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戦略的な溺愛に戸惑っている悪役令嬢(自称)です  作者: いか人参


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24.共謀者



翌朝、カーテンの隙間から入り込んだ陽の光で目を覚ましたアンジェリカ。目を開けてすぐ、見慣れぬ煌びやかな天井に違和感を覚えた。


(ここどこ…あれ?私昨日…)


ゆっくりと昨日の記憶が脳裏に蘇る。

放課後に家出を決行しようとしたこと、無事ミミと合流出来たこと、馬車に乗る直前でレイに見つかってしまったこと、


そして今いる場所のことを…



「夢じゃ…ない。」


自分でこぼした言葉に絶望する。


(ほんとにちょっと待ってほしい…どうしてこうなった?あんなに準備して勇気を出して逃げ出したのに、なんで今王宮に囚われてんの…しかも、レイが王子だったなんて…)


ここでふとあることに気付く。


(え、じゃあ10歳の時に婚約の話があった王子ってレイのこと!?…なにそれ、回避したつもりだったのに、何も変わってないじゃん。)



「はぁ…」


シーツの下に潜り込んだまま、内圧を下げるように深いため息を吐く。やたらと寝心地の良い寝台すら腹立たしく思えてきた。


(これからどうしよう…)


何も出来ない自分の非力さに虚しさを感じる。

アンジェリカは現実から目を逸らし、このまま不貞寝してしまおうと瞼を閉じた。




「……お嬢様ぁ!早く準備しないと間に合いませんよぉ!」


微睡む意識の中、耳のすぐそばで聞き慣れた声がした。


(夢の中にミミが出てくるなんて珍しい。もしかして、私無意識に寂しかったりするのかな?……いや、それはないか。)



「早く目を開けてくださいぃ〜!お嬢様ぁ〜!」


(……耳のそばでうるさいな。夢のくせに。)


「遅刻したら私のお給金が減らされちゃうんですよぉ〜」


(そんなの知るか。)


「お嬢様ぁ〜〜〜〜!!」


「もうっ!うるさいわね!!」


「ようやく起きてくれましたぁっ!」


勢いよくシーツを取り払って起き上がると、目の前にお仕着せ姿のミミがいた。

アンジェリカが目覚ましたことに、飛び跳ねて喜んでいる。



「は………なんでミミがここにいるの…夢?現実?なにこれ…」


あんぐりと口を開けたアンジェリカが唖然とした顔でミミを見る。彼女は当たり前のようにベッド脇に立っていた。



「そんなことより、早くお支度をしましょぉ!さぁ、両手を上げてくださぁい!」

「えっ…ちょっと!!」


混乱するアンジェリカを無視して、ミミが強制的に支度を始める。

慣れた手つきで手早く夜着を脱がせると、頭からバスタオルを被せて同じ室内にある湯浴み場に引っ張って連れていく。


アンジェリカは気付くと、ピカピカに磨き上げられて真新しいドレスに袖を通していた。髪からメイクまで完璧に仕上がっている。



「ねぇミミ、一体これはなんなのよ。貴女がここにいることも含めてきちんと説明なさい。」


「こちら朝ごはんのサンドイッチですぅ。お召し物が汚れないようナプキンを敷きますよぉ。」


「……貴女ほんっと人の話聞いてないわね。」


アンジェリカが語気を強めて苛立ちを露わにするが、ミミはお構いなしに自分の仕事を進める。


混乱する主人を無視してあくせく働く彼女の両目には、金貨がチラついていた。



「そろそろ話を聞かせなさいよ。」


もらったサンドイッチをしっかり完食したあと、アンジェリカが冷静な口調で圧をかけてきた。目が本気だ。



「私またお嬢様にお仕えするんですぅ。」


「まさかレイから誘いを受けたの…?」


「そうですよぉ!王太子妃の侍女なんて大出世じゃないですかぁ!!そんなの断る人なんていませんよぉっ。侍女頭じゃなくても十分な額だったんですからぁ。」


当惑するアンジェリカを置き去りにして、ミミが両の指で金額を示しながらウッキウキのテンションで話してくる。

レイとやり取りがあったことを隠すつもりはないらしい。



「うわ…結局私は貴女に売られたのね…」


「売るだなんてそんなぁ!向こうから何でも相談に乗るよと声を掛けられたので、相談しただけですぅ。売ってませんよぉ!!」


「相談ってなんのよ?」


半眼でミミのことを睨み付けるが、彼女に怯える様子はない。腰に手を当て、堂々と華奢な胸を張る。



「お嬢様が西の国に渡りたいと言っていたから、入国までのルートや向こうでの伝手とかですよぉ!おかけでこんなにスムーズに実行出来たんですぅ。」


「なっ…嘘でしょ…!!それって、私の計画がレイに筒抜けだったってことじゃない!」


アンジェリカが絶叫した。


ミミのおかげだと思っていたものは全て、レイが裏で手を回していたのだ。


道理で上手くいくわけだと冷静に納得する気持ちと、なんでよりによって彼にバラしたんだという怒りの感情が共存する。



「でもそのおかげで上手くコトが運んだじゃないですかぁ。」


「ええそうね。あなたのおかげで今こうしてレイに捕まっているのよ。」


「それは愛の力ですよぉ!」


「いや、ワケが分からないわ…」


何を言われても、ミミの自信が揺らぐことはない。

アンジェリカはミミの言い分に呆れ果て、ため息しか出て来なかった。



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