6:実の姉弟じゃなかったらフラグが立っていた
ソーマは姉が借りているアパートへたどり着いた。
最後に来たのは、姉の就職祝いの時。
二人きりで盛り上がった末、暴走した姉にベッドへ押し倒され――必死に一線を死守して以来だった。
(……久々の再会でお互い成人している今の状況の方がまずい気がするが家族だし大丈夫……)
自分に言い聞かせつつインターホンを押した瞬間……
「ソーちゃぁぁん!!」
バンッと扉が開き、突撃される。
「あぁソーちゃんの匂い久しぶり! ソーちゃん! ソーちゃん!! ソーちゃん!!! うわぁあああああん!!! あぁくんかくんか! すーはーすーはー! あぁ……いい匂いだなぁ……くんくん」
ソーマの体に突進し顔を埋めて匂いを吸い込んでいるのが、姉のリン。
背は低いのに、正面から見れば誰もが二度見するほどの胸部装甲。
全力で抱きつかれれば、いくら家族でも反応しかけてしまう。
「あの……久しぶり、姉さん。まずは、ご飯……食べたい」
「ふふっ♡ そう来ると思った! 今日はソーちゃんの大好物、オムライスだよ〜!」
勢いを受け流し、なんとか部屋に入る。
どんな意味でも一線を越えないと決心しつつ……
リン特製のオムライスを食べながら、しばし談笑。
お腹も落ち着いた頃、彼女は急に真剣な顔になる。
「……それで。急に泊まりたいなんて、どうしたの? 何かあったんでしょ」
(やはり、察していたか……さて、どこまで話すべきか。俺と会う時間が減った原因であるユーサー達のことを、姉さんは敵視している。その姉に、今日あったことを正直に話したら……)
迷った末、ソーマは正直に今日の出来事を語った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……というわけで、ユーサーたちのパーティーから抜けたよ。でも、その後ジョッシュたちと出会ってギルドマスターの薦めもあって新しくパーティーを組むことにしたんだ」
リンはずっと黙って聞いていた。
怒鳴りも泣きもせず、ただ俯いて、拳を握りしめながら。
「だから心配はいらないよ。今日は宿を探すのが面倒で来ただけだし、明日には――」
言いかけた瞬間、リンがソーマに飛び込んだ。
胸に顔を押しつけたまま、ただ震える声が漏れる。
「……ごめん……ごめんね…… 私がソーちゃんのギフトをちゃんと鑑定できなかったせいで…… 私が守ってあげなきゃいけなかったのに…… 本当に、ごめんね……」
(やっぱり、姉さんに話してよかった。姉さんは、ちょっと……いや、かなりのブラコンだけど。それでも、俺にとってはいつだって頼れる姉さんなんだ。今後困った時は迷わず姉さんに頼ろう)
そんな決意を胸に、泣き続ける姉の頭を、昔みたいに優しく撫で続けた。
泣き疲れて寝てしまった姉を、ベッドへ運ぶ。
色んな意味で長い一日が終わった。
明日から、確実に人生は変わる。
そう思いながら、眠りに落ちた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ソファで目を覚ますと、至近距離で覗き込む姉の笑顔があった。
「おはよう、ソーちゃん♡」
「……おはよう、姉さん」
「一緒にベッドで寝ていいって言ったのに♡ 一緒に寝たかったのになあ。それと昨日寝る前にシャワー浴びた? もしまだなら浴びてきたら? 久々に、一緒に体洗いっこ……する?」
いつもの姉さんだと思いながら何かされてないか体を確認する。
衣服の乱れもなく、問題なさそうだ。
シャワーに誘われるのを必死にかわしつつ、朝食をとる。
「それとね、今日は有給取ったんだ。ソーちゃんが泊まるってことで……ナニがあるかもしれなかったから♡ 今日この後どうする? 一緒に暮らすために必要な物、買い出しデート行っちゃう?」
「……ごめん。今日の昼から冒険者ギルドで話をしてその後拠点を探すつもりだから買い出しはいいかな」
「もう、気にしなくていいのに。私はソーちゃんのお姉ちゃんなんだから、頼ってくれていいんだよ。なんでもね♡」
苦笑しながらソーマは食事を終え荷物を整える。
「昨日はありがとう、姉さん。今後また頼ることもあると思う」
「当然でしょ。私はソーちゃんのお姉ちゃんだよ。……いってらっしゃい」
そう言って、リンは軽く背伸びしながらソーマを抱きしめた。
「……いってきます!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
昼過ぎに冒険者ギルドに到着した。
受付に目をやると、メルマの姿はなく、代わりに紅髪のツインドリルが揺れていた。
【栄光の架け橋】の担当のツィーナ。
露出度高めの服と抜群のスタイルで、ギルドでも何かと目立つ存在。
ユーサーに積極的に迫っては、シオニーに阻止される光景をよく見られた。
