閑話:Stripped / 剝かれて
最近のリン様はお忙しくていらっしゃる。
昨日はハンターズギルドに養蜂とやらの話をしに行き、その後に薬事ギルドで会議で見た薬草をもらった、と楽しそうにライアン様にご報告されていた。
今もお茶を飲みながら、片手にはTODOリストなるものを持ち、ご覧になられている。すこしはお休みになられればよろしいのに、リン様はお忙しい方がお好きなようだ。そこへ、シュトレンから、リン様に館から呼びだしがあり、馬車が階下に迎えに来ていると告げられた。
リン様は不安そうにこちらを向かれた。
「館から呼び出しなんて今までなかったのに。アマンドさんは何か聞いていますか?」
「いえ、私も事前連絡は受けておりませんが」
階下に下りると、ライアン様が館からの呼び出し状をリン様に渡されるが、そこに用件は書いてはない。
「シュゼットからの呼びだしのようだな」
「なんでしょうね。とりあえず、馬車が迎えに来ているそうなので」
リン様は馬車へ向かい、足元にいるシロに一緒に行くかを尋ねられたが、チョコンと座ったシロは動かぬままだ。
その後ライアン様をご覧になったが、ライアン様はシロにチラリと視線を向け、いや、シムネルもまだ戻らぬので執務がある、と、こちらも断られてしまった。
シュゼット様ですから、お茶会のご招待ではないでしょうか、と、不安げな面持ちのリン様をなだめながら、共に館へ向かうと、家族門からシュゼット様の応接室へ、すぐに案内された。
部屋にはシュゼット様以外に、女性ばかりすでに数名が集まっており、私は部屋の隅に待機する。
「女子会?」
リン様はそうつぶやかれ、見まわしておられたが、慌てて腰を落として、ご挨拶をされた。
「カリソン様、シュゼット様、おはようございます」
なんと、カリソン様までこの場にお越しになられていらっしゃる。
「リンったら、私のことはシュゼットと呼んでって、言ったのに。兄様と同じに敬称なんてなくていいのよ」
シュゼット様が口をとがらせてそう言う様は、ライアン様に甘えられているご様子と一緒で微笑ましい。
「リン、このように突然呼び出してしまって、ごめんなさいね」
今日は館で夏と秋のご衣裳を誂えるということで、レーチェが隣室に来ているようだ。
リン様はあまりご衣裳に興味がなく、シンプルで着やすいもの、派手じゃないもの、といった程度のご注文しかないので、普段はすべてレーチェまかせだ。
こういう機会にお呼びいただいて、布からご覧いただくのも、いいのではないかと思う。
隣室にはすでにレーチェが針子を数名連れて来ており、布がいくつも広げられていた。
どうやら秋のご衣裳が主となるようで、そのようなお色味の布が多い。
「まあ、こちらはこの間見せていただいた、ぶどうの皮染めの糸を使った布かしら?」
「はい、カリソン様。染めの職人が赤みの強いものから、逆に暗めのものまで分けて染めまして、いいお色に仕上がりました。あとこちらは同じぶどうでも緑のもので、とても優しい色合いとなりました」
「お母さま、この赤みの強く濃いのは華やかで、お母さまに良くお似合いになりそうだわ。リンはこちらかしらね?フォレスト・アネモネの白が際立ちそう。リンの雰囲気に合うわ」
「私も、ですか?」
「ええ、リン。今から準備すれば秋にちょうどいいのよ」
リン様にはお選びになるのが難しいようで、カリソン様とシュゼット様が、どんどんとリン様に布をかけては、いくつかお似合いになる色を組み合わせ、選んでいく。
このような機会は、本当にちょうど良かったのかもしれない。
布を選び、スタイルを決めて一段落をしたところで、それは始まった。
ああ、今日のお呼びだしは、こちらが目的だったのかと、私にもやっとわかったのだ。
「あの、リン、お願いがあるのだけれど」
シュゼット様が、少し恥ずかし気に申し出た。
「あのね、私の侍女が、謁見の時に着替えを手伝ったでしょう?それでね、見たというの。レーチェからも勧められて、元はリンの国のものだというし、あの、ブラを見せてもらえないかしら?」
「ええっ!あの、え、ブラですか?」
カリソン様も横から、熱心にお話しをされる。
「ええ、リン。レーチェが、胸の形を整えて、サポートがしっかりして、街で試した者もシルエットが綺麗になったから、というのよ。アンダードレスをきつくしたり、スカーフを巻くよりも魅力的になるし、身体も楽になるはずだからって。でも、どのようなものかがよくわからなくて」
「ええと、あの、はい。サイズがあっていれば、スカーフよりはきれいに見えるし、楽だと思います。最初のブラを試した人からは、お礼を言われましたので」
そういえば、もとから華やかでハンターに大人気なエクレールだけれど、ハンターの視線が熱っぽくなっていたわねえ。
「レーチェもこの場にいるし、私達も作ってみたいの。あの、お願い、リン、見てもいいかしら?」
同じ長椅子に座るシュゼット様に甘えられて、カリソン様からもお願いされて、リン様にはダメだとおっしゃることはできなかった。
リン様、お許しくださいませ。視線がさまよわれて、すがるように見つめられたのはわかりました。ですが私も、さすがにカリソン様とシュゼット様のお二人には、反対ができないのでございます。
取り囲んだ侍女たちは、手慣れているので、テキパキとリン様を剝いていく。
「まあ、これは紐で縛ってもいないのね?」
「美しいこと。これでしたら、女性らしい丸みがきれいにでますわね」
「レーチェ、その棒で測るのは、どこの部分になるのかしら?」
「きちんと持ち上がるから、すっきりと見えるようですわ」
待ち構えていた館の侍女たちも含めて、その場の女性全員に興味津々で眺められ、質問を受け、リン様は恥ずかしそうにしながらも、一生懸命に受け答えをされていた。
結局その場にいた全員が、ブラを注文したのだ。
きっとこれもリン様が開発した、この領から発信する新しいものの一つになって広がっていくことでしょう。
シロとライアン様は、本日はお留守番でちょうどよかったですわね。この女性のパワーにはかないませんでしょう。
どちらにしてもこの場に同席は許されませんでしたから。





