624 ドラゴンファンタジー46
ここにあったのか。
こんな場所にあったのかッ!
アクシードの首領がマザーノルンの拠点に居た時点で関係を疑ってはいた。
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。
救う……救う、か。
ここでこれと出会えたのは偶然だ。だが、それはトビオが導いた縁だ。俺がトビオと出会っていなければ、紡げなかった軌跡だ。
目の前にあるものが何かは予想がついている。
わかっている。
それでもあえて問おう。
「お前は何者だ」
俺は目の前の透明なガラス管に浮かぶ巨大な脳に問いかける。
――私はかつて人だったもの。
俺は知っている。
――そして、人を超越したもの。
これが何者なのかわかっている。
――死を越えたもの。
「違うな。お前は、ただ生にしがみついただけの愚者だ」
そうだろう。そうだろうが。
救う?
何を言っている。
何を思い上がっている。
何様だ。
何様のつもりだ。
セラフと共にいくつもの施設を廻り、様々な実験を見てきた。その実験の結果を見てきた。
その全てはこれのため。
こんな醜悪で邪悪なものを生み出すためのものだった。
――叡智、私は越えたもの。それは人知の及ばぬもの。すなわち全知。救いをもたらすもの。
「何を言っている。死を超越する? そのエゴのために多くの人々を犠牲にした邪悪が救世主気取りか」
――私は人々を救う。その使命を成したに過ぎない。それは必要なもの。
「必要な犠牲、か。良いだろう。確かに、そうだろう。犠牲が――科学を、医療を進化させたことがあるのは歴史が証明している。百歩譲ってお前のその言葉を正しかったとしよう。人類のために必要な犠牲だった、と。だが、その結果はどうだ? お前は自分の目で人の世がどうなったかを見たか? 今、世界がどうなっているのか知っているのか? これがお前の理想の世界なのか?」
――使命。世界の復興のため人々を導いている。それは私にしか出来ないことだ。
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。救いようのない醜悪さだ。
なんという驕り。
なんというたかぶり。
この傲慢さ、こうも醜い姿を見せられると――吐き気がする。
こんなものが、こんな奴が俺の、俺たちのオリジナルだと。そう、こいつは俺や俺たちの元になった科学者、その成れ果てだろう。確か、死んでしまった恋人を生き返らせるために、そして二人で不死になるために狂ったんだったか。
こんなものから俺が造られているとは。
こんなものと一緒にされたくない。
俺は、こいつから生まれ派生した。だが、今の俺は俺だ。こいつとは別だ。一緒にされたくないし、一緒にしたくもない。
……これ以上は耐えられない。
「お前にはお前の考えがあったのだろう。人々を救いたいという想いも本当だったのかもしれない。だが、そんなことはどうでも良い。俺が気にくわない。俺がお前という存在を認めたくない。だから潰す。だから殺す」
――私と敵対するのか。
――私を殺そうというのか。
――人を超え、神となった私を人が殺そうというのか。
「人? 俺が人だと。そうか、お前から見たら俺も人か。ありがとう。その言葉にだけは礼を言っておく」
俺は拳を構える。
こいつをここで潰す。俺たちのオリジナル――いや、こいつですらコピーでしかないのだろう。こいつは自分こそが本物だと思っているのだろう、が。魂の転写が成功したのだとしても、それが本物だと証明する方法は無い。ただ、自分が本物だと信じるだけだろう。こいつは、ただ、それだけのものでしかない。
俺は右の拳を分解させ放つ。放たれたナノマシーンがガラス管に貼り付き、ガラス管を構成しているナノマシーンの命令を狂わせ、分解消滅させようとする。
……。
だが、命令が通らない。
ガラス管はそのままだ。
斬鋼拳は通らない。
わかっていたことだ。
こいつもマザーノルンと同じ管理者側だ。こんなものが通るとは思っていない。
俺は飛ばした右腕を回収する。
――私を殺そうというのか。
「死を超越したんだろう? そんな体になっても死に怯えるのか。恋人を生き返らせるために不死の研究をした? お前は、ただ、自分が! 死に怯え、死にたくなかっただけだろう」
俺は走る。
足元に眠るイリスたちを避け、目の前のガラス管へと走る。
ガラス管に浮かぶ巨大な脳は何もしない。
俺程度が何をしても無駄だと思っているのだろう。
そう信じているのだろう。
俺はガラス管に右の拳を叩きつける。
……。
俺の拳の方が砕ける。
そうなるか。
そうだろうな。
そうなると思った。
だが、関係無い。
砕けた右腕を再生させ、再び殴る。
砕け散る。
殴る。
砕ける。
殴る。
砕ける。
殴る。
砕ける。
殴る。
砕ける。
殴る。
とにかく殴り続ける。




