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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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44:女王戦、決死のフラグブレイク

【クリスティーナ視点】


 ——なぜ……なぜ私は、また無力なんですか。


 ソーマさんに迫る女王の槍がまるでコマ送りのように、ゆっくりと迫る。


「ソーマさんッ……!」


 声にならない叫びが、喉の奥で泡のように消えた。

 巨体の虫の女王が、ソーマさんの眼前に立ちはだかっている。

 その黒光りする外殻。

 ギラついた複眼。

 無数の羽音が、空気を振動させていた。


 かつてない……まさしく絶望を具現化したような存在だ。


 私は、誓ったのに。

 この手で……みんなを守ると誓ったのに——!


(……また……また届かないなんて……そんな……!)


 ソーマさんの回避も防御も間に合わない。

 女王の槍。

 あれは——致命の一撃。


(だめ、お願い……お願い死なないで……!)


 自分でも気づかぬうちに、足が動いていた。

 防御結界を解き、ソーマの元へ駆け出す。

 その刹那——


「私は……!」


 胸の奥で、何かが音を立てて砕ける。

 その破片が、逆に()を放った。

 意識が、まるで澄んだ泉のように研ぎ澄まされていく。

 時間が、空間が、世界が、静寂に包まれる——


(守りたい。この手で……あの人を、守りたい)


 その瞬間——


《スキル:セイクリッドアーマーが解放されました》


(……ありがとう。応えてくれて……)


「お願い……!  ソーマさんを守って!! 【セイクリッドアーマー】!!」


 発動されたのは、これまで使ってきた広域防御ではない。

 極めて限定的、ただ一人を護るための結界。


 その対象は、当然——ソーマ。

 密度が違う。

 空間がねじれるほどの聖域。

 一切の攻撃を拒絶する()()()()


「間に合って……!!」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ドガアアアアアアッ!!!!


 虫の女王の針が、稲妻のごとく落下した。


 ソーマ目がけて一直線に振り下ろされたその一撃は——

 しかし、金属が砕けるような轟音と共に、何かに阻まれる。


「なっ……!?」


 見えない鎧。

 否——女神の加護が形となった鎧。


「……今度こそ、私は……!」


 クリスは震える膝に力を込めて立ち上がる。

 全身傷だらけ、脚も震えている。

 それでも、立ち上がる。


 倒れるわけにはいかない。

 この想いがある限り、彼女は——立ち続ける。


「セイクリッドアーマーは……大切な人を守るための力……! 来るなら来いッ!!」


 掲げた手が、聖光を生む。

 女王の羽音が再び轟き、空気を震わせる。

 だが、クリスは怯まない。


「ッ……構うか……来いよ!」


 女王が再びソーマに殺到しようとした、その瞬間——


「ソーマさん! 見て、あれ!」


 エーデルの叫び。

 女王の動きが、明らかに鈍っていた。

 苦悶のような振動を身体に走らせている。


 光る破片。

 砕けたお守りが、微かな光を放って空気中に拡散している。


「……あれって……()()()()には効かないはずじゃ……?」


 ジョシュが困惑の声を漏らす。


「なんだっていい! 今しかない!  一気に畳みかけるぞ! 奴を……ダンジョンコアを破壊するッ!!」


 ソーマの叫びに、皆が応える。


「ジェラウド!  女王の右脚がやられてる、そこから崩せ!」

「任せろオオオオオオ!!」


 ジェラウドが雄叫びと共に跳躍し、盾を叩きつけるように叩き込んだ。

 女王の右側に体重がかかり、バランスを崩した瞬間――


「シオニー!  上から狙え!  腹部を狙えッ!!」

「了解よ! ──ブチ抜いてあげるッ!! 悪しき魂に神の怒りを……【セイクリッドブレイム】!」


 神の裁きが降り注ぎ、女王の腹部に光の杭が突き刺さる。

 外殻が砕け、奥に潜んだ脈動が覗いた。


「エーデル、続け! いま、凍らせれば動きを止められる!」

「周りの虫ごと! 吹雪に飲まれなさい【ブリザード】!」


 冷気が渦を巻き、女王の腹部全体を瞬時に凍りつかせた。

 心臓部──融合されたダンジョンコアが、青白く脈打ちつつも動きを止める。


「ジョッシュ! 今度は中心を狙え! 全力を叩き込めッ!」

「──もう一発くらいなら……イケる!!」


 ふらつきながらも、ジョッシュは魔力を握りしめた。

 滾る熱が、再び手の中に集束していく。


「今度は……ど真ん中だ! 火の玉ストレート・MAX】!!」


 灼熱の魔球が一直線に放たれ、脈動するコアに——直撃。


 ドオオオオオオオンンッ!!!!


 地鳴りと共に爆発が起き、女王の装甲が割れた。

 苦悶の咆哮。

 砕けた外殻の奥に、埋め込まれた赤黒いダンジョンコアが、ついに露わになる。


「——見えた!!」


 ソーマとユーサーが同時に走り出す!


「道を作ります!」

「道を開けやがれッ!!」


 群がる虫を、クリスのシールドが弾き、アイムが投げナイフで次々と射抜く。

 仲間の援護を背に、ソーマとユーサーは突貫する!


「これで……終わらせるッ!!」


 ユーサーが剣に雷を纏わせる——が、


「ッ……まだ動くか!」


 女王の死に際の反撃が、ユーサーを狙う。


「させるかッッ!!」


 ソーマが身を挺して一撃を弾き飛ばす!


「いけ! ユーサー!!」

「——聖なる意思よ、我が敵を討て【ライトニングセイバー】!」


 ズガアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!


 雷鳴と共に、女王の胸部が爆ぜた。

 粉々に砕け散るコア。

 その身体が……完全に、静止した。


「……崩れるぞ! 離れろ!!」


 巨大な女王の身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 その腹部に埋め込まれていたダンジョンコアが砕け、粒子となって宙を舞った。

 きらめく魔素の砂は、風にさらわれて夜空へと消えていく。


 ──そして。


 静寂。


 どこかで、誰かがへたり込む音がした。

 誰もが言葉を失い、ただその場に立ち尽くす。


 安堵。

 重く淀んでいた空気が、すうっと引いていく。

 まるで、何かがようやく許されたかのように。


 ゆっくりと、ソーマが目を開けた。

 目の前の光景を確かめるように、まばたきを繰り返す。

 その視界に、仲間たちの顔が映る。

 皆、信じられないように……けれど、確かに笑っていた。


 女王は——倒れた。


 その死と同時に、無数の虫たちが断末魔のように悲鳴を上げる。

 特別種の個体は音もなく溶けてゆき、残った群れも、統率を失い、バラバラに飛び去っていく。


 あれほど圧し掛かっていた圧迫感が、ゆっくりと霧のように消えていった。


 けれど——今だけは。

 この瞬間だけは、その余韻に身を委ねていい。


《アストレイと栄光の架け橋の死亡フラグが破壊されました》


 ──戦いは、終わった。

 勝ったッ!第3章完!

 もうちょっと続きます。

 ボス戦の戦闘描写が難しすぎる。


※作者からのお願い


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