぞ!」


 廊下を指すと、小中学生女子たちの注意がそれる。

 そのすきに自称『超越した存在』は研究室を捨て、かさこそと逃げ出す。

 二階の窓から排水管をつたい、慎重に飛び降りたつもりが、着地した足首の角度がおかしかった。


「うぐっ!? す、少しひねったか……だが妹を自在に支配できる私こそが、新世界の覇者はしゃにふさわしい! あらゆる妹をべる真の勝利者として、永遠に讃えられるべきだ! 男と生まれて妹を欲しくない者など、この世には存在しないのだから!」


 個人の感想である。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