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戦略的な溺愛に戸惑っている悪役令嬢(自称)です  作者: いか人参


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17/27

17.最後の登校


覚悟を決めたアンジェリカの行動は、一切の迷いがなく迅速だった。


前もって調べていた王都から西の国への移動ルートと辻馬車の発車時刻を頭に叩き込み、証拠隠滅のため紙の資料は燃やして破棄した。そして、当日の動きをミミと入念に確認する。



逃亡当日の動きはこうだ。


家出の発覚をなるべく遅らせるため、学園に行った日の帰りにそのまま西の国へと向かう。その途中王都にあるカフェでミミと落ち合って、荷物の受け取りと着替えを行うのだ。


二人が別れた後ミミは、アンジェリカになりすまして馬車に乗ってリーランド公爵家に帰る。この時の御者は彼女の顔見知りに頼んでおり、口止め料を支払い済みである。


その後ミミはアンジェリカの部屋で着替え、何食わぬ顔で仕事に戻る。

そして翌朝、取り乱した様子でアンジェリカがいなくなったと報告する算段だ。


こうすることで逃げ出した時間帯が深夜だと騙せる且つ、ミミのアリバイ工作にもなるというわけだ。

さらには、捜索に混乱をきたすよう、ミミの知り合いにアンジェリカの誤った目撃情報の噂を流させるという緻密さである。




「今日で最後か…」


決行日となった当日、馬車の窓からすっかり見慣れた景色を眺めながら、アンジェリカがひとり呟く。無意識にため息が漏れ出ていた。


なんで私が…と思いながら初めて登校したあの日は、こんなふうに感傷に浸る日がやってくるなど思いもしなかった。




「おはよう、アンジェ。」


教室に入って自分の席に着くと、すぐに気付いたレイが立ち上がってアンジェリカの所までやって来た。



「レイ、おはよう。……あの、」


「ん?」


俯いて言い淀んだアンジェリカに、レイが甘い声で聞き返して来た。机に両手を付き、覗き込むようにして顔を近づけてくる。


「……っ」

(なんではっきり言わなかったの!私のバカァ!)


頭上から甘ったるい雰囲気が漂ってきて、益々言いにくくなるアンジェリカ。怖気付いたせいで、自分で自分のことを追い込んでしまった。



「デートの誘いは嬉しいけど、それは僕から言わせて欲しいな。」


「そ、そんなんじゃないわよっ」


甘やかな声でさも当然のように言われ、体の奥底から熱が込み上げる。持て余した勢いのまま立ち上がるアンジェリカ。



「!!」


考えなしに動いてしまったため、完全に距離感を間違えた。相手の体制を考慮しなかったせいで、青の双眸が眼前に迫る。


(うぅ…また揶揄われる………)


やってしまったと思って恐る恐る視線を上げてレイの様子を窺う。

きっと腹立たしいほどに整った美しい微笑みを浮かべて、イタズラ顔をしているとそう思ったのだ。



「………っ。ごめん。」


青の瞳を限界まで見開いたレイは、数秒フリーズした後弾かれたように顔を逸らしてアンジェリカから距離を取った。そこにいつもの余裕は微塵も感じられなかった。


そっぽを向いたまま固まるレイは顔の半分を手のひらで覆っているが、隠しきれていない耳が赤い。


(なんなのっその反応はっ……!!)


アンジェリカもレイにつられて赤くなり、椅子に座り直したまま動けなくなってしまった。



「アンジェリカ様、おはようございます。…何かございましたか?」


隣の席にやって来たミルフェルが不自然に固まる二人を見て、不思議そうに首を傾げている。



「別に…なんでもないわよ。ねぇ、ミルフェル。今日のお昼一緒にいかがかしら?………良かったらレイも。」


ミルフェルに尋ねつつ、アンジェリカはぎこちなく視線を動かしてレイの反応を窺う。彼は一瞬驚いて目を瞬いたが、次の瞬間に破顔した。



「嬉しい。二人きりではないことは少し…いや、物凄く残念だけど、アンジェを眺めながら昼食を頂けるのなら喜んで参加させてもらうよ。」


アンジェリカに向けて、蕩けるような笑みを浮かべるレイ。



「まぁ!もちろんですわ!ただし、いくらカーライル様がお相手とはいえ、アンジェリカ様の向かい側の席は譲りませんわよ?」


ミルフェルも笑顔で頷く。

真顔に戻った彼女は、牽制とばかりにレイのことを睨みつけてくるが、穏やかな微笑みを浮かべた彼はどこ吹く風だ。



「ああ。僕はアンジェの隣が良いから問題ないよ。思い切り横を向きながら、お行儀悪く食事を堪能することとしよう。」


物言いたげなミルフェルの存在を無視して、レイはアンジェリカにウインクを飛ばしてきた。その仕草が妙に艶かしく、アンジェリカの身体がまた熱を帯びそうになる。


(だからそういう心臓に悪いことをするなっての!)


込み上げる熱を冷まそうと小さく息を吐いた。



「それなら、皆で横一列に並んでカウンターに…」

「「それはちょっと」」

「……なんでこういう時だけ息ぴったりなのよ。」


ちょっとした意趣返しのつもりだったが、レイとミルフェルの二人に冷静な顔で拒絶されてしまった。思わぬ反応にアンジェリカが顔を顰める。


アンジェリカとランチを共にする際の席について、互いに譲れないこだわりがあるらしい。


結局1限目の授業が始まるまで、レイとミルフェルはアンジェリカとの仲を巡って小競り合いを続けていたのだった。



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