22:フラグ立つ森で、フラグを折る
ターキン樹海――別名迷いの森。
ソーマたちは薄暗い森の中を、注意深く歩みを進めていた。
木々は高く生い茂り、空を覆い隠している。
かろうじて差し込む薄明かりが、足元に揺れる影を落とす。
「……まっすぐ進んでるつもりなんだけどな」
ソーマは一度立ち止まり、周囲を見回す。
視界に入る風景はどれも似ており、既視感さえ覚えるほどだ。
いつの間にか、右へ右へとカーブするような感覚があった。
地面は一見平坦だが、よく見るとわずかに傾いている。
油断すれば、簡単に方向を見失ってしまいそうだ。
「やっぱり、変だな……」
ソーマは腰のポーチからマジックコンパスを取り出し、そっと針を確認する。
「……北はあっちか。ってことは、今俺たちが向いてるのは……東?」
体感とはまるで違う方角に、眉をひそめる。
「このままだと、ぐるぐる回ってるだけかも。定期的にコンパスで方角を確認しよう」
「了解。じゃあ、十歩ごとに木に印をつけて進もう。俺がやる」
ジョッシュがナイフを抜き、手近な木に目印を刻み始めた。
「後方、警戒します」
クリスは静かに呟くと、背後に気配を研ぎ澄ませる。
彼女の集中力が、森の気配と溶け合っていくように感じられた。
と――
「っ、来ます!」
クリスの鋭い声と同時に、茂みから勢いよく飛び出してきた影があった。
「フォレストウルフ、三体!囲んでくる!」
灰褐色の毛並みをした獣型魔物。
鋭い牙と爪を持ち、群れで狩りをする習性を持つ。
「迎撃!」
ソーマは反射的に剣を抜き、真正面の一体に向かって駆け出す。
迫りくる魔物の突進に合わせ、タイミングを見て剣を振る。
ガギィンッ!
金属と牙が交錯し、鋭い火花が散った。
手応えを感じつつも、体勢を崩したフォレストウルフに追撃を与える前に――
「くらえ!」
ジョッシュが投げた魔球が横から飛び、魔物の脇腹に直撃。
ドガンッ!
「一体目、討伐!」
「左から、くるっ!」
クリスが警告しつつマジックシールドを俺に発動する。
青白い半透明の盾が展開され、突進してきたフォレストウルフを弾き返す。
ソーマはその隙を逃さず、懐に潜り込む。
「ッらあっ!」
喉元へ鋭く刃を突き立てる。
フォレストウルフは短い呻き声を上げて崩れ落ちた。
「最後は俺に任せろ!」
三体目へ向かってジョッシュが魔球ストレートを投げる。
すでに負傷していたフォレストウルフは避けきれず――
ズドォン!
「……討伐、完了」
残骸が静かに倒れ伏した。
短い戦闘だったが、油断すれば怪我をしていたかもしれない。
「ふぅ……みんな、大丈夫?」
「軽い擦り傷だけ。問題ない」
「私も平気です」
ソーマたちは息を整えつつ、魔物の素材を回収した。
牙と爪はギルドで換金できるし、念のため肉も少量だけ剥ぎ取っておく。
「それにしてもジョッシュ、魔球の威力上がってないか?」
「投げ込みの成果と、魔力の安定化かな。球の大きさを一定にしたから、制御しやすくなった」
和やかな会話で緊張が少し緩む中、森の奥にわずかに開けた場所が見えた。
「ん……あそこ、日が差してる?」
ソーマたちはそこへ足を運ぶ。
木漏れ日がスポットライトのように注ぐ場所。
その中心に――
「あれ……あれは?」
しゃがみ込み、慎重に確認する。
「……グレイ草、間違いない」
三つ葉で、青地に黄色の筋。
そして触れればじんわりと温もりが伝わる。
「魔力、感じるね」
「状態良好。根から慎重に採ろう」
ソーマたちは特製の採取ナイフで丁寧に掘り起こし、保管袋へと収めた。
「この調子なら……あと何株か、見つかるかもな」
わずかに希望が差したその時だった。
「……あれ、見てください」
クリスが小さく指をさす。
離れた木の根元に、何かが落ちていた。
錆びた金属の反射。
近づいていくと、そこには――
「バックパック……水筒……剣の破片……」
「これ……誰かの遺品か……?」
ジョッシュがそっと短剣に手を伸ばしかけた、その瞬間。
《ジョシュアの死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》
ソーマの視界に、久しぶりのスキルウィンドウが展開された。
(っ……!?破壊する、即座に!)
《フラグ発生確認――破壊対象:『ジョシュアの死亡フラグ』》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:ジョシュアへの警告、もしくは防御行動をとってください》
「ジョッシュ、離れろ! それ、罠だ!」
「え? な、何――」
ジョシュアが動きを止め離れた瞬間――
《ジョシュアの死亡フラグが破壊されました》
そして――
ズゥゥン……
大地が、低く唸るような音を発して揺れた。
視線を森の奥に向けると、そこに――
「……ト、トレント!?」
巨体の魔物が、ゆっくりと姿を現す。
苔むした木の巨人。
その目には光はなく、ただ静かにこちらを睨んでいた。
「まさか……遺品を撒き餌にして、待ち伏せしてたのか……」
トレントの太い腕が持ち上がり、枝のような指先には、冒険者の装備の一部が巻き付けられていた。
恐らく、過去の犠牲者のものだ。
ソーマの背筋に冷たいものが走る。
「迎撃態勢を取れ! こいつ……只者じゃない!」
唸るような風が吹き荒れ、木の葉が舞い上がる中――トレントが、完全にその姿を現した。
この戦いは、ただの通過点では終わらない。
トレントってドラ○エのイメージで考えて貰えたらいいと思います。
基本的に私の魔物描写はドラク○の影響が多い部分があります。
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