072 賞金稼ぎ09――「それならすでに終えている」
「ゲンじい、帰ってきたよ」
「今日も一緒か」
くず鉄置き場で作業をしていたゲンじいさんが俺の方へ少しだけ振り返り、すぐに作業へと戻る。
一緒? セラフの人形のことだろう。
「これは監視役らしいから仕方ない」
ゲンじいさんからは見えていないだろうがとりあえず肩を竦めておく。
「そうか、仕方ないか。それでどうするんだね?」
ゲンじいさんは黙々と作業を続けながらそんなことを聞いてくる。
どうする、か。
「クロウズ試験の合格祝いにお金が出た。とりあえず、今までの食事代としてこれを」
俺はセラフが持っている乾電池の中から単二乾電池を全て取り、ゲンじいさんの隣に置く。ゲンじいさんがそれをちらりと見て、大きなため息を吐き出す。
「多すぎるようだがね」
「今までの利子だと思って欲しい。後、残金が二万コイルほどあるのだが、今すぐの借金返済は一万コイルで勘弁して欲しい」
俺の言葉を聞いたゲンじいさんがもう一度大きなため息を吐き出す。
「その借金は無しにしても構わないんだよ」
「いや、助けて貰ったのに、その恩を返す手段すら消されてしまうのは困る。借りたままになるのは……正直、気持ち悪いんだ」
「分かった。それなら貰っておこう」
セラフの人形から単一乾電池を受け取り、ゲンじいさんの隣に並べる。
「ゲンじい、相談だ。この残りの一万コイルで俺のクルマ用の武器を調達したい。出来るだろうか?」
俺が譲り受けたクルマ――グラスホッパー号。オープンカースタイルになった小型の軍用車だ。後部座席が改造され銃座になっているが、そこに肝心の銃が無い。
「それはオススメしない」
ゲンじいさんからぶっきらぼうな言葉が返ってくる。
「どういうことだ?」
ゲンじいさんが作業の手を止め、俺の方へと振り返る。
「まずは自分の身を守るプロテクターを購入するのが鉄則だからだよ。プロテクターはクルマと同じシールド、それの簡易版を張ることが出来る。生存率が大きく上がることだろう。クルマがあれば、クルマのパンドラからシールド用のエネルギーを補給することも可能だよ。生存率を大きく上げてくれるだろうからね」
プロテクター?
なんとなく言わんとしていることは分かるが、俺の場合は不要だ。
「安いものでも良いからプロテクターを買いなさい。そして、次に買うのはクルマ用の演算制御装置にするべきだ」
「演算制御装置?」
ゲンじいさんが腕を組み、頷く。
「多くのクルマが一人で動かせるのは演算制御装置のおかげだ。武器の制御からシールド、パンドラの分配など、全てに関わってくる電子機器なんだがね。君のクルマに搭載されている演算制御装置はお世辞にも優れたものとは言えないんだよ。そのままで扱うには余程の熟練の腕が必要になるだろう」
なんだ、と。
せっかくクルマを手に入れたと思ったのに、動かすことが出来ないのか。なんという、がっかりだ。
いや、それでも。
「ゲンじい、武器が無いのは困る。戦えなければクロウズとして稼ぐことも出来ない」
「それで今までどうやって来たんだね?」
それを言われると困るな。
「クルマ用では無く、人用の武器ならかなり安価で手に入るだろう。AYO工場群なら、それでも戦えるだろうからね。命を粗末にせず地道に稼ぐことも必要だよ」
ゲンじいさんが俺を諭すような目で見ている。いや、しかしだな……。
「それにだがね、何も狩りをせずとも、旧時代の遺跡から売れそうなものを探してくるだけでも生活出来るとも思うのだがね」
む。
むむむ。
しかしだな。
『それでも武器を手に入れるべき』
……セラフと同意見なのは困ったものだが、それでもまずは武器だろう。だが、クルマが動かせないとなると武器よりもまともな演算制御装置とやらを手に入れるのが最初になってしまうのか。
「ゲンじい、演算せ……」
『不要でしょ』
俺がゲンじいさんへ飛ばそうとしていた言葉をセラフが止める。
『どういうことだ?』
『私が動かすから最低限の電子機器で充分って言っているの』
セラフが動かす?
命の危険を感じる提案だ。
俺を狙っているセラフにクルマを任せるなんて狂気でしか無い。
『はぁ!?』
『日頃の行いだろう?』
『いいから武器を手に入れなさい』
『何を企んでいる?』
『ふふん。今はお前をクロウズとやらで有名にすることが優先になっただけ。私が力を貸すことに感謝なさい』
何か企んでいることは間違いないようだ。
だが、それでも俺の助けとなるなら任せてみよう。
「ゲンじい、クルマはこのままで大丈夫だ。クルマの銃座に乗せる武器が欲しい」
「君は話を聞いていたのかね」
ゲンじいさんがこちらを威圧するような目で見ている。
「聞いていたよ。クルマの運転に関してはそこのセラフにやって貰う。プロテクターに関しては……俺はちょっとやそっとのことでは死なないから大丈夫だ」
ゲンじいさんが大きく息を吐き出す。
「そう言って帰ってこなかった者を何人も知っているから言っているんだよ」
ゲンじいが俺を見ている。俺はその瞳を見つめ返す。
「簡単には死なないから大丈夫だ」
俺は、その言葉通り、ちょっとやそっとのことでは死なない。死にそうな怪我でも時間をかければ再生する。最悪、人狼化すれば傷や怪我はすぐに治ってしまうだろう。
だが、確かにその能力に頼り切って油断が出来る訳ではない。あくまで死ににくいというだけだ。
俺はその再生能力があるからこそ、武器を優先したい。
俺はゲンじいを見る。
「分かったよ。武器を都合しよう」
「それじゃあ……」
「待ちなさい。これから言う条件をクリアしたら、だ」
条件、か。仕方ない。それくらいは頑張ってみるか。
「どんなに賞金額が低くても良いから賞金首を一人倒しなさい。そうすれば一人前のクロウズとして認めて武器を都合しよう」
……。
俺はゲンじいさんのその条件を聞いた瞬間、笑ってしまった。
賞金首を倒す?
「それならすでに終えている」




