647 ラストガーデン18
再開しました。
「ふぅ、なんとかなったようだね。このまま中層を進もう。僕たちなら大丈夫だ」
「へへ、任せときー、って、あ……」
得意気にしていた猿顔の少年が何かに気付いたのか驚きの声を上げ、顔を曇らせる。
「どうした?」
そのまま通路を進もうとしていた眼鏡が振り返り、猿顔の少年に確認する。
「へへ、な、なんでもないぜ」
猿顔の少年は顔を引き攣らせながらもなんでもないと言う。
……。
なんでもない?
なんでもない訳がない。
俺は見ていた。
猿顔の少年が持っていた突撃銃の弾倉を交換した時に顔を曇らせたのを。
まず間違いなく弾切れだろう。今、付け替えたマガジンが最後なのだろう。弾は無限ではない。良い調子で撃ちまくっていたのだ。弾が切れるのも当然だ。
さて……俺は小さくため息を吐く。
なんとなく理由は分かるが、問題はそれをこの猿顔の少年が隠そうとしたことだ。
「弾切れだろう?」
俺は言葉にする。
「お、おい! なんで、いや、役立たずのお前がバラすんだよ!」
猿顔の少年が慌てて叫んでいる。
俺は大きくため息を吐きたくなる。
「情報は共有すべきだ。そうだろう?」
こいつらを見捨てても良かった。俺には関係のないことだと無視しても良かった。この課外授業がどうなろうと俺には関係ない。
このゲームが――
だが……。
これがろくでもないイベントだと分かった以上、このままには出来ない。サンライス――あの時は誰も助けることが出来なかった。あの時はアクシードの介入もあった。だから仕方ない? そんなことはないだろう。助けられたはずだ。あいつらは確かに間抜けで馬鹿な奴らだった。だが、だからといって死んで良い奴らでもなかった。俺は助けるつもりだった。死なせるつもりはなかった。
今度は助ける。
「う、うるせー! 役立たずがうるせー。何もやってない奴がうるせー。おい、ビッグス、まだ弾は切れてない。俺の銃はまだ弾切れじゃない。これが最後の一個ってだけだ! わかるだろ? な? な? な?」
猿顔の少年が叫んでいる。ここがどういう場所なのかも忘れて叫んでいる。
「最後の一個? どういうことだ!」
猿顔の少年の言葉に眼鏡が反応する。
「あ、いや、へへ。ちょっと使い過ぎたようでさ。だけどよぉ、まだあるから。だ、大丈夫だぜ。これから節約すれば、な? だから見捨てないでくれよ」
「わかった」
眼鏡は一瞬だけ蔑むような目で猿顔の少年を見た後、その表情を隠すように頷く。
仕方ない。
「俺が前に出る」
俺は少年たちに告げる。このままではこの三人は生き残れないだろう。この三人は未だ学園の授業というお遊びのつもりでいるようだが、それで終わるはずがない。確かに、他の連中にとっては、これは普通の課外授業なのだろう。それで終わるのだろう。そして、不幸な事故があった。最下位の奴らが死んだ。それで終わらせるつもりなのだろう。
俺は大きくため息を吐く。
だから、俺たちを最後に回したのだろう。
ゲームをやるには俺たちのような奴らが都合が良かったのだろう。
だが、これを企画した奴は――俺を巻き込んだ。巻き込んでしまった。そのことを後悔させてやろうじゃあないか。
「駄目だ。まともな武器を持ってない戦えないようなものを前には出せない。今まで以上に僕が警戒する」
眼鏡は頭を横に振り、前に出る。
戦えない、か。
それは眼鏡の思い込みでしかないのだが――まともに戦える姿を見せなかった俺も悪いだろう。
「分かった」
俺は肩を竦め、眼鏡に任せることにする。
眼鏡はキョロキョロと周囲を見回し、慎重に、そして大胆に、迷路のような通路を進んでいる。何処か目的地があるように見える。
……。
この眼鏡は責任感からリーダーを気取り、先導し、頑張ろうとしている――訳ではないだろう。
確信があるのだろう。
自分は大丈夫だ、という確信が。
あのサンライスの時のように裏切り者が――今回もゲームメーカーが居るのは間違いない。
では、この眼鏡がそうなのか?
確信を持った態度、行動、言動。怪しく見える。だが、違うだろう。
この眼鏡がゲームメーカーではない。
ゲームメーカーは……、
「こっちだ。こっちなら安全なはずだ」
眼鏡が先導し、迷路のような通路を進む。
俺がこのゲームに巻き込まれたのは――俺に後ろ盾がないと判断されたからだろう。俺は、謎の転入生だと最初は警戒されていたようだが……。
ここらで不確定要素は排除しておこうとか、そういうチンケな思惑があったのかもしれない。
俺はため息を吐きたくなる。
……。
通路を進む。
そして、通路の先に無数の反応を見つける。
「このまま進むのか?」
「不安なのは分かるが、あまりむやみに話しかけないで欲しい。この先に安全地帯があるはずだ」
眼鏡は少し苛々とした様子で、そんなことを言っている。
俺は肩を竦める。
そして、そのまま通路を進み、開けた場所に出る。
そこには無数の狼型の機械が待ち構えていた。
「な、んだと。そんなはずは……安全な、どうして?」
眼鏡が驚き固まっている。
「う、うわああああああ!」
猿顔の少年が待ち構えていた狼型の機械に銃を乱射する。
「そうだ、攻撃! 攻撃して牽制しながら逃げる、これだ!」
眼鏡が手に持った狙撃銃を撃ちながら後退する。
「に、逃げるんだなー」
のっぽな少年も銃を乱射しながら走る。
皆で逃げる。
待ち構えていた狼型の機械が俺たちを追いかける。
「こっちだ。こっちで良いはずだ!」
眼鏡が先頭を走る。俺たちを誘導しながら逃げる。
「え?」
そして、走っていた眼鏡の足元が――床が消える。
突如、眼鏡の足元の床が消え、眼鏡がそこに落ちていく。
俺は思わず舌打ちする。
「ヴァレー、そっちは任せた。お前なら大丈夫だ。倒せ」
俺は走りながら小柄な少年に指示を出す。小柄な少年が頷き、足を止める。狼型の機械を迎え撃つ。小柄な少年なら大丈夫だろう。
俺は開いた穴へと飛び込む。
俺の優先順位は小柄な少年の確保だ。だが、あの程度なら任せて大丈夫だろう。
次の優先は――こんなくだらないゲームを思惑通りに進ませないことだ。




