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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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98:爆発するフラグ

 森の空気はさらに重く、湿った風が木々の隙間を通り抜けるたび、血の匂いのような不気味な臭気が漂った。

 その中心に立つのは、一体の魔族。

 長い指先をゆっくりと弄び、赤黒い瞳を楽しげに細めていた。

 ソーマは喉を鳴らし、掌の汗をズボンで拭うと、借り物のロングソードをぎゅっと握り直す。


「こいつが……魔族……」


 ソーマの呟きに、仲間たちは言葉なく頷いた。

 クリスは冷や汗を額に浮かべつつ、魔族から迸る魔力の波動を鋭敏に感じ取っている。

 エルーナは音もなく姿を森影に溶け込ませ、狙撃のタイミングを静かに待っていた。

 そしてジョッシュはバットを肩に担ぎ、にやりと笑う。


「へっ、こいつが噂の魔族か。どんな攻撃してくるのか、見物させてもらおうじゃねぇか!」


 それを聞いた魔族は喉の奥で低く笑った。


「フフ……人間ごときが吠えるな。いい、怯えた目を見せろ。お前たちの断末魔が、この森をさらに甘美な舞台へと変える……!」


 その言葉と同時に、魔族は地面に転がっていた小石を拾い上げると、指先で軽く弾いてジョッシュへと投げつけた。


「そんなへなちょこ球、ソーマのノックの方がずっと速ぇ!」


 ジョッシュは笑い、グラブを構えた。


「やめろ、ジョッシュ!!」


 ソーマの喉が張り裂けるような声が響く。

 脳裏をよぎったのは、先ほど見た光景――カバンが爆発した場面。

 本能が『触れるな』と警告していた。

 しかし、体に染みついた野球としての反射がジョッシュの体を動かす。


「つい……癖でよ! こうするしかねぇだろ!」


 彼は小石をグラブでキャッチし、その勢いのまま反射的にグラブトスを行った。


 ――次の瞬間。

 轟音。

 小石が空中で閃光を放ち、爆発を起こした。

 爆風が木々を揺らし、破片が雨のように降り注ぐ。


「やっぱり……!」


 ソーマは咄嗟に叫ぶ。


「おそらく、やつは触れた物を爆発させるギフト持ちだ!」


 魔族は爆煙の中から笑い声を上げた。


「正解だ、人間。だが分かったところでどうする? お前らは避け続けることしかできぬ。やがて足は止まり……灰と化す!」


 その言葉通り、魔族が指を軽く鳴らすと、周囲に転がっていた石や折れた枝が次々と爆ぜ、炎と煙が森を覆った。


「くそ……みんな足を止めるな!」


 ソーマは爆風を潜り抜け、息を切らしながら叫ぶ。

 魔族は次々と石を投げつけてくる。

 だが今度はジョッシュがバットで打ち返した。


「へっ、こっからは打撃練習だ!」


 返球された石が爆ぜ、森の中で連鎖的に爆発が起きる。

 耳をつんざく爆音、土煙、木々の裂ける音――戦場は一瞬にして地獄と化した。


「今度はこっちから攻める番だ!」


 ジョッシュは吠えると、爆炎をかいくぐり一気に距離を詰め、滑り込むようにスライディング。

 炎を纏わせたバットを振り抜いた。

 だが――


「遅い!」


 魔族はその一撃を片手で受け止め、もう片方の手で指を鳴らした。

 ――ジョッシュのバットが爆ぜる。


「ちっ!」


 とっさに手を放し、爆風を身を翻して避ける。

 髪が焦げ、頬に熱が走った。


「……なるほど」


 ソーマの目が鋭く光る。


「爆発は……指を鳴らすのが発動条件か!」


 魔族はくつくつと笑った。


「気づいたか……だが無駄だ。人間の目と耳で、すべての指の動きを止められると思うか?」

「エルーナ!」


 ソーマが叫ぶ。


「任せて!」


 影の中から鋭い魔弾が飛び、魔族の手を正確に撃ち抜いた。


「ぐっ……!」


 指が吹き飛び、爆発は起こらなかった。

 その隙を突き、ジョッシュが火球を投げる。


「これはバットの分だァッ!」


 炎の魔球が魔族の肩をかすめ、皮膚を焼いた。


「ソーマ、今だ!」


 仲間の声が重なる。

 ソーマは剣を握り直し、叫ぶ。


「これで終わらせる!」


 魔族が指を動かそうとする。

 だがその瞬間、エルーナの魔弾とジョッシュの炎が牽制し、完全に動きを封じた。


 ――隙。


 ソーマは全力で踏み込み、鍛え抜いた突きを放つ。

 剣先が、魔族の胸を貫いた。


「ぐあああああ……!」


 魔族の絶叫が森を揺らす。


「バカな……この私が……人間ごときに……!」


 その呪詛の言葉を残し、魔族は黒い靄となって崩れ落ちた。

 森に静寂が戻る。

 煙と焦げた匂いだけが漂い、戦場の凄惨さを物語っていた。


 ソーマは荒い呼吸を繰り返しながら、剣を見下ろした。

 ――ひび割れ。

 鋭い突きに耐えきれず、刃が軋んでいる。

 ソーマの鍛え上げられた突きは並の剣ではもはや耐える事ができない領域にまで達していた。


「……借り物じゃ、もう限界か」


 ジョッシュはバットの残骸を見下ろし、深いため息をついた。


「俺のバットも木っ端みじん……でも命が残っただけ、マシか」


 クリスは険しい顔で周囲を見回す。


「一人の魔族でさえこの惨状……今後、油断はできません」


 エルーナは銃を背に戻し、仲間たちを見て微笑む。


「でも、連携すれば勝てる。恐れる必要はないわ」


 ソーマは頷きながらも、胸の奥に残る緊張を拭えなかった。

 ――ギフト持ち同士の戦い。

 今は勝てた。

 だが次も、そうとは限らない。


 森を吹き抜ける風が、戦いの余韻を冷たく撫でていった。

 今後はギフト同士の戦いメインに切り替わるのかなぁ。

 また思い付きで自分で自分の首絞めてるんだからしゃあない。


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