Cutting Yule Log 2 / ユール・ログの切り出し 2
1と2 まとめて2話投稿です。
ドルーからの提案に、皆は沸き立ち、気の早い、早すぎる者はすでに乾杯している。きっと酒が飲める理由さえあればいいのだろう。
男性は十名ほどの組に分かれ、それぞれ印をつけた木の伐採に向かった。
ライアンはオグとシムネルに、ドルーとの対話を伝え、手配を頼んだ。
「オグ、そういうわけであと一本増える。ハンターの組をもう一つだ」
「シムネル、オークが出るのであれば王宮にも献納するべきだろう。館に伝え、運送の手配を」
「しかし、なんだなあ。話を聞くと、そこらにいる孫を可愛がっているじいさんとしか思えねえな」
「この間リン様は、ドルー様のことをおじいちゃんと言っていましたから、まあ間違ってはないですね」
「森全体にかわいがられていることは確かだな。王都の精霊術師ギルドのお偉方が聞いたら、目をむくだろうが」
大木を切るのは見ているだけでも大変さがわかる。上の枝を払い落し、斧やギザギザの大きい刃の鋸を使って切っていく。
森に慣れた力強い人達ばかりとはいえ、身体から汗が湯気のように上がるのが見える。一本切り街へ運ぶのに、交代しながら一日がかりだ。
子供も危なくないように見張られながらも、森を走り回り、慣れている食前の祈りを歌うように唱えている。落ちてきた枝を拾い集めながら、こうしてやり方を学んでいく。
女性は火の側でスープを温めながらも、男性が酒を飲みすぎないように目を光らせていた。森からすぐの工房、森の塔、『金熊亭』の厨房も今日は大忙しで、追加でパンを焼き、肉を焼いては運び出す。
リンはしばらくスープの火の番をしていたが、オグに呼ばれ、ドルーとライアンの待つ聖域の近くのオークの大木の前に呼ばれた。
「こんなに大きな木も切ってしまうのですか……」
「ああ、根を傷めているらしい。そろそろ周囲の子供に代替わりするそうだ」
「リン、硬い木が欲しい、と言っておったじゃろう?これが行くといっておる」
まさか自分が不用意にもらした独り言のせいなのか、と思うと落ち着かない。
「えっ!あの、もし工房の暖炉の木が硬ければ、それを使えるかなあと思っただけで、こんなに立派な木を切らなくてもいいんです。ごめんなさい、大したことではなかったんです」
「のう、リン。これはあと数年のうちに代替わりじゃ。数年は我らにとっては瞬きの時間ほどじゃな。最後は行きたいという時に行けるのが、一番の幸福じゃよ。人間もそうじゃろう?それに代替わりじゃからの。周りに子も孫もおる。ちゃんと使ってくれればそれで良い。最後は地に帰る。これも喜ぶ」
オークを見やりながら、ドルーがゆったりと森のことわりを諭す。
「……わかりました。そういうことでしたら、何か長く手元に残るように考えて、大切に使います。ありがとうございます」
リンはひび割れた樹皮にそっと手を当てた。
枝がバサリと落ちてくる。
「オェングスよ、他より長くかかるじゃろうが、頼むぞ」
オグが膝をつき一礼した。
無事に切りだされたユール・ログは、木のそりに乗せられ、ロープをかけられマーケットプレイスまで引かれていった。広場で一オークぐらいずつの長さに切られ、まずは領主様の城へ、と、献上され、その後に待ち構えていた人に、それぞれ配られた。
リンも約束通りにオークの木をもらった。
木には酒が振りかけられ、子供は丸太の上にまたがり、最後までにぎやかに一日が過ぎた。
一日木に登り、綱を引き、最後まで二人引きの鋸でログを切っていた力強い男達は、さすがに疲れたようだった。頭から木くずをかぶっている。
「肩と背中が張ってさすがに痛い。今日は風呂に寄って、汗を流してから帰るかな」
「おお、いいねえ。明日に疲れを残せないもんな。俺もいく」
数名が連れ立って去っていった。
「もしかして、ここにはお風呂、公衆浴場があるんですか?」
「ああ、浴場ならハンターズギルドの裏手に、「オグ!」」
「リン、風呂なら家にあるだろう?」
「いいですねえ。公衆浴場だとやっぱり広いのでしょうか」
「リン、君の風呂好きはよくわかっているが、君は行ってはならぬ」
「んー、でも大きいお風呂はやっぱり魅力的ですよ。私の国にもあちこちに温泉という公衆浴場があって、慣れているんです。寒い時期は温まるので、よく行きました」
「慣れている……。よく行った……。とにかく!君は絶対に行ってはならぬ。広い風呂がいいのなら、工房の風呂を広げれば良い。行ってはならぬ。わかったな!」
こちらの公衆浴場は混浴で、女性が男性にある種のサービスをすることもある施設、ということがわかったのは、工房に戻ってライアンと二人、シュトレンとアマンドに揃って叱られてから。
「ライアン様、リン様の住まわれる工房の風呂を広げるとおっしゃるということは、皆にそのように思われるのですよ」
「リン様はまだご存知なかったとはいえ、ライアン様までなんですか!マーケットプレイスの真ん中で、皆の前で堂々と風呂のことを口にするなんて」
「すまぬ……」
「私、慣れているとか、よく行っていたとか、言いましたよ」
「公言していたな」
「ドルーの木の洞に埋まりたいです……」





