656 ラストガーデン27
兵隊たちを片付け、小柄な少年の方へと向き直る。そこには六体分の機械の部品が転がっていた。どうやら、あちらはすでに終わっていたようだ。俺が心配することではなかったか。俺は、まだまだヴァレーのことを甘く見ていたらしい。
俺は右腕を振り払い、絡みついた血を落とし、元の右手に戻す。左手に持っていたナイフをふわりと投げ、右手で持ち直す。そのままヴァレーの元へと歩いていく。
「どうする?」
俺はヴァレーに聞く。所詮、こんなものは茶番だ。俺にはどちらでも良い。俺に手を出したケジメは取るが、それだけだ。
「どうしたら良いんだろう……?」
俺の言葉にヴァレーはそんなことを言っている。俺は肩を竦める。
「好きにしたら良い。言っただろう? 協力して貰うために協力する。それだけだ」
俺はヴァレーにそう告げ、転がっていたキザったらしい少年を拾い、肩に抱える。
「き、君はミュータントだったのか? 学園に攻めてきたのか!」
我に返った眼鏡がこちらへと駆け寄り、俺の胸元を掴もうとする。その手から逃れ、大きくため息を吐く。
「ミュータントではないと言ったはずだ。聞こえなかったのか?」
「では、その手はなんだ! ミュータント以外にあり得ない! ミュータントたちは荒くれ者ばかりで、好戦的だと聞く。ミュータントの国は退廃的で享楽的な場所なんだろ? そんな輩が学園に来る目的なんて……限られているじゃないか!」
眼鏡がこちらへと詰め寄りながら荒々しくそんなことを言っている。
俺は肩を竦める。
「それで?」
「あの異常な身体能力も戦闘能力も、すべてミュータントだったから! 辻褄が合う! そういうことだったのか! なんてことだ、なんてことだ……」
眼鏡は一人で納得し、ブツブツと呟いている。
俺はヴァレーの方を見る。この眼鏡も肩に抱えたキザったらしい少年と同じように黙らせた方が良いだろう?
だが、ヴァレーは静かに首を横に振る。俺は仕方なく肩を竦め眼鏡を見る。
「分からないな。それは重要なことなのか?」
「重要なことだ! ミュータントが学園に潜入しているんだよ! それが大事でなくて何が!」
俺は何度目になるか分からないため息を吐く。
「それで? 俺は正式な手続きを踏み、この学園に入っている。何が問題か分からないな」
「ミュータントが! ミュータントが学園に居ることが問題だ! ここは才能ある限られたものしか入れないんだ。そこに荒くれ者が潜入するなんて! その意味が分からないのか!」
眼鏡は吐き捨てるようにミュータント、ミュータントと喚いている。話にならない。
「ビッグス、待てーや。そいつ、ミュータントだろ。ちょうどいい、戦闘の盾になってもらえばええんや」
「そ、そうだなー。それがいいよー」
先ほどまで戦闘に怯え、隠れていた猿顔の少年とのっぽな少年が戦闘が終わり、安全になったと判断したのか、そんなことを言いながら現れる。
こいつらの言動に、俺は思わず口角を上げてしまう。こんなの笑うしかないだろう?
俺が何故、こいつらの言葉に従わねばならない?
何故、従うと思っているのだ?
俺を檻の中の飼い慣らされた珍獣か何かだと思っているのだろうか。
こいつらは自然にミュータントを下に見ているのだろう。だから、自分の意のままに操れると思い込んでいる。実際に会ったことも見たことも無いだろうに、だ。
面白いだろう?
愉快だろう?
俺は改めてヴァレーの方を見る。
「それで、どうする?」
「一応……チームだから」
俺はヴァレーの言葉にキザったらしい少年を抱えたまま肩を竦める。
「分かった。ヴァレーが満足するまでは付き合うさ。俺に協力してもらうのだから、それくらいはやろう」
仕方ない。
俺は、もうすでに、この盤上をひっくり返し、全てを更地にするつもりだ。こんな、もう未来が消えた先のない課外授業に付き合う意味なんて無いだろう。だが、それでも決めたことだから、それくらいは付き合おうじゃないか。ヴァレーがこの学園を卒業するか、満足するまで数年程度だろう。わずかの時間だ。それくらいは付き合おう。
……しかし。
俺は思う。
わずか数十年。百年にも満たない年数でここまで腐るのか。
狐顔の男がサンライスを乗っ取った時は、ルリリがそれに協力した時は――腐った勢力は一掃され、綺麗になっていたはずだ。あの時の腐った連中は排除したはずだ。
それが再び同じような形に戻るのか。
百年ともたないのか。
俺は顔を上げ、大きくため息を吐く。
俺は肩に担いだ気絶しているキザったらしい少年を見る。
ショーヘーは――まともかどうかは分からないが、悪い奴ではなかった。だが、その子孫はどうだ? 大馬鹿野郎だ。こいつは、この学園が危険なものだと気付き、ヴァレーを助けるために学園から追い出そうとしたのだろう。いわゆるツンデレという奴なのだろう。だが、暴力を振るい、権力を振りかざし、命令し、強制的に従わせようとした。こいつよりも上の権力を持った奴が居たのだろう。ヴァレーに事実を伝えることが出来なかったのだろう。だから、力尽くで――馬鹿だから、それしか方法が浮かばなかったのだろう。それは分かる。分かった。だからといって理由があったからと許せるか? こいつの立場に同情が出来るか?
俺なら……いや、俺が決めることではない、か。
全てはヴァレーが判断し、決めることだ。
だから、俺はこいつを殺さない。命を助ける。
だが、眼鏡たちはどうだろうか。
俺は肩を竦める。
餓鬼だ。
本当に餓鬼なのだろう。
何も知らない餓鬼なのだろう。
こんな餓鬼どもではなく、こんな見せ物を行ない、それを楽しんでいるような輩を、まずは終わらせるべきか。
耐えてください




