665 ラストガーデン36
「どうやってもう一人から逃げてきたか知らないが、そんな玩具、この体には効かぬ。ここは通さぬ」
サングラスの男はそんなことを言いながら大きく口を開ける。その口の中には大きな砲口があった。口の中の砲口に光りが集まる。
俺は小さくため息を吐き、サングラスの男とすれ違う。
「な! いつの間に後ろに! だが通さぬと言ったはずだ。排除する」
サングラスの男がこちらへと振り返る。そして、大きく開けた口をこちらへと向け――そのままバラバラになった。
口の中に砲口、刃物の通らない体――似たような人造人間をマザーノルンの施設で見た。俺たちがマザーノルンの施設に乗り込んだあの時に全ての黒スーツの人造人間を倒していたとは思えない。残っていた人造人間を見つけ、それを容器として活用し、中に人を移植したのだろう。
人造人間の中に人を移植、か。それはもう人なのかなんなのか分からない存在だ。命をなんだと思っているのだろうか。
バラバラになったサングラスの男をしりめに、俺は艦橋に入る。
このゲームを観戦している馬鹿たちは上だ。
俺は、艦橋の中を見回す。高級そうなエレベーターが一つと階段が一つ。他に道は無い。俺はまずエレベーターに近づく。備え付けられたボタンを押す。なんの反応もない。どうやら指紋認証と網膜認証を併用したセキュリティがあるようだ。俺では扱えない。だが、このままには出来ない。このエレベーターを残しておくと上の連中に逃げられてしまう可能性がある。
俺は白銀の刃を振るう。
この刃に斬れないものは殆ど無い。この世界がナノマシーンにあふれ、ナノマシーンで作られている限り、この刃は通るだろう。
切り裂くだろう。
バラバラになったエレベーターの扉から中を見る。分かりやすく大きく頑丈そうなベルトが縦に走っている。これがエレベーターのかごを動かしているのだろう。俺は上を見る。遙か上にエレベーターのかごが見える。
俺はエレベーターのベルトを切る。上からかごが落ちてくる。
かごは重力に引かれ、落下し、その自重で大きくひしゃげ、砕け散った。大きな音がエレベーターの内部を伝い上層へと流れていく。上の連中も俺が来たこと、エレベーターから逃げられなくなったことに気付き、理解したことだろう。
俺は階段へと向かう。獲物を追い詰めるように、いたぶるように、ゆっくりと階段を上がる。
連中は慌てて階段から降りてくるだろうか?
いや、自分たちは絶対安全だと思っている馬鹿どもだ。悠長に俺を待ち構えていてくれるだろう。
どんな罠を用意して待ち構えているだろうか。
一歩一歩、楽しむように、味わって階段を上がっていく。
……。
ん?
下の方からこちらへと駆け上がってくる気配を感じ、その場で立ち止まって待つ。
「待ってくれよぉ」
声がかかる。俺はすでに待っている。
現れたのは、艦橋の前に放置したポニーテールの少年だった。どうやら、気がつき、俺を追いかけて来たらしい。
「そこに居るのは……転入生、か? まさか、あんたが俺を助けてくれたのか」
俺は肩を竦め、それを返事の代わりとする。
「えーっと、俺のこと知ってるんか?」
俺はもう一度肩を竦め、首を横に振る。
「俺はギンだ。ギン・ヨシノイ。ハルカナでやってるちんけな武器屋の息子さ」
ポニーテールの少年が名乗る。
「そうか。俺はガムだ」
俺は一応の礼儀として名乗り返し、そのまま階段を上がっていく。
「ま、待ってくれよぉ。ガム、あんたが助けてくれたんだろ。礼を言いたい」
俺は肩を竦め、階段を上がる。
「ここの学園の奴らは安全地帯があるだとか訳の分からないことを言って、上に行こうとしなかったし、それどころか俺を置いて何処かに行くし、借りた武器は使えなくなるし、どうなってんだよぉ。ガム、あんたもおかしいと思うだろ?」
「そうだな」
俺は簡単に返事をし、階段を上がる。
「親の命令で仕方なく、学園とやらでジョーシキを学びに来てみれば、おかしい奴らばかりで、仕舞いにはこんなおかしいことをやらされて……最初は我慢していたけど、さすがの俺も我慢の限界ってヤツですよぉ。ガム、あんたもそうなんだろ?」
「そうだな」
俺は簡単に返事をし、階段を上がる。
「この上には何があるんだ? あー、武器が使えれば……。こんなことなら実家から使えそうな武器を持ってくれば良かった。ガム、あんだもそう思うだろ?」
「そうだな」
俺はおざなりに返事をし、階段を上がる。
「それで、俺は言ってやったんだ。安全地帯だって? 馬鹿なことを言うなよ。脳にお客様でも沸いているのかってね。ガム、知ってるか? お客様っていうのは伝説の存在で……」
そして、艦橋に辿り着く。
そこは大きなホールになっていた。
中央にある大きな画面には俺たち学園の生徒たちの行動が映し出されている。そして、その奥では上等な服を着た仮面の連中が飲み物や食べ物を片手に、楽しそうにそれを眺めていた。
馬鹿げた光景だ。
エレベーターが落ちたことに気付いているはずだ。俺たちが来ていることに気付いているはずだ。
それで、これか。
俺はホールの中央へと歩いていく。
「なぁ、ガム。なんだ、ここ? どういうことだよぉ。こいつら、なんだ?」
ポニーテールの少年は困惑した様子で俺の肩を掴み、へっぴり腰でついてくる。
「皆さん! 特別ゲストがやって来ました。リアルタイムに! 目の前に! 臨場感あふれる体験が出来ますよ!」
司会らしき眼帯の男が面白いことを言っている。仮面を付けた観戦者たちがニヤニヤと笑いながら、奥の席に座る。
なるほど、ここまで来ても、まだ自分たちは安全な場所に居ると思っているのか。
「ビーストを放てッ!」
司会の男の言葉にあわせ、俺たちを取り囲むように犬型のビーストたちが現れる。俺たちが来ると分かって用意していたのだろう。
「なるほど。ずいぶんと愉快な演出だ」
「はわわ、こいつら、なんでビーストなんかを飼ってるんだよぉ!」
俺の後ろに居たポニーテールの少年が怯え、震えている。
犬型のビーストたちは唸り声をあげ、円を描くように、俺たちの逃げ場を無くすようにくるくると取り囲んでくる。
あの司会の男がゲームメイカーか。まずは、この鬱陶しいビーストたちを排除し、自分たちの立場を分からせた方が良さそうだ。




