646 ラストガーデン17
通路を進む。
……?
眼鏡は、どうもここより下の階層を目指して進んでいるようだ。
「お、おい、何処に向かってるんだよ。こっちはよおー、まさか? まさか、かよ!」
下の階層に向かっていることに気付いたのか猿顔の少年が眼鏡に話しかける。
「この階層は駄目だと判断した。どこに居ても連中が占拠しているか、運良く部屋を見つけたとしても理不尽に奪われるだけだからね。それなら多少危険でも下に向かうべきだ。違うかい? それにだよ、今の僕たちなら、中層だって、充分に戦えるはずだ。そうだろう?」
眼鏡は得意気にクイッと眼鏡を持ち上げている。
「ああ。そうかー、そうだよー。これは、臆病なあいつらは思いつかないよー。賢いよー」
のっぽな少年はのんきな様子でそんなことを言っている。
「逆転の発想さ。危険に飛び込むことで僕たちは勝利する」
どうやら少し休憩をしたことで三人とも元気を取り戻しているようだ。
「何故、甲板には出ない?」
そんな三人に俺は聞いてみる。開けた場所の方が襲撃に備えることが出来るだろう。この課外授業は生存することが目的だ。わざわざ危険な場所へ飛び込む必要はない。
俺の言葉を聞いた眼鏡は不快そうに大きなため息を吐く。
「そんなことも知らないのか」
「ああ、こいつ転入生だろ。へへ、だから習ってないのさ」
「あー、そうだよー」
「そうか。そうだったね。はぁ、だが、いくらでも学ぶ機会はあったはずだ。学園には図書室もある。教材だってある。それなのに知ろうとしなかったのは覚悟が足りない。僕は学園を卒業し、上に立つ。その覚悟がある。そのために学んでいる。学びを止めない! これは遊びじゃあないんだ!」
何故か、眼鏡が力説している。
あんまり叫ぶと周囲の機械を呼び寄せることになるぞ。
「そうか、それで? どういう理由なのか、無知な俺に教えてくれないか?」
眼鏡が顔に手をあて、やれやれと首を左右に振る。
「安全地帯がない。さっきも言っただろう? 何処からマシーンが襲いかかってくるか分からない。そんな場所で休めると思うかい? 無理だね。いち早く拠点となる安全な部屋に到達し、それからマシーンを倒してポイントを稼ぐ。それしかない」
「ああ、そうだった。へへ、そうなんだぜー」
眼鏡の言葉に猿顔の少年が相づちを打っている。
分からない。
本当に分からない。
この少年たちは本気で言っているのだろうか?
疑問に思うことも、調べることもしないのだろうか?
この学園で習ったことをそのまま活用するつもりなのか?
安全地帯?
本当に馬鹿みたいな話だ。
学園の外に出てからも安全地帯とやらをのんきに探すつもりなのか?
その時に、学園で習ったことが全くの無意味だったと知ったら、こいつらはどんな顔をするのだろう。
……。
学園は何故、こんなことをしている?
こんな施設まで用意し、間違ったことを教えてどうするつもりだ?
分からない。
何がしたい?
「……そうか」
「分かってくれたなら良い。先を急ごう」
眼鏡が再び歩きだす。
俺は小さくため息を吐き、その後をついていく。
眼鏡たちは現れた機械を倒しながら、順当に進み、そして、ついに中層への通路を見つけた。
「ここだ。ここから降りられるはずだ」
「へへ、腕がなるぜー」
「あー、なんとかなりそう」
三人は通路を下っていく。俺とヴァレーもその後に続く。
「待て、マシーンだ」
通路の先に狼型の機械がうろついていた。
「へへ、早速かよ。まぁ、楽勝なんだけどなー」
「待て。アレはウルフギアだ。素早い動きが特徴だ。まずは僕から攻撃する」
眼鏡が狙撃銃を構え、ゆっくりと狙いを定め、引き金を引く。
眼鏡の狙撃銃から銃弾が放たれる。
狼型の機械がその場から飛び退き、銃弾を回避する。
「不味い、回避された! 一斉に攻撃してくれ!」
「へへ、任せてくれよ」
「ああー、やるよー」
猿顔の少年とのっぽな少年が突撃銃を乱射する。その銃弾をサイドステップで躱しながら狼型の機械がこちらへと迫る。
……。
戦闘。
安全地帯。
まるでゲームか何かのような……。
俺はそこで思い出す。
ゲーム?
かつてサンライスの町では何が行なわれていた?
俺は知っているはずだ。
絶対防衛都市ノアの跡地に作られた学園。
その学園を作ったのは何処だ? 何処の連中だ?
サンライスの連中だ。
まさか、同じことをしようとしているのか?
……。
そう考えればしっくりとくる。
狐顔の男やルリリがこんなことを仕込んでいたとは思わない。思いたくもない。だが、学園は二人だけで創設した訳ではないだろう。
サンライスにあるいくつかの商会が関わっているはずだ。
後は、アイダとイイダか。
二人は何かしたのだろうか?
この学園のことを知っているアイダ。学園長をしているイイダ。
……。
二人も違うだろう。
俺は大きくため息を吐く。
「やった、倒したぞ。倒せたぞ!」
「へへ、中層のマシーンだって楽勝だぜ」
「近くまで来た時はびっくりしたー、けど、なんとかなったー」
なんとか狼型の機械を倒した三人は喜び合っている。なんとも微笑ましい光景だ。
何処だ?
どうやって……?
俺は腕にはめた装置を見る。
これか。
そういうことだろう。
ずいぶんと手が込んでいるじゃあないか。
ずいぶんと時間をかけているじゃあないか。
次回の更新は2024年7月2日(火)を予定しています。よろしくお願いします。