「やだ、ソーマじゃない。ユーサーたちならもう出発したわ。……あぁそうだった、あなたパーティー抜けたんだっけ。今朝聞いたわ。お疲れさま。で? 一晩考えて、冒険者やめに来たの?」
唇の端を上げ、挑発的な笑みを浮かべる。
返答に迷っていると、背後から落ち着いた声が割って入った。
「ソーマさん、お待たせしました。ジョッシュさんたちも揃っています。――ツィーナさん、ソーマさんは今日から私の担当になりますので」
現れたメルマに、ツィーナは肩をすくめて言った。
「ふうん。まあいいわ。……無理しないでね。知り合いの顔が死体袋に入るの、後味悪いから」
いちいち余計なことを言うツィーナを背に、ソーマはメルマについて行った。
ギルマスの部屋にはすでにジョッシュとクリスが揃っていた。
「来たな」
カルヴィラが低く重い声で告げる。
「昨日話していた件だが、さっそく君たちにクエストを一件任せたい」
手渡された依頼書を広げる。
「……ダンジョンの調査依頼」
「そうだ。王都の南西、ゲシュ町の近郊だ。ここ数日ゴブリンが急激に増えている。王都にも近い以上、見過ごすことはできん。新人では危なっかしいが……君たち三人なら調査程度は任せられると判断した」
カルヴィラの視線が鋭くソーマたちを射抜く。
――ダンジョン。
それは自然に発生する魔力の渦であり、あらゆる物質を飲み込み、魔物を引き寄せる災厄。
一定以上の魔力が凝縮されればダンジョンコアが生まれ、そこを中心に魔物が群れを成し、地下へと潜って巣を広げていきそれがダンジョンを形成していく。
放置すれば、やがて魔物が溢れ出すスタンピードを招く危険もある。
冒険者の任務の一つがダンジョンを発見次第、速やかに調査し、最深部のコアを破壊するダンジョンブレイクをすることだ。
「ゲシュ町周辺は一週間前には異常なしと報告があった。だが急にゴブリンが増えた。原因を突き止めてほしい」
――ゴブリン。
小柄だが獰猛で狡猾、群れを作ることで脅威となる魔物。
単体なら大したことはないが、指揮を執るゴブリンリーダーや魔法を使うゴブリンシャーマンが現れれば、事態は一変する。
一週間前には何の兆候もなかったのに、急に増えたという点が気がかりだ。
それでも、三人に期待してくれているカルヴィラさんの言葉に、応えたいと思った。
「俺は――この依頼、受けたい。ジョッシュ、クリスは?」
「もちろん! 三人の最初の仕事にはぴったりだ」
「私も賛成です。危険を感じたら、すぐに撤退すればいいのですから」
三人の思いは同じだった。
ソーマは依頼書を強く握りしめ、ギルドマスターを見据えた。
「カルヴィラさん。この依頼、俺たちにやらせてください!」
「――うむ。依頼を引き受けてくれて何よりだ。ただし、くれぐれも無理はするなよ。パーティーとしてはまだ産声を上げたばかりだ。準備を怠らず、常に退路を意識して動け。それさえ守れば、必ず道は開ける」
ギルドマスターの重みある言葉に、背筋が自然と伸びる。
三人は礼を述べ、再び受付へと戻った。
「改めまして――パーティー結成おめでとうございます」
メルマは柔らかな笑みを浮かべながら、一枚の羊皮紙を差し出した。
「こちらが結成届になります。パーティー名は後日でも構いませんので、まずは記入できるところからどうぞ」
受け取った瞬間、紙の重み以上のものを感じた。
一年前以上の期待と高揚を感じた。
必要事項を埋め、残るはパーティー名とリーダーだけになった。
「さて、リーダーは……クリスでどうかな?」
「えっ、わ、私ですか!? いやいやいや、リーダーなんて……!」
ソーマの提案にクリスは慌てて両手を振った。
「聖女を目指すつもりもないですし、性格的に人を引っ張るタイプじゃありませんよ」
「じゃあ俺か? ……いや、俺はどう考えても向いてねえな」
ジョッシュは頭をかきながら笑う。
「正直なとこ、ギフト研究会で会長やってたソーマの方がずっと適任だろ?」
「私もそう思います」
クリスが頷く。
「二人にそこまで言われたら、断る理由はないな……わかった、俺がリーダーで登録しておくよ」
リーダーに自分の名前を書く。
インクが羊皮紙に染み込むと同時に、言葉では言い表せない実感が胸に広がった。
「パーティー名は……今すぐに決めなくてもいいか。後日にしよう」
「そうだな。どうせなら三人で納得いくものを決めたいしな」
「はい。時間をかけてもいいと思います」
こうしてソーマをリーダーとした新しいパーティーが、正式に誕生した。
これはもう、後戻りできない旅立ちの証だ。
異父母姉弟(兄妹)は結婚可能な法律については異世界って事で許してください。
王族、貴族の跡継ぎ問題でそうなったって認識でよろしくお願いします。
日本ではダメ絶対です。
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