18:バット探しはフラグだらけ
「……ないな」
昼過ぎ、陽の傾き始めた商業区の路地裏。
ソーマたちはまた一軒、武器屋を後にして通りへ出た。
今日の目的はただ一つ――
ジョッシュ専用の武器、バットを手に入れること。
「今の店で六軒目か?」
「そうだな。……でも、全滅だ」
ジョッシュのギフト【野球】を最大限に活かすには、ロングソードじゃ物足りない。
昔、勇一の練習に付き合って何度も素振りした放課後――
あの手に馴染む感覚こそが、ジョッシュにとってのしっくりくる武器のはずだ。
ソーマの中には、理想の形がある。
金属製か、あるいは極めて硬質な木材で作られた本体。
スイング時に適度にしなり、反動を吸収してくれる弾性。
そして、グリップ部分には滑り止め加工……
しかし――
「おい兄ちゃん、そんな変な棒探してどうすんだ? 剣のほうが強えぞ?」
「打撃武器ならメイスかハンマーだな……バット? それは訓練用の棒か?」
「軽すぎるだろ、それ。強度も出ねぇぞ?」
――どこへ行っても話が通じない。
バットの概念そのものが、この世界に存在していない。
俺がどれだけ言葉を尽くして理想を伝えても、彼らの頭には剣やハンマーの固定観念がこびりついていて、どうにも噛み合わない。
「はあ……どうしたもんかな……」
商業区の中央広場へ戻り、ソーマたちはベンチに腰を下ろした。
行き交う買い物客や行商人の賑わいとは裏腹に、ソーマの思考は重たく停滞していた。
魔球の構想は固まりつつある。
だが、それを実現するための武器がなければ、絵に描いた餅だ。
「ソーマさん、悩んでいるようですね。何か、私たちでできることは?」
クリスが静かに声をかけてくれる。
その穏やかな口調に、ソーマもようやく思考を切り替える余裕が出てきた。
「……うん、ありがとな、クリス。確かに、こういう時こそ誰かに相談すべきか」
「誰に相談するんだ?」
ジョッシュが首を傾げる。
ソーマの中に浮かんだのは――
「……姉さんに聞いてみるか」
そう呟きながら、ソーマはポケットから魔道通信機を取り出す。
『姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど今大丈夫? 忙しいならまた今度でいいから』
送信。
(まぁ、平日だし……仕事中だよな。返信が来るのは、夜――)
『ピロン♪』
……秒で来た。
……もう何も言うまい。
画面に表示されたリンからの返信を確認する。
『ソーちゃんおかえり♡ パーティー組んでCランクに昇格したって聞いたよ~♡もっと詳しく聞きたいけど、それは今度ふたりきりでお茶しながらね♡今はちょうど空いてるから、商業ギルドに来てくれたら話せるわよ♡ 待ってるね♡』
(……相変わらず、テンションが高いというか、ハートの圧がすごいな……)
「姉さん、今なら商業ギルドで会えるってさ」
「リンさんって、商業ギルドの人なんだっけ?」
「うん。ギルドの上層部に関わってて、業者との繋がりも広い。頼れる人なんだ」
「へえ……すごい人なんだね、お姉さん」
「俺、商業ギルドなんて行ったことないなぁ」
「私も初めてですけど……なんだか楽しみです」
「俺は旗の仕事で行ったことあるけど、言うほど堅苦しい場所でもないよ」
そんな会話を交わしながら、ソーマたちは商業ギルドへ向かう。
冒険者ギルドとは一線を画すその建物は、石造りの格式と重厚感に満ちていた。
扉をくぐると、すぐに制服姿のスタッフが迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしても?」
「リン・フラハさんに会いたいのですが……」
俺が名前を告げたその瞬間――
「ソーちゃーん!!」
奥の扉から、聞き慣れた声が響いた。
次の瞬間、リンが勢いよく駆けてくる。
ビジネススーツ風の制服に身を包み、やや落ち着いた印象……と思いきや、目元の輝きがもう隠しきれていない。
「ソーちゃんおかえり! メッセージで全部聞いてたけど、色々あったなら真っ先に私に話してほしかったよぉ♡でもこうしてお姉ちゃんを頼ってきてくれるなんて嬉しいよ♡」
「リンさん、お久しぶりです。相変わらず……元気そうですね」
「あら、ジョシュア君にクリスティーナちゃんじゃない。ソーちゃんとパーティーを組んでくれてありがとうね」
「お久しぶりですお姉さん。ソーマさんには私達の方こそお世話になってます」
「お義姉さん? えっ、なに? クリスティーナさん。ソーちゃんとはどういう関係なのかしら? パーティー組んでくれたのは嬉しいけど、お姉ちゃんはそこまで認めた覚えは……」
「……リンさん、ソーマさんにはパーティーの件で大変お世話になっています」
「……姉さん。話を戻してもいい?」
「あら、もう? せっかく久しぶりに会えたのにぃ~」
口を尖らせるリンに、ソーマは今日の目的を簡潔に伝える。
「実は、ちょっと特殊な武器を探してるんだ。バットって言うんだけど……どこの武器屋に行っても取り扱いがなくて」
「なるほどね。バットっていうのは、私も聞いたことがないわ。でも、ソーちゃんの説明を聞いてると、既製品じゃなくてオーダーメイドが良さそうね」
「うん、そう思ってる。木製か金属製で、バランスや強度が大事なんだ」
「ふむふむ……それなら、心当たりがあるわ。ちょっと変わり者だけど、腕は本物の鍛冶職人。依頼主のイメージを形にするのが得意よ」
「それだ! ぜひ紹介して!」
「ふふっ、やっぱりソーちゃんは素直で可愛い♡ よし、お姉ちゃんが今から連絡しておいてあげる。今日の午後には訪ねても大丈夫か、聞いてみるわね」
「ありがとう、姉さん。本当に助かる」
こうしてソーマたちは、バットという新たな武器を求めて――
リンが紹介してくれた鍛冶屋へと向かうことになった。
この世界にスポーツはあるのかと聞かれたらそりゃあると答えます。
じゃあどんなのがあると聞かれたら考えてませんと答えます。
簡単にこっちの世界でいうドッジのようなルールのバトルボールというものくらいならぱっと思いつきます。
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