080 賞金稼ぎ17――「お前らにも何か事情があるのかもしれない。何か深い理由があるのかもしれない」
こちらを囲んでいる連中を見る。数は、二、三十人ほどか。全員が武装している。ちらほらと見たことのある顔があるな。連中の中央に陣取る骨組みが剥き出しとなった人型の機械に座るヒゲ面の男、それにニヤニヤと嫌な顔で笑っているおでこに真っ赤なこぶを作った男――その他にもオフィスでヒゲ面の男と一緒に見かけた顔があった。
「おいおい、どうした。ブルっちまって声も出せないか。ひひひーっひ」
いかにも三下という輩が真っ赤なおでこで笑っている。
俺はとりあえず肩を竦め、中央に陣取っているヒゲ面の男に目を向ける。
「これだけ人を集めて何の用だ? ピクニックか? 残念ながらこの森にはピクニックに適した場所は、もう無いようだぞ」
もうすぐ陽が落ちる。夜が始まる。
『セラフ、夜になるとパンドラは回復しないんだよな?』
『ふん。そうね、もうすぐ停止する時間でしょ』
パンドラの残量は12しか残っていない。ブードラクィーンを倒してから殆ど回復していない。この状況でクルマに頼るのは難しいか。
「用か。クロウズに成り立ての新人が危険な森に向かったと聞いたからな、心配で団を引き連れてやって来たんだよ」
ヒゲ面の男はとても楽しそうに唇の端を持ち上げ笑っている。
「そうか。それは心配かけたな。だが、こうして無事だ。気持ちだけ貰っておくよ」
ヒゲ面の男が顎に手を当て、その髭を撫でる。
「無事? おかしいなぁ。俺にはそうは見えないぜ、なぁ、おい」
「ええ、団長。新人にありがちな自分の力を過信して危険な場所に突っ込んだのが悪かったんでしょうね」
「新人は危険なビーストにやられてしまったようっすよ。仕方ない、俺らが仇討ちをしないとなぁ。だから、まぁ、新人が使っていたクルマは形見として貰っておくか。俺らで大切に使わないとなぁ」
「ひひひー、ひっひっひ」
馬鹿みたいな小芝居を始めた連中が腹を抱えて笑っている。そういうことか。
「なるほど。小さい時に人のものを盗ったら泥棒って習わなかったのか? ああ、すまないな。今も小者だったか」
セラフがこの集団に気付かなかったのは――森が原因か。あの蚊どもは探知を惑わすような鱗粉をまき散らしていたようだからな。気付いていたのにあえて無視していた可能性もあるが……いや、セラフも俺が――この体が傷つくのは困るはずだ。気付けなかったが正解か。
『ふふん、馬鹿にしては分かってるじゃない』
何故かセラフは得意気だ。自分の探知能力をくぐられたというのにお気楽なものだ。
『はぁ!?』
のんきなセラフは無視して目の前の連中だ。
「俺らが泥棒? クロウズの俺たちをバンディットどもと同じだって言うのか。舐め腐りやがって。随分と失礼な餓鬼だ……っと、わりぃわりぃ、死体が喋る訳が無かったな。俺らは憐れな新人の形見を貰うだけだからなぁ」
「土下座して謝るなら許してやってもいいぜぇ、ひっひっひ」
連中は楽しそうに笑っている。
「許してやる、か。生きて返すつもりもないだろうに面白いことを言うな」
「お? 分かっていたのか。そりゃあ、すまないな。じゃあ、苦しまないように楽に殺してやるって言ったら分かるか?」
ヒゲ面の男が何処から取り出したのか煙草のようなものを口に咥え、火を点ける。
『煙草か。随分と余裕だな』
『ふふん。忠告しておくけど、あれ、思考をクリアにし加速させるドーピング剤よ』
ただの煙草じゃないのか。こちらを侮っているようで油断はしていないってことか。厄介な相手だ。
「借りは返したはずだが? 欲張ると後悔することになるぞ」
「新人よぉ。お前、クルマを持って強気なのかもしれないが、分かっているのか? もうすぐ夜だ。パンドラは充填出来ねぇ。そこの森で狩りをしていたお前のクルマのパンドラの残量はどれくらいだ? それに対して俺のヨロイのパンドラはフルだぜ。フル充電だ。それにこの数だ。数は数えられるか? 二十四だよ、二十四。俺ら団員全員を心許ないパンドラのクルマで相手出来ると思っているのか、あ?」
ヒゲ面の男が乗っている玩具にもパンドラが搭載されているのか。人型の作業機械という感じだが油断しない方が良さそうだ。
『セラフ、お前、オフィスとやり取りが出来るんだよな? それは今も可能か?』
『はぁ? それが何? その程度造作も無いけどぉ?』
『クロウズ同士の私闘は禁止だったはずだ。こういう場合はどうなるか調べてくれ』
『ふふん、返答があったから』
早いな。ん? 返答?
『あいつからよ。お前が連中を倒した場合は、連中を賞金首として処理するって。最近はやり過ぎて目に余っていたから、あいつも困っていたみたいね』
セラフが言っているのはオフィスのマスター、オーツーからの伝言なのか。これはお墨付きが出たと思って良いのだろう。だが、俺が倒した場合、か。つまり、勝たなければ無効ってことだろうな。
「随分とタイミング悪く不幸が重なったな」
俺はもう一度肩を竦める。蚊の妨害でセラフの探知が働かずコイツらの接近を許し、パンドラの残量も心許なく機銃を使うことも走って逃げることも出来ない。切り札である人狼化も使った後だ。すぐに人狼化は出来ないだろう。
「餓鬼、本当に不幸だったなぁ。俺らには幸運になるけどな」
俺は肩を竦める。
まったく不幸なことだ。
「お前らにも何か事情があるのかもしれない。何か深い理由があるのかもしれない」
「あ? 何を言ってやがる」
「だがな、例え、どんな理由があろうと、俺に喧嘩を売るというのなら……俺は容赦しない!」
そうだ。敵は叩き潰す。




