618 ドラゴンファンタジー40
運が良かった。
俺は運が良かった。
思わぬ偶然で思わぬものに出会えた。
端末の原型がこんな場所に残っているとは思わなかった。これは使えるだろう。
[危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険]
騒がしい警告音声を無視して砂時計のような機械に近寄る。
さて、どうする?
思いがけず良いものが手に入りそうだ。だが、これを持ち運ぶのは難しそうだ。せめてクルマが欲しい。
……まずは、これをどうにかしようか。
俺は周囲を見回す。この端末を制御している外部装置があるはずだ。こいつはマザーノルンやその娘達のような完成された機械では無い。その原型に近いものだ。保険のためにも外からこの端末に命令、停止するための外部装置を取り付けているはずだ。
どこだ?
[危険、危険、危険、危険、危険、危険、排除、エラー、排除命令が実行できません。危険、危険、危険]
こちらの鼓膜を破ろうとしているのか、警告音声は止まること無く騒がしく鳴り響いている。
どこにある?
砂時計のような形状の端末、その周囲を見回し、見つける。砂時計のような形の端末の裏に、その端末と繋がる四角い箱があった。これだろう。ずいぶんと古めかしい形をした代物だが、これで間違いないだろう。四角い箱に触れる。すると空中に四角いスクリーンとキーボードが浮かび上がった。昔ながら、というヤツだ。もしかすると、この端末たちの設計者は、こういう古くさい昔ながらの代物が好きなのかもしれない。
キーボードを操作し、命令を実行する。
この施設の地図を確認し、端末の停止命令を入力する。
[エラー、命令を拒否します]
停止命令が実行出来ない。再び、停止命令を入力する。
[エラー、施設の停止は行えません。その命令を実行するには管理者権限が必要になります]
停止命令が実行出来ない。
俺は砂時計のような形をした機械を見る。外部装置からこの施設の地図は手に入れた。これだけでも充分だ。このまま、この施設管理端末を放置しても良いだろう。だが、このままにしておけば、この端末が俺の邪魔をする可能性がある。
俺は砂時計のような形をした端末に触る。
……。
謎の金属で作られた機械だ。触れたところでどうにかなるようなものではない。今の俺では触れただけで装置を乗っ取るようなことは出来ない。
では、どうするのか? 殴って止めるか? 殴っただけで停止出来るとは思えない。これだけの規模だ。さすがに一発二発殴った程度で壊れるようなチープな設備では無いだろう。だが、やり過ぎれば壊してしまう。俺は端末を停止させたいだけで破壊したい訳ではない。
では、端末自体の内部に手を出すか? この端末は精密機械だ。知識の無い者が下手に分解をしようと手を出せば、壊してしまうかもしれない。
どうする?
……。
……。
俺は考える。
この端末はどうやって動いているのか?
電気?
電気で動いているようには見えない。
では、何を使って動いているのか?
ナノマシーンを使った何かなのだろう。セラフやマザーノルンがそうであったように、ナノマシーンを使った謎の力で動いているのだろう。
仕方ない。
俺は右目を覆っていた眼帯を外す。
見えるか?
うっすらとだがナノマシーンの流れ――命令系統が見える気がする。
……。
くっ。
右目から強い痛みが広がり、何も見えなくなる。限界が来たようだ。まだ右目は再生途中だ。無理に稼働させてもすぐに限界が来てしまう。だが、一瞬ではあるが、ナノマシーンの流れは見えた。これがエネルギー供給のようなことをしているのだろう。
ナノマシーンにはナノマシーン。
俺は右腕を噛み千切り、流れた血をナノマシーンの流れを絶ち切るように垂らす。俺の体に戻り、再生しようとする命令のナノマシーン。この端末にエネルギーを供給する命令で動くナノマシーン。双方が混ざり、命令が混乱する。ただ血を流しただけではこうならない。俺が意識して混ぜたことによって起きた現象だ。
[エラー、エラー、エネルギーの供給が停止しています。72時間後、施設は停止します。施設の保全のため、スリープモードに移行します。スリープ状態での稼働時間は八万七千六百時間と予想されます。エラー、エラー、エネルギーの供給が停止しています。72時間後……]
何度も同じ警告が繰り返され、しばらくして周囲の明りが消える。端末がスリープ状態になったのだろう。
この端末を修理する機械も、保守点検を行なっている人間も、もう居ない。この端末はこのまま眠り続け、そして動かなくなるだろう。
さて、この施設の地図は手に入った。もう、ここには用はない。
外に出ようか。
俺は来た道を戻り、破壊した尖塔から外に出る。
外は――星空の見える夜になっていた。
星空が見える。そして、遠くには、今までは見えなかった壁のようにそびえ立つ山の姿も見えた。
なるほど、な。
空だけでは無く、周囲も映像によって隠されていたようだ。このファンタジー世界を体験する施設の演出なのだろう。ファンタジー世界に見慣れたものや機械が見えたら興醒めだ。隠すため、演出のため、そして、思ったよりも広くなかった施設を広く見せるための仕組みなのだろう。空や周囲の景色を変え、誘導すれば、同じ場所でも色々なところへ行った気になる。
俺が竜を見つけるまで砂漠を脱出出来なかったのはそういうことだったのだろう。何故、砂漠の映像だったのか気になるところだが――もしかすると、広がる砂地との整合性を取るためだったのか、施設自体が狂っていたのか、そんなところなのかもしれない。




