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第31話:「楽しみだなあ、勘太郎くんと今日からLINE出来るの」

「それで、昨日は結局どうだったの? 吉野よしのちゃんとのデート、何したの?」


「いやだからデートじゃなくって……。ていうか、そういう赤崎も昨日すぐ教室出てったよな。なんか用事だったの?」


「私のことはどうでもいいでしょ? 話を変えないで。あと、七海ななみ


 話題のボールを突き返されて、おれは昨日のことをどう話そうか少し考える。


 吉野がギターをこうとしてるのは秘密だし……。最近抱えてる秘密が多すぎて処理しきれなくなってきてるな。


 苦しまぎれだが、とりあえずさわりのなさそうな事実だけを差し出すことにする。


「えーっと……一緒に本屋に行ったよ」


「ほ、本屋だったの……? どうして?」


 今、本屋という単語に赤崎が少し瞳を揺らしたように見えたのは気のせいだろうか。いやまあ、おれの目の方がよっぽど泳いでるだろうけど。


「それは……吉野の欲しい本が……その……参考書?だったんだけど、自分ではどれを買えばいいか分からなかったんだってさ」


「なんだ、参考書か。勘太郎くんって参考書選び得意なの?」


「いや、まあ、そうね、そんな感じだね……」


 教則本を参考書と呼ぶのは、ギリギリ嘘じゃない気もするし、ギリギリ嘘な気もするな……。


「ふーん、そうなんだ。じゃあ今度私も紹介してもらおうかな」


「おう……」


「それで、本買って解散したの?」


「ハイ、ソウデスネ……」


「ええ……それだけじゃないの……? ずいぶんと奔放ほんぽうな生活をなさっているようで……」


 おれの回答から何かを気取けどられたらしく、赤崎は本当に不機嫌ふきげんそうな顔になる。


「なんでそんなに怒ってるんだ?」


「いや、だって……!」


 そこまで言ってから周りをきょろきょろと見回してから、


「勘太郎くん、私と別れたら芽衣ちゃんと付き合いたいんだよね? 別の女の子とフラグ立ててどうするの?」


 と小声で聞いてくる。


「ていうか、そのことなんだけどさ。その……」


 おれも赤崎の動きにならって、一応周りを少しだけ見てから赤崎の耳の高さくらいまで軽くかがんだ。


「『おれたちは付き合ってる』って、二年生にも言った方がいいのか?」


「つ、付き合ってるって……!」


 赤崎が目を少し見開いてから、頬を赤くしてこちらを見た。さっきの怒りが持続じぞくしているのだろうが、照れてるように見えなくもない。


「いや、他に言い方がないだけだよ。そんで、あまり広めすぎても、それこそ別れるっていうか……その、契約期間が終わったときに、収拾しゅうしゅうつかなくなりそうじゃないか?」


「ああ……まあ、確かにわざわざあんまり広める意味もないのかもね」


 すん、と落ち着きを取り戻した赤崎が冷静そうに答える。


「だろ? 自分からは言わなくてもいいよな。じゃあ、聞かれたらどうすればいい?」


「聞かれたら、かあ……」


 んー、と少し考えるようにくうを見上げてから、


「照れくさそうに『ご想像にお任せします』って言うくらい、かな」


 と、とびきりの演技付きでレクチャーしてくれた。かなり意味ありげで、それでも核心かくしんには触れてなくて、かつそれ以上は追及しづらいような、そんな完璧な演技。


「対応としては分かりやすいけど、その演技はおれには出来ないな……。ていうか、演劇部にでも入れよ」


「演劇部はうちの高校にはないもん」


「そうだけど……」


 じゃあ女優にでもなれば、と思うけど、今深掘りするべきはそんなことじゃない。


「ていうか、そもそもなんだけど、その言い寄られてる先輩って何組のなんて人なんだ? 気をつけるべきタイミングとそうじゃない時を知っておきたいんだけど……」


「ああ……」


 赤崎は少しだけバツが悪そうな顔をしてから、


「今度見かけたら『あの人だよ』って教えてあげる」


 と微笑ほほえむ。


「今は?」


「今は教えてあげない」


「なんでだよ……」


「その代わり、私のLINEを教えてあげるよ」


 おれがあきれていると、赤崎は自分のスマホを取り出してこちらに向ける。


「全然代わりになってないんだけど……。まあでもたしかに、今日赤崎のLINEは聞こうと思ってたんだ」


「そうなの? 私、昨日、吉野ちゃんの件聞こうかと思って『あ、勘太郎くんのLINE知らない』って気付いたんだよね」


「ああ、そうなんだ。おれも昨日の夜にさっきのこと確認しとこうと思った時に知らないことに気付いたんだけど。芽衣めいに聞いてみたんだけど教えてくれなかったんだよなあ」


「へえー?」


 芽衣の名前が出た途端とたんに、赤崎はにたぁーっと口角こうかくを上げる。


「なんで嬉しそうなんだよ」


「いいじゃない別に。それで、芽衣ちゃんはなんて返してきたの?」


「『そんなの教えるわけないじゃん!』って」


「へえー! え、文面ぶんめん見せて」


 赤崎は手のひらを上向きに差し出してくる。


文面ぶんめんって?」


「LINEの文面だよ! 大丈夫、絶対そこしか見ないから! お願い!」


「なんでいきなりそんなにテンション上がってるんだよ。ていうかそもそも、LINEとかじゃなく」


 その発言の途中であわてて口をつぐむ。


 そりゃそうだ、昨日おれが芽衣に『赤崎の連絡先を教えて』って聞くとしたら、普通はLINEだ。それこそ一緒に住んでいるとか、夜にこっそり会っているとかでなければ。


「LINEじゃないの?」


 でも聞き逃してはくれなかった赤崎がいぶかしげにまゆをひそめる。


「ああ、あの……電話だ、電話」


「電話? 今時いまどき? どうせそのあとLINEで連絡先送ってもらうのに?」


今時いまどきだって電話くらいするだろ! スマートフォンのフォンは電話機って意味だからな?」


 うん、自分でも苦しすぎるとはわかっている。


「怪しいな……さては勘太郎くん」


 すると、ジト目でこちらを見ながら赤崎がまたニヤリと笑う。


「LINEですっごくデレデレするタイプ? それで見せられないんだ?」


「……ご想像にお任せします」


 あせをかきながら先ほど教えてもらったセリフで誤魔化ごまかす。


「ふーん? 楽しみだなあ、勘太郎くんと今日からLINE出来るの。私にもデレデレしていいよ?」


 流れ的に『しないよ……』とも言えず、苦笑いを浮かべるばかりだった。


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