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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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084 賞金稼ぎ21――『お前が原因かよ』

 俺はセラフの人形を引き連れ、オーツーの指定した場所へと向かう。


『雰囲気が変わったな。こんな場所もあったのか』

 指定された場所を目指し歩いていると周囲の景色が、金属の板を無理矢理積み上げて家のようにしていた建物が並ぶ掃きだめのような場所(スラム街)からまともな建物が並ぶ場所へと変わっていった。


 そのまま舗装されまともな建物が並ぶ通り(ストリート)を進もうとすると……。


「そこで止まれ」

 俺は武装した一団に呼び止められた。


 とりあえず敵意がないことを示すために肩を竦める。

「おいおい、そこは両手を挙げて武器を持っていないことを示して欲しかったんだがな」

「で、あんたらはなんだ?」

 俺の問いに、現れた一団のリーダーらしき男が大きなため息を吐き出す。

「この区画の警備員だよ。武器は持っていないようだが……少年、その目つき、態度、そこらの家無し子ではないようだが、ここは一応、お偉いさんや金持ちどもが住んでいる場所だ。不用意に近づかないで欲しいんだがな」

 武器を持ってこなかったのではなく、武器を持っていない(・・・・・・)が正しいな。ヒゲ面の一団が持っていた武器を、素直にオフィスに報告して渡さず、いくつか奪っておけば良かったよ。


「お嬢さんは、その少年の保護者か何かか? ここには不用意に近づいて欲しくないんだがね」

 男がセラフの人形を見て話しかけるが、人形は何も答えず笑顔を作っていた。


『お前が対応しなさいよ』

 頭に響く声は少し苛ついているで、いつものことながら思わずため息が出る。


「俺はクロウズだ。ここに呼ばれたんでね」

 俺はクロウズの身分を示すタグを取りだし男に見せる。

「仕事か? それとも護衛の補充か? 俺は何も聞いてないんだがな」

 男が値踏みするような目で俺を見る。

「クルマで来た方が良かったか?」

「いや、それはそれで困る」

 男が困ったような顔で肩を竦める。


「俺はガムだ。ここのオフィスのマスター、オーツーに呼ばれている。聞いてないか?」

「分かった。ちょっと待ってくれ、確認する」

 そう言うが早いか男は手のひらサイズのボールペンのようなものを取りだし、それに話しかける。多分、通信機か何かなのだろう。


『セラフ、お前、オーツーと直接やり取りが出来たよな? どうなっている?』

『面倒だからやってないだけ』

 セラフは何処か不機嫌そうだ。

『面倒がってさらに面倒が増えているようだが?』

『それが?』

 やはり不機嫌そうだ。

『どうした? いつもはこちらを小馬鹿にしたような態度はしても上からなのに、今は随分と余裕がなく不機嫌なようだな』

 セラフは何処か普段よりも感情的なように感じる。

『私が不機嫌? そんなはずは……』

 セラフはそれだけ言うと沈黙した。小うるさいセラフが黙ってくれて助かるよ。


「確認が取れた。着いてきてくれ」

 リーダーらしき男が案内してくれるようだ。


 オーツーの指定した店まではまだ少し距離があるようだ。男の案内でセラフと一緒に黙々と歩く。

「何か言いたそうだが、何も喋らないんだな」

 暇つぶしに俺は男へ話しかけてみる。

「仕事だからな。そりゃあ、仕事を増やすんじゃねえよとか言いたいことはあるが、これも仕事だからな」

 なるほどな。

「案内が仕事なのか? あんたは警備の中ではそれなりの地位にありそうだ。それくらいは下っ端にでもやらせれば良いだろう?」

「分かってて聞くのは嫌みだろ」

 男が肩を竦める。


 仕事――俺を案内するのがこの男の仕事ではないだろう。


「頼むから何もしないでくれよ。そのためにわざわざ俺が一緒に居るんだからな」

「そちらから何かしない限りは俺も何かしないさ」

 俺は肩を竦める。


 案内された店はこの世界ではまともそうなレストランだった。久しぶりにまともな料理が食べられそうな予感がする。


「ここだ。入ってくれ」

 男に促されるまま遠慮無く店内に入る。


 中で食事をしているのは高そうな衣服を纏った家畜ばかりだった。

「これは食事が不味くなりそうだ」

「俺に言われても困る。こっちだ」

 俺は男に促されるまま店内を歩く。


「おい。お前、ここが何処か分かっているのか」

「浮浪者を連れてくるなんて!」

 テーブル席に座っていた家畜がこちらに臭い息を吐きかけてくる。

「何故、追い出さないのですか!」

「早く撃ち殺しなさい」

 色々な声が聞こえてくる。


「なぁ、帰っても良いか?」

「それは困りますね」

 俺が男に話しかけると、それに待ったをかける声があった。声のした方へと顔を向ける。そこには人形のような少女と、それを守るように控えた黒いスーツの女が立っていた。


 オーツー、か。


「人を呼び寄せて随分と不快にさせてくれるんだな」

「申し訳ありません。そちらのセラフさんには連絡をしていたのですが、何故か答えてくれなかったので、こちらも困っていました」

 オーツーは申し訳なさそうな顔でこちらに謝る。


『お前が原因かよ』

『ふん。コイツの声が聞きたくなかっただけだから』

『餓鬼かよ』

『はぁ? お前に言われたくないんだけど!』

 セラフは相変わらず不機嫌だ。


「おい、お前ら何をしている。はやく、コイツをつまみ出せ!」

 俺とオーツーの会話に見知らぬ家畜が割り込んでくる。


「これはなんだ? これから食事なのに飯が不味くなりそうなんだが」

 俺は家畜を指差す。

「申し訳ありません。静かにさせますので」

 金の髪に碧眼、アンティークドールのような容姿のオーツーがにこりと笑う。


「おい、お前はなんだ。私を誰だと思っている」

「ブタですか?」

 オーツーはニコニコと笑っている。

「この店は客を……」

「私はここのオーナーでもありますが、オフィスのマスターでもあります。その意味が分かりますか?」

「な、な、な。ま、まさか、あなたが、あの……」

 家畜がわなわなと震えている。オーツーと家畜は俺を無視して小芝居を始めたようだ。


『これも仕込みか?』

『でしょうね』

 分かり易く権力を持っていると俺に見せてくれているのか。とても親切だな。


「私のことが分かったなら去りなさい。これ以上、ここに居るなら、私の客に不敬を働くなら……容赦しません」

 まだ小芝居は続いているようだ。


『俺は随分と舐められているようだ。不快だな』

『ええ。端末の一つでしかないのに随分と不快ね。私を舐めるなんて……』

 セラフが素直な声で反応する。


 ああ、コイツが不機嫌だった理由はこれか。


『お前と意見が合うとは思わなかったが、俺は舐められるのが嫌いなんだよ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 舐められたもんだぜ! [一言] あ、今までいたのスラム街だったんだ。ていうより高級街のが例外的なのかな? どっちにしろロクな奴がいない! セラフとガム君はこういう時に意見と息が合いますね…
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