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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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35:再会はフラグの香りとともに

 馬車の車輪が小枝を踏み、かすかな軋みを上げながら、木立の中の緩やかな坂を下っていく。

 葉擦れの音に混じって、小川のせせらぎが耳に心地よいリズムを刻んでいた。


 ──視界が開ける。


 その先に広がっていたのは、小ぢんまりとした素朴な村の風景。

 煙突から立ちのぼる煙、静かに回る水車、遠くから聞こえる鶏の鳴き声──

 ふと、頬に優しい風が吹きつけた。

 懐かしさを含んだ、土と木の匂いを運ぶ風だった。


「……帰ってきたな、ヒュッケ村」


 ソーマが低く呟いた。

 その声に、荷台で身体を預けていた二人が、顔を上げた。


「へぇ、ここがソーマの故郷か……なるほど、空気がうまいな」


 ジョッシュがゆったりと体を伸ばしながら、村の風景を眺める。


「水車……初めて見ました。なんか絵本の中みたいですね」


 クリスが小声で感嘆の声を漏らす。

 王都育ちのふたりにとって、こうした田舎の景色はまるで異国のようだ。


 村の入口へと近づく頃、畑で鍬をふるっていた老人がふと顔を上げ、目を見開いた。


「……おおおお、ソーマ坊じゃないか!」


 年老いた体を支えながら、老人は笑顔を崩しつつ、両手を大きく振った。


「おじさん! 元気そうでなによりです!」


 ソーマも笑って手を振り返す。


「おうともさ。おまえさん、しばらく見ないうちにすっかり立派な冒険者じゃないか。王都で有名なパーティーに入ってるって聞いたぞ?」

「ええ、まあ、色々あって……いまは任務で戻ってきたんです」


 そんなやり取りをしている間にも、村人たちが一人、また一人と集まってくる。


「まぁまぁ、ソーマちゃん! こんなに立派になっちゃって……!」

「リンちゃんは? まだ王都かい?」

「村もちょっとばかし様変わりしたよ。特に最近、虫がやたら増えててなぁ」


 懐かしい顔が次々と寄ってきて、囲まれるソーマ。

 しかし、その最後の一言に、ソーマの眉が僅かに動いた。


「……やっぱり、虫の異常発生は本当だったんですね」

「まぁなぁ、そのたびにケンさんや冒険者さん達に助けられてるよ」

「ケンさんっていうのは?」


 クリスが尋ねる。


「うん、俺の父さん。剣の師匠でもある。道場をしながら村を守ってるみたいだな。いまだに鍛錬は欠かしてないらしい」

「へぇ……どんな人なんだろう。会うのが楽しみ」


 挨拶が一通り済むと、ソーマは皆を振り返った。


「よし、まずはギルドに顔を出そう。先に調査に入ったパーティーの情報も気になるし」

「異常発生って言っても、何がどう異常なのか全然わかってないからね」


 クリスが真剣な顔で頷く。


 ヒュッケ村のギルドは、村の中央に位置する木造の建物だった。

 重厚な梁と暖かみある柱で作られたそれは、村の冒険者文化の中心であり、同時にソーマにとっては育った()でもあった。

 扉を押し開けると、木材の匂いと、やや湿った空気が迎えてくる。

 奥には酒場と宿屋が併設されており、外の世界から訪れる冒険者たちの溜まり場となっている。


「お、ソーマじゃないか! 久しぶりだな!」


 受付にいたギルドマスターのイルムさんが、笑顔で立ち上がった。


「イルムさん、ご無沙汰してます。虫系魔物の調査依頼で戻ってきました。先行してたパーティーがいると聞いてますが……」

「ああ、それなら……」


 イルムが目線をテーブル席の奥へと向ける。

 ソーマたちもそれを追い──


「……ユーサー?」


 思わず口をついて出た名。


 そこにいたのは、金髪に鮮やかな青のマントを羽織った青年。

 王都でも有名な実力派パーティー【栄光の架け橋】のリーダー、ユーサーだった。

 ユーサーはゆったりと立ち上がり、挑発的な微笑を浮かべながら答えた。


「やぁ、ソーマ。まさかこんな辺境で再会するとはね。……何をしに来たんだい?」


 ゼルガンの鍛冶屋ですれ違ってから二週間も経っていない。


「ってことは、先に調査に入ったパーティーって……」

「うん、僕たち【栄光の架け橋】さ。三日前からこの村で調査を始めているよ」


 その後ろから現れたのは、かつての仲間──シオニー、アイム、ジェラウド、エーデルらの姿だった。


「ふふん。あんたら、まさか馬車でのんびり来たんじゃないでしょうね? 貧乏パーティーはつらいわねぇ。私たちは王都から南のリーゼ港まで、飛竜便でひとっ飛びだったのよ」


 得意げにふんぞり返るシオニーに、ジョッシュが肩をすくめた。


「そりゃすげえな。でも、飛竜便って一回でいくらかかるんだ……?」


 王都から東西南北の港までは、馬車でも休みなく進んで一週間。

 飛竜便なら、一日かからずに到着する。

 だがその代償は高く、ソーマたちにはとても気軽に使える代物ではなかった。


「俺たちも虫の異常発生の調査で来た。まだ到着したばかりだが、すでに奇妙な虫型魔物に遭遇した」


 ソーマが警戒を滲ませて答えると、ユーサーは笑みを保ったまま頷いた。


「奇遇だね。こちらも似たような虫を撃退している。……再会を喜ぶべきか、それとも競争相手として見るべきか」


 ユーサーが冗談めかして言うと、エーデルがふっと微笑んだ。


「今回は競争じゃなくて、共闘になるかもしれませんよ。情報、出し合いませんか?」

「それなら助かる」


 ソーマはすぐに頷いた。


「こっちもある程度の調査は済ませてる。今からでも構わないがどうする?」


 ユーサーの提案に、場の空気が和らいだ。


「すまない、今日は俺の実家に寄るから、明日の朝からでも構わないかな?」

「ふん、のんきなもんだな……」


 アイムがぼそりと呟くが、それをユーサーがすぐにたしなめた。


「アイム。今回は同じ任務を受けた仲間として、協調するのが先だよ」


 静かに晴れ渡るヒュッケ村の空。

 その下で、再び揃った旧友たち。

 かつて共に戦い、今は異なる道を歩む彼らが、同じ目的のもとに集った。


 だが、ソーマはわずかに空を見上げながら、腰の護符にそっと触れる。


 ──護衛任務の最後に、渡されたお守り。


 妙な胸騒ぎが、風の中に微かに混じっていた。


「これで役者は揃った、ってところか……」


 静かなる幕が、音もなく上がり始めていた。

 再び登場【栄光の架け橋】。

 色々因縁がありますがユーサーは優秀なのでソーマ達と協力します。

 ……しますよね?


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