告白と告白
「少々君には怖い思いをさせてしまって申し訳なかった」
「いえ、騎士である以上、これしきのことは気になりません」
《アザミ祭り》が再開され、貴族たちの喧騒が大きくなってきたころ、コジモと二人、ひっそりと王族たちの居室エリアに呼びだされた。
豪華なソファに座らせられたレオノーラは国王直々に頭を下げられた。
「しかし、あの兄貴が君を狙った理由はすごくくだらなかった」
「そうですよねぇ」
国王の隣に座っているロレンツォ王子がそう呟くと、彼の後ろに立っているアイリスも大きく頷く。
「まったくだ。『コジモと一緒にいるときや、コジモがすぐに駆けつけられるときを狙えば、絶対に襲撃者を手配したのがコジモだと疑う。そうすれば俺を縋ってくるだろう』って、片手で数える程度しかあっていないヤツに縋りつくか、馬鹿が。子供か、あの男は」
「子供だったのでしょうねぇ」
先ほど連行される直前、レオノーラを襲撃した理由を聞いていたのだが、実に彼女自身くだらないと思っていた。
だから、もう忘れることにした。
「で、コジモ。その手、ということは、お前はきちんとレオノーラ嬢と話をしたのか」
「……お前に言われたかない」
フェルナンド王子の話題が一通り終わった後、にやけた表情でロレンツォ王子がコジモとレオノーラの方を見て尋ねると、コジモは思いっきり目をそらした。
まさか婚約破棄された相手に気安く名前を呼ばれるとは思わなかったレオノーラは、きょとんとした表情をしてしまう。
「いやぁ、まさかレオノーラ嬢と結婚したいがために婚約破棄してくれなんて言いだす公爵子息なんて、普通はないよな。しかも、諜報の家系であるアイリスを買収して、レオノーラに関するいろいろな情報を勝手に得ていたなんて。それで襲撃のときも寸前で間に合ったんだろ?」
「そうですねぇ、私もコジモ様に言われてロレンツォ殿下を誘惑するのが大変でしたぁ」
「でも、君を手に入れることができてよかったよ」
お前それバラすなぁ!!と叫ぶコジモだが、ロレンツォ王子もアイリスもにやけ顔で笑っているだけだ。どうやらそれぞれ与えられた非道な王子と悪女を演じていたらしいだけだった。
「えっと、じゃあ昨日のは」
「うん、当然、あれも全部演技だよ」
昨日二人が婚約しているところを見て驚いていたのは、どうやら演技だったらしい……というか、すべてが演技なわけだったから当然ではあるのだが。レオノーラは自分のあずかり知らぬところで話が進んでいたことを知った。
「でも、あんなふうに公の場で婚約破棄するのはさすがにやりすぎた。もちろんだれも君に非があるとは思っていないだろうけれど、なにかしら僕たちにできることがあるのならば、言ってくれないか」
「はいぃ、私も事情をお伝えできなかったといえ、本当に申し訳ないことをいたしましたぁ」
深々と頭を下げるロレンツォ王子とアイリスに、レオノーラはどう言うべきか迷った。
たしかにこの二人のせいであのときは決まりの悪い思いをした。でも、ちゃんと理由があってしたのならばそれでいい。
自分でも都合のいい女だと理解しているが、それでもあまり強く言うことができなかった。なぜなら、二人がきっかけでコジモも自分も互いの気持ちをきちんと伝えられたのだから。
そんなレオノーラの様子に気づいたのか、コジモが生涯、第三師団を利用厳禁にするとかいいかもなとか茶化してきたが、ロレンツォ王子もアイリスから元はと言えばお前が仕組んだことだろとツッコまれていた。
「さ、お前たち。残り時間は少ないだろうけれど、楽しんでおいで。ほら、《アザミ祭り》なんだからな」
四人のやり取りを聞いて、ゴホンと咳払いした国王がそう扉の方を指した。
恋人の祭りという別名を持つ《アザミ祭り》は、国王の生誕祭、王位継承第一位である王子の生誕祭、そして建国祭に次ぐ、格式の高い祭りの一つだ。
