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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

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16:語られるフラグと希望のギフト

 陽が傾き、街の灯がともり始めた頃、ソーマたちは無事にホームである猪熊亭へと帰ってきた。


 ギルドの依頼をこなし、Cランクへと昇格を果たし、新たなスタートラインに立った。

 気が張り詰めていた旅のあいだの緊張も、今はもうない。

 三人の顔には、どこか柔らかい笑みが浮かんでいた。


「おかえり。クエスト無事に終えたって顔してるね」


 いつもの場所、カウンター越しに、女将のマールさんが笑顔で迎えてくれる。


「ただいま戻りました、マールさん」

「聞いてくれよ、おかみさん! 今回のクエストで、俺たちCランクに昇格したんだ!」


 ジョッシュが誇らしげに胸を張る。


「パーティー名も、ちゃんと決めたんです。【アストレイ】って名前にしました」


 クリスもにこやかに続けると、マールは目を細めてうなずいた。


「ふふ、言いたいことがいっぱいあるって顔してるね。今日帰ってくるって聞いてたから、ちょっと奮発して晩ご飯、用意してあるよ。そのときに、じっくりと聞かせてもらおうじゃないか」


 用意された食卓には、煮込みハンバーグが湯気を立て、チーズがとろりととろけていた。

 付け合せのマッシュポテトはふわふわで、彩り豊かなサラダや温かいスープも並ぶ。

 漂う香ばしい匂いが、旅の疲れと空腹を優しく溶かしていく。


「うっわ……これ絶対うまいやつ……!」


 ジョッシュが目を輝かせながら、フォークを手にする。

 クリスは静かに手を合わせて、「いただきます」と言った。

 ソーマも笑顔でそれに続く。

 店の中に漂う灯りとぬくもりに包まれ、三人はまるで本当の家族のように、賑やかに食事を楽しんだ。


 ——そして、食後。


 三人は自然と、ソーマの部屋へと集まっていた。

 灯りを落とした室内は静かで、外の通りからは時折、人の笑い声や馬車の音が遠く響いてくる。


「……さて。そろそろ話してくれるか?」


 ジョッシュが、ぽつりと口を開いた。

 ギルドでも、馬車の中でも話せなかったこと。

 ようやく、誰にも聞かれずに話せる場所と時間が整った。


「うん。ソーマさん、帰りの馬車で言ってたよね?『分かったことがある』って……」


 クリスが、真剣な表情でソーマに目を向ける。

 ソーマは一瞬、言葉を選ぶように目を伏せた。思考が迷う。


(前世の記憶を、話すべきか……)


 迷いはあった。

 しかし、今はまだそのときではないと判断する。

 ジョッシュのギフトの可能性、そしてフラグの力。

 その二つに焦点を絞り、語ると決めた。


「今回、俺のスキルでちょっとわかったことがあるんだ。俺のギフト【フラグ】って、いわば()()みたいなもんなんだ。何かが起きる前の伏線、前触れって感じかな」

「伏線……ってことは、先にそれがあって、後で何かが起こるってことか?」


 ジョッシュが首をかしげながらつぶやく。


「そう。今回発動したスキルは【フラグ破壊】って名前だった。俺は死亡フラグっていう、誰かが死ぬかもしれない未来の兆しを見た。それを、スキルの力で壊したんだ」


 部屋に静寂が流れる。


「……ってことは、あのゴブリンとの戦い、本当は誰かが死んでたってことなのか?」


 ジョッシュが、思わず眉をひそめる。


「多分、そうだと思う。だけど俺のスキルが、それを()()()()を提示してくれた。今回の場合は、『持ちこたえろ』って……。ギリギリだったけど、結果的にオクトヴィアみなさんが助けに来てくれた。あれも、スキルが引き寄せた結果かもしれない」

「でも……未来が見えたからって、必ず助かるとは限らないですよね?」


 クリスの声には理知的な冷静さがあった。


「うん、そこは間違いない。選択と行動次第じゃ、逆に悪くなるかもしれない。けど——未来を知って選べるってのは、大きなことなんだと思う。今のところ、フラグ破壊は死亡フラグにしか反応しないけど……」


 ソーマは少しだけ笑い、言葉を切った。


「それと、もう一つ。ジョッシュ、お前のギフト——【野球】について、俺のギフトが何か教えてくれた気がするんだ」


 ジョッシュが、反応を見せた。


「野球について……?」

「うん。正直、今までは『なんだそりゃ』って思ってたよな。でもな、ギフトが俺に教えてくれた知識が、野球がとんでもない可能性を秘めてるって……教えてくれたんだ」

「可能性……?」


 ジョッシュが言葉の意味を咀嚼するように繰り返す。


「そう。使い方次第では、ジョッシュはもっと強くなる。技術も戦術も、全部一から構築できる。今は理解されないギフトかもしれないけど、いずれそれは”希望のフラグ”になるって、俺は信じてる」


 しんと静まる空間で、ジョッシュは拳を握った。

 誰にも認められなかった、自分のギフト。

 それが、希望と呼ばれた。

 ソーマの言葉が、ジョッシュの胸の奥深くに火を灯す。


「……ありがとう、ソーマ。俺、やっぱこのギフトで戦いたいって思ってた。どこかで、間違ってないって信じてたんだ」

「間違ってないよ。むしろ、これから俺たちはその()()()()()()()()()()()()()を選んで進んでいくんじゃないかな」


 ソーマが微笑むと、クリスもそれに応じて笑った。


「アストレイ——王道ではない人たちの名前に、ぴったりだね」

「もちろんだよ。オレたちは、【アストレイ】だからな」


 王道じゃない。

 正道でもない。

 でも、だからこそ選んだ道。


 この部屋で語られたのは、一時間にも満たない会話だった。

 だが、それは間違いなく——新しい未来のフラグだった。

 分からない事は全部フラグが教えてくれた。

 今後便利になりそうな設定になりそうです。


※作者からのお願い


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