764 リインカーネーション34
「あなたにはとあるものの回収をお願いしたいと思っています」
私は目の前の少女もどきを見る。
金の髪に碧い目、まるで人形のような少女。
まるで?
人形そのものだろう。
「ふふん」
私は肩を竦める。
「あなたのことはお母様から聞いています。そのお母様からの依頼ですからね。私としては未だ懐疑的なのですが、ここはお母様には従いましょう」
「そう……」
心に響かない人形の言葉にため息を吐く。
目の前に居るのは、マザーノルンから分かれた端末。この都市を管理している人工知能――それが操っている人の形をした機械でしかない。
人工知能が人のフリをして、人もどきを管理している。
お人形遊びをしている人形ね。
「ふふ、詳しいことを説明しますね。AYO工場群にある、この建物の地下にある旧時代の兵器の回収です。AYO工場群は分かりますか? この兵器は非常に大きく普通の方法では回収が難しいんですよ。私の命令を聞かない機械が守っているのも問題です。そこであなたの力を借りて回収したいと思います」
「ぷ、ふふふ」
私は目の前の人工知能の言葉に思わず笑ってしまう。
借りて?
借りる相手に命令をするの?
いくら人間のフリをしても人工知能は人工知能。機械でしかない。人がどう考えるか、どう思うかを考慮していない。
「ふふふ、いいね、いいわ。やりましょう」
私の言葉を聞いたお人形がわざとらしく手を叩く。その音に反応して新しく二体の人形が現れる。
このお人形さんが管理している人造人間だろう。
「この人を護衛しなさい」
「はい」
「わかりました」
お人形さんが二体の人造人間に、今、初めて伝えたかのように命令する。
すでに話がついてるはずなのに、こんな茶番!
あなたたちは繋がっていて通信も行なっているでしょう?
同期している機械同士でなんてわざとらしい。
私がお前たちの正体を知らないと思っているの?
「この二人は優れた戦闘能力を持っています。あなたの邪魔にならないでしょう。とても役に立ちますよ」
目の前のお人形さんが目を細め、小さく微笑む。
「ふふふ」
私も笑いを返しておく。
人工知能は長い年月をかけて人真似が上手くなった。
でも、まだまだね。
邪魔にならない?
役に立つ?
それはこちらが判断することでしょう?
ああ、でも、人でもこんな風に、無意識に思い上がっていた輩は居た。そういう意味では人間らしくなってきたのかもしれない。
ふふふ。
「わかったわ。あなた方とは同盟を結んでいるのですもの、ふふふ、それの回収をやってみましょう」
私はこいつらのお遊びに付き合うことにした。
下準備を終え、日程を調整してからAYO工場群に向かう。
「お客様、何故、今日なのですか?」
人造人間の片方が話しかけてくる。どうやら私が決めた日程にご不満らしい。
「わっ、びっくりした。あなた喋ることが出来たのね」
「はい、喋ります。私はお客様の護衛です。業務を遂行するためにも円滑な人間関係を築きたいと思っています」
だから喋ったと?
護衛?
監視の間違いでしょう。
「ふふん、今日、この日に向かうのは嫌がらせのため。その方が面白いでしょう?」
私は人造人間にそう答える。
AYO工場群の一部はレイクタウンを支配している人工知能、あのお人形さんに管理されている。危険らしい危険は、あのお人形さんが狙って起こさない限り何も無いだろう。
だから、楽しくなるよう今日にした。
今日はお人形さんたちがやっている遊び――クロウズとやらの試験が行なわれる日だ。
その試験を観察しながら依頼を遂行するのだ。
「お客様、勝手なことは困ります」
「危険です」
二体の人造人間が面白いことを言っている。
勝手?
勝手!
お前たちの支配地域で何が起こるというのかしら?
「お客様、ここには非常に危険な機械が眠っています。回収予定の兵器を守るそれらは暴走している可能性があります」
「さすがに私たちでもそれの相手は難しいです」
「お客様、これはここだけの話ですが、オフィスが追っている賞金首が近くに潜伏しているという情報もあります」
「静かに、すみやかにお願いします」
人造人間の二人がそれっぽいことを言っている。
「そう……」
私は肩を竦める。
私たちはAYO工場群にある、目的の施設に潜入する。
私の予想通り、何も起こらず地下の隠し部屋に到着する。
たまたま運良く、暴走している機械に出会すことはなかった。ああ、クロウズ試験でやって来た連中が上手くデコイになってくれたのかもしれない。
「お客様、私は……無いとは思いますが、ここで試験を受けている連中がここに近寄らないよう見張りに行ってきます。お客様、なるべく早く回収していただきますようお願いします」
人造人間の片方が綺麗な形で頭を下げ、通路に戻っていく。
「ふふん」
私は肩を竦める。
「それではお願いします」
ここには人造人間の一つと私だけが残った。
「ええ、分かったわ」
地下にあった旧時代の兵器。
巨大な大砲。
私はそれに触れる。
予想通り構成物質がナノマシーンに変換されている。
私は元のナノマシーンへと分解し、吸収する。
その様子を見ていた人造人間の動きが固まる。
氷のようにフリーズしている。
「あらあら、どうしたのかしら?」
「どうやって運ぶのか、疑問に思っていました。何をやったのですか? 私の理解を超えています」
人造人間が表情を変えずそんなことを言っている。どうやら驚いているようだ。
「あらあら、驚いたのなら、驚いた顔を作らないと。化けの皮が剥がれているじゃない」
私の言葉に人造人間が反応する。
無言でこちらに襲いかかってくる。
自分が人造人間だという正体が見破られた、そう考え、機械的に、証拠隠滅のため動いたのだろう。
「お間抜けさん」
私は襲いかかってきた人造人間の一撃を躱し、触れ、分解する。
人造人間がただの小さな粒に変換され霧散する。
「さて。仕事も終わったから帰りましょう。ふふん、少しはお人形さんをからかえたかしら」
一応、仕事は仕事。
回収した大砲はお人形さんに渡しておこう。それをどうするかは、お人形さん次第ね。




