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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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750 リインカーネーション’20

「……えーっと、はぁ、優れた管理の仕方を学びたいので、所長、案内をお願いしても良いですか?」

 私は小太りな女性の言葉にうんざりとしながら、そうお願いする。


「まぁ、なんと。自分は……」

「えーっと、神無月所長の優秀さを天津博士に伝えておきます。あー、えーっと、そうですね、管理システムの方にもあげておきます。管理システムの適性振り分けにもミスはあるということですね。所長の優秀さをもっと知りたいので案内を頼んでも?」

 私は片目を閉じ、肩を竦めながら伝える。

「ふひ、ですよねー。私は優秀ですから。ふひ、ふひ、ふひ。ああ、案内でしたか、こちらですよ」

 小太りの女性が鼻息荒く、のしのしと歩いていく。私はその後ろを苦笑しながら追いかける。


ミナモト博士(・・・・・・)、くれぐれもよろしくお願いします。ふひ、私はここで終わるような……終わらせるなんて勿体ないこと! 許せませんよ。ふー、ふー、適性、そう適性、マザーだって間違いはします。いえ、天津様を疑ってる訳じゃないんですよ。ただ、どうしたってミスはあるでしょう? 未だ発展している途中の技術ですしねぇ。それが正されるんですから、ええ、とっても価値のあることですよ。正され、ミスは帳消しになる。マザーがより優れたものになるということです。こんなリサイクル施設の……、あー、ミナモト博士、こちらですよ」

 神無月マロリー所長の案内で研究施設を歩く。


 やがてゴチャゴチャと配管が並ぶ通路に変わる。

「ホント、うんざりしますよ。この無駄。ここの管理端末が無能だから! ふー、ふー、こんな風になるんでしょう。そりゃあ、マザーにも見捨てられますよ。そんな端末でここを動かしている私の苦労が分かりますか? 天津様直属のエリートにはない苦労! ふー、ふー、ホント、ああ、鬱陶しい」

 小太りな女性が慣れた様子でひょいっと配管を飛び越えている。


 案内された部屋は無数の機械とそれに繋がった大きな試験管が並んでいる。試験管の一つ一つが人よりも大きい。それこそ、人一人がすっぽりと入るほどの……、


「これは第四サテライトから運ばれたものですが、ふー、こんなものまでリサイクルですよ。研究内容がリサイクルだからって物までリサイクルする必要はないでしょうに。これは神無月家の私に対する冒涜ですよ。ふぅふぅ、あー、すいません。管理システム(・・・・・・)の前では人は皆対等でしたか。平等ではないというのが機械らしい、ええ、ふふふ、ふひ、そういう建前ですものね。そうそう、優れた人間と劣った人間、それは違うでしょ。対等なんて建前、いくら天津様の作ったシステムでもマザーはまだまだ人を知らなすぎですよ」


 大きな試験管の前では、ここの職員らしき白衣を着た研究者たちが何やらブツブツと呟きながら装置をいじっている。


 私はその大きな試験管を見る。


 ……。


 そこには見知った顔の――友人が浮かんでいた。


 アマルガム04だ。


 間違い無い。


 他の試験管の中にも人が浮かんでいる。少年、少女? その殆どが私と同じくらいの年齢をしている。


「えーっと、ここのことを一から詳しく聞いても? 情報として知っているのと現場の方からの直接のお話では違うと思いますので、生の声が聞きたいんです」

「ふー、ミナモト博士は博士らしくないことを言われますね。研究者は情報こそ大事でしょうに。ええ、ふひ、でも、良いですよ。重ね重ね言いますが、私の優秀さを忘れないでくださいね」

「ええ、もちろんです」

 私は神無月マロリー所長の方を見て軽く微笑む。


「ここはご存じのようにリサイクル施設です。各サテライトの失敗作が送られてきます。ふひひひ、各サテライトが色々な方向から不老不死を研究していますが、ここはそれが流れ着いてくるんですよ。こっそりとですが、それぞれの技術も調べさせて貰っています。ふ、ひ、これ言わない方が良かったですかね? ふぅ、いや、違いますね。全ての情報を得ている、技術をまとめている私が優秀ってことですね。だから、間違っていない。そうですよね」

 神無月マロリー所長は得意気な顔でこちらを見る。

「そ、そうですね」

 どう反応したら良いか迷う所長の態度だが、とりあえず頷いておく。


「あれなんかは動物の遺伝子情報を無理矢理埋め込んだみたいですね。動物の良いところを取り込んだ人間を造るのだとか? ふひ、そんなことをしても不老不死には近付けないでしょ。あそこは無駄なことをしてますよ」

 神無月マロリー所長は良い笑顔でアマルガム04が入った大きな試験管をゴンゴンと叩く。


「各サテライトは一つの技術、一つの方向でしょ? ふひ、だけどここは違います。そこで出たゴミを使って再利用ですよ。物理的に掛け合わせてみたり、交配してみたり、まぁ、色々なことをやっていますねぇ。失敗したから捨てるなんて勿体ない、って考えなんでしょうねー。ここでこれだけ上手くやっている私ですから、ふー、ふー、天津様の直属になれば、もっと上手く、それこそ、不老不死の実現が可能だと思いませんか? 私が辿り着く。実現させる。あー、ふひー、優秀な人員をこんなゴミの再利用に使うなんて、それこそ……」

 神無月マロリー所長は良い調子で喋り続けている。私に話しかけているというよりも、ただ言いたいことを言っているだけ。


 自己陶酔と自己満足だ。


「ああ、どうしようもなくなったのは奥で冷凍保存してますね。ふひ、ゴミの処理にも困りますからねー。まぁ、失敗作と言っても天津様の記憶や生体情報を埋め込んだ個体もありますし、処分しづぅらいでしょ? 天津様のことを知るためにも、ふひひひひひ。どうですか、このリサイクル施設を見て。この程度のことなのに隔離して、本当に、せめて情報端末くらいは許可して欲しいですよ。こんなつまらないことをしているんですから」

 神無月マロリー所長は荒い息を吐き出しながら笑っている。


 私にはその顔がとても醜悪なものに見えた。


 失敗作。


 処理。


 私も先生から失敗作と認定されたらここに送られるのだろうか。


 再利用と言われ、この女に好き勝手なことをされるのだろうか。


 アマルガム04は何を失敗したのだろうか。


 アマルガム101はどうやってここのことを知ったのだろうか。


 ……。


 アマルガム101に聞いた方が早いかもしれない。

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