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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

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18:バット探しはフラグだらけ

「……ないな」


 昼過ぎ、陽の傾き始めた商業区の路地裏。

 ソーマたちはまた一軒、武器屋を後にして通りへ出た。


 今日の目的はただ一つ――

 ジョッシュ専用の武器、()()()を手に入れること。


「今の店で六軒目か?」

「そうだな。……でも、全滅だ」


 ジョッシュのギフト【野球】を最大限に活かすには、ロングソードじゃ物足りない。

 昔、勇一の練習に付き合って何度も素振りした放課後――

 あの手に馴染む感覚こそが、ジョッシュにとっての()()()()()()()()のはずだ。


 ソーマの中には、理想の形がある。

 金属製か、あるいは極めて硬質な木材で作られた本体。

 スイング時に適度にしなり、反動を吸収してくれる弾性。

 そして、グリップ部分には滑り止め加工……


 しかし――


「おい兄ちゃん、そんな変な棒探してどうすんだ? 剣のほうが強えぞ?」

「打撃武器ならメイスかハンマーだな……バット? それは訓練用の棒か?」

「軽すぎるだろ、それ。強度も出ねぇぞ?」


 ――どこへ行っても話が通じない。


 ()()()の概念そのものが、この世界に存在していない。

 俺がどれだけ言葉を尽くして理想を伝えても、彼らの頭には剣やハンマーの固定観念がこびりついていて、どうにも噛み合わない。


「はあ……どうしたもんかな……」


 商業区の中央広場へ戻り、ソーマたちはベンチに腰を下ろした。

 行き交う買い物客や行商人の賑わいとは裏腹に、ソーマの思考は重たく停滞していた。


 魔球の構想は固まりつつある。

 だが、それを実現するための武器がなければ、絵に描いた餅だ。


「ソーマさん、悩んでいるようですね。何か、私たちでできることは?」


 クリスが静かに声をかけてくれる。

 その穏やかな口調に、ソーマもようやく思考を切り替える余裕が出てきた。


「……うん、ありがとな、クリス。確かに、こういう時こそ誰かに相談すべきか」

「誰に相談するんだ?」


 ジョッシュが首を傾げる。

 ソーマの中に浮かんだのは――


「……姉さんに聞いてみるか」


 そう呟きながら、ソーマはポケットから魔道通信機を取り出す。


『姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど今大丈夫? 忙しいならまた今度でいいから』


 送信。


(まぁ、平日だし……仕事中だよな。返信が来るのは、夜――)


『ピロン♪』


 ……秒で来た。

 ……もう何も言うまい。

 画面に表示されたリンからの返信を確認する。


『ソーちゃんおかえり♡ パーティー組んでCランクに昇格したって聞いたよ~♡もっと詳しく聞きたいけど、それは今度ふたりきりでお茶しながらね♡今はちょうど空いてるから、商業ギルドに来てくれたら話せるわよ♡ 待ってるね♡』


(……相変わらず、テンションが高いというか、ハートの圧がすごいな……)


「姉さん、今なら商業ギルドで会えるってさ」

「リンさんって、商業ギルドの人なんだっけ?」

「うん。ギルドの上層部に関わってて、業者との繋がりも広い。頼れる人なんだ」

「へえ……すごい人なんだね、お姉さん」

「俺、商業ギルドなんて行ったことないなぁ」

「私も初めてですけど……なんだか楽しみです」

「俺は旗の仕事で行ったことあるけど、言うほど堅苦しい場所でもないよ」


 そんな会話を交わしながら、ソーマたちは商業ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドとは一線を画すその建物は、石造りの格式と重厚感に満ちていた。

 扉をくぐると、すぐに制服姿のスタッフが迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしても?」

「リン・フラハさんに会いたいのですが……」


 俺が名前を告げたその瞬間――


「ソーちゃーん!!」


 奥の扉から、聞き慣れた声が響いた。

 次の瞬間、リンが勢いよく駆けてくる。

 ビジネススーツ風の制服に身を包み、やや落ち着いた印象……と思いきや、目元の輝きがもう隠しきれていない。


「ソーちゃんおかえり! メッセージで全部聞いてたけど、色々あったなら真っ先に私に話してほしかったよぉ♡でもこうしてお姉ちゃんを頼ってきてくれるなんて嬉しいよ♡」

「リンさん、お久しぶりです。相変わらず……元気そうですね」

「あら、ジョシュア君にクリスティーナちゃんじゃない。ソーちゃんとパーティーを組んでくれてありがとうね」

「お久しぶりですお姉さん。ソーマさんには私達の方こそお世話になってます」

「お義姉さん? えっ、なに? クリスティーナさん。ソーちゃんとはどういう関係なのかしら? パーティー組んでくれたのは嬉しいけど、お姉ちゃんはそこまで認めた覚えは……」

「……リンさん、ソーマさんにはパーティーの件で大変お世話になっています」

「……姉さん。話を戻してもいい?」

「あら、もう? せっかく久しぶりに会えたのにぃ~」


 口を尖らせるリンに、ソーマは今日の目的を簡潔に伝える。


「実は、ちょっと特殊な武器を探してるんだ。バットって言うんだけど……どこの武器屋に行っても取り扱いがなくて」

「なるほどね。バットっていうのは、私も聞いたことがないわ。でも、ソーちゃんの説明を聞いてると、既製品じゃなくてオーダーメイドが良さそうね」

「うん、そう思ってる。木製か金属製で、バランスや強度が大事なんだ」

「ふむふむ……それなら、心当たりがあるわ。ちょっと変わり者だけど、腕は本物の鍛冶職人。依頼主のイメージを形にするのが得意よ」

「それだ! ぜひ紹介して!」

「ふふっ、やっぱりソーちゃんは素直で可愛い♡ よし、お姉ちゃんが今から連絡しておいてあげる。今日の午後には訪ねても大丈夫か、聞いてみるわね」

「ありがとう、姉さん。本当に助かる」


 こうしてソーマたちは、バットという新たな武器を求めて――

 リンが紹介してくれた鍛冶屋へと向かうことになった。

 この世界にスポーツはあるのかと聞かれたらそりゃあると答えます。

 じゃあどんなのがあると聞かれたら考えてませんと答えます。

 簡単にこっちの世界でいうドッジのようなルールのバトルボールというものくらいならぱっと思いつきます。


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