国の紋章に含まれているアザミの花言葉のとおり、親から『独立』をする恋人たちの祭りとされている。この祭りがきっかけで結ばれた二人は末永く続くという伝説がある。
大広間に戻ったレオノーラとコジモ、ロレンツォ王子とアイリス、二組の若いカップルは貴族たちに祝福された。
宴もたけなわになってきたころ、ロレンツォ王子たちと途中で別れた二人は、どちらからともなくあの庭園に向かった。
「どこからが演技だったんですか?」
「……最初からだ」
たった二人きりの空間。
コジモの言葉に記憶をたぐり寄せる。
自分とコジモ、二人が出会ったのはたしか……――
「騎士学校の入学式だ。紅一点の君がまぶしかった」
「そんなことで?」
「そんなことで、だ」
思いがけなかった印象にまさかと首を振るレオノーラ。だってあのころはそんなそぶりを見せなかったではと反論したくなる。腕を振ろうとした彼女だが、その手をコジモに柔らかく押し留められてしまった。
「たしかにそうだ。レオノーラに会えば悪口、いじめ、突っかかり、なんでもやったからな」
「ひどいですよねぇ」
「そうだな、すまなかった。でも、乗り越えてくれると期待してしまったんだ。そして、本当に乗り越えてくれた。だから、今度は告白しようと思ったのに、もう君には婚約者がいるっていうから、できなかったんだよ」
幸いにも母方の又従兄だから無理言わせてもらったんだがなと笑うコジモ。
「じゃあ、あのときもですか?」
「あのとき?」
「ロレンツォ王子から婚約破棄されたあとです」
暴言ついでにと質問したレオノーラに対して、すぐにはなんのことか思いだせなかったコジモ。言われた内容まで覚えてはいるものの、さすがにそれを自分から言いだすことはできなかったから、遠回しに言うと、すごく気まずそうな顔をされてしまった。
「そうだ。あいつのことなんてさっさと忘れろって思ったんだ」
「なんていう無茶をしたんだ……でも、実際そうなったな」
あの暴言が、婚約破棄でショックを受けた自分に対するショック療法だったとは。実際その通りに彼の暴言の方が気になり、ロレンツォ王子の婚約破棄なんて忘れてしまった。彼の手のひらの上で遊ばれていただけだったが、悔しいよりもさすがだなと感心してしまった。
レオノーラはその告白に自分も言わなきゃと深呼吸をして彼の目を見据える。
「本当にいつも俺様で、本当にうっとうしかったです。騎士学校でも、騎士団でもなんで私にいちいち構うんだろうって。でも、最初に決闘で組んだとき、わかったんです。コジモはその他大勢ではないっていうことを」
「そうか」
「これからもよろしくお願いします」
レオノーラが頭を下げると、お前に先に言われてしまったなと、コジモは頬をかきながら笑みをこぼす。
「そういえば、執務室で膝に乗っていた女性はどなたですか?」
ふと思いだしたレオノーラが上目遣いで尋ねると、非常にばつが悪そうな顔をし、目をそっとそらすコジモ。その様子に、レオノーラは新しい婚約者に今まで感じたことのない可愛さを感じてしまった。
「あの夜、執務室で俺の膝の上に乗っていたのは、第一師団の見習い兵だ。潜入捜査に行かせるのに女装させる必要があったんだ。かなり外見はいいんだが、かなりウブでな。とはいえ、外見でバレる可能性もある。あいつ以上に女装が堂に入ってるやつもいないから、仕方なく俺が練習台になってたんだ」
あいつが帰ってきたら、レオノーラに妬かせた罰として異動させるかと不穏な声で宣うコジモに、そこまでしなくて大丈夫ですよと宥める。
「あと少ししか時間はありませんが、恋人のための祭りを楽しみましょうか」
「そうだな」
「これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそだ」
そう言ってコジモは抱きしめた片方の手を放し、レオノーラの頤をそっと持ちあげる。素直になった二人は、どちらからともなく近づいていき、昨日とは違って優しく、そして徐々に激しく唇を奪いあった。






