603 ドラゴンファンタジー25
「ねぇ、アレ、誰だろう? 師匠知ってる?」
アイダが俺の服を引っ張りながら聞いてくる。
「ふふん、きっと解説の人ですわ」
そして、その隣のイイダは腕を組んで得意気な顔を晒していた。
「知らないな」
誰なのか予想し、想像することは出来る。嫌なことに、ステージのロボと名乗った女には面影がある。上からの立場で強引な――そういう傲慢なところもそっくりだ。だが、わざわざ、それを言うことは無い。
「今回の作戦では私の指示に従って貰います。そして……」
ステージの壇上ではロボと名乗った女が作戦の説明をしている。
……。
「師匠、常にあの姿で居たらどうですの? 別に隠している訳ではないんでしょう?」
ステージで解説している女を無視してイイダが話しかけてくる。
「なんのことだ?」
俺の顔を見てイイダはニタリと笑っている。
「あの毛むくじゃらの姿ですわ。あれなら、そういうミュータントだと思われるだけで舐められることもないと思うんですの」
「あー、そうだよね。師匠って、何故かすぐに絡まれるよね。多分、筋肉がないからじゃないかなぁ。師匠って、ずいぶんと細いもんね」
数年前は俺よりも細い体だったアイダが自慢するように力こぶを作っている。
俺はため息を吐く。
「少しは真面目に作戦の説明を聞いたらどうだ? これがクロウズとしての最後の仕事になるのかもしれないんだろう?」
「聞いてます。聞いてますわ。ちゃんと聞いてますわー」
絶対に聞いてないイイダはそんなことを言っている。聞く価値が無いと思っているのだろう。だから、時間を潰すつもりで俺に話しかけてきたのだろう。
「最後? あー、そう言えば、そろそろ後継者教育が始まるって話だったよね。僕はまだまだクロウズをやってたいんだけどなぁ」
「命の危険があるクロウズよりも商人の方が良いだろう?」
俺の言葉にアイダ少年は肩を竦める。
「師匠、商人だって命懸けだよ」
「そうか、そうだな」
命が軽い世界だ。どんな馬鹿が出てくるかわからない。商人も戦う力が必要だろう。だからこそ、俺が二人を鍛えた訳だが……。
「師匠、その後継者教育に関連してだけど、優秀な子どもを集めて一度に教育するんでしょ? その施設に入れられるって聞いたんだけど、そんなところに閉じ込められるくらいなら、僕は自由に動けるクロウズの方が良いよ」
「学校ですわ。ノアの街にそういう施設を作っているという話ですわ。ふふふ、私がそこを支配するのですわ。師匠もしっかりと! となりで私の活躍を見ているのですわ」
心底面倒そうにしているとアイダと、すでに覚悟を決め次のことを考えているイイダだった。
俺はため息を吐く。
「次のことを考えるのも良いが、まずは今回の作戦だろう?」
「そうだね、そうだよね。でも、ホント、あの子、誰なんだろう?」
「司会ですわ?」
「ねーっちゃん、聞いてなかったの? 今回の作戦を指揮するって言っていたから指揮官役だよ」
「ふ、知ってましたわ」
イイダは得意気に髪を掻き上げている。
「ねーっちゃん、ちゃんと考えてる? 全部、僕任せにしてない? 前からそんなところはあったけど、最近、特に! ホント酷いよ」
アイダは疲れ切った顔でため息を吐いている。アイダはこれからもイイダに振り回されていくのだろう。
それはそれとして、だ。イイダの中では俺がその学校とやらまで一緒に行くことになっているのか。
……。
「……以上です。何か質問は?」
ステージ上の女がそう締めくくっている。どうやら作戦説明が終わったようだ。
そして、その言葉を合図にしたかのように、話を聞いていたクロウズたちが静かに動き出す。どうやら、ここに集まっているのは熟練のクロウズたちばかりのようだ。ガキのように騒ぐことも、収拾がつかなくなるような質問大会をすることもない。
「質問だが、あんたは誰なんだ?」
クロウズの一人が代表してステージ上の女に質問する。
「それが重要ですか? 説明しましたよね? 私はロボ、あなたたちの指揮官です。では、次の質問を」
その質問を予期していたのだろう、女はわざとらしく煽るようなため息を吐いている。それは、ただ相手の反感を買うだけの――指揮するものとしてはマイナスな行動だろう。
突如として指揮官として現れた女だ。質問したクロウズは、その実力と実績を問うているのだろう。だが、この女はそれがわからないらしい。舐められ、馬鹿にされたとでも思ったのだろうか。
「質問だ。受け付けを手書きにした理由はなんだ?」
「それも説明したと思いますが? アースカーペンターは電子機器に障害を与えることがあります。いざという時は文字での情報伝達が必要になるかもしれません。だから、読み書きが出来るかの確認も兼ねて行ないました」
ステージ上のロボと名乗った女は、それらしいことを言っている。
確かに、この女は作戦説明の時に電子障害が起こる可能性があるとは言っていた。だが、それと文字が読めること、名前が書けることはイコールにならないだろう。名前が書けたからといって文字が書けるとは限らない。
質問したクロウズもそういうことが言いたかったのではないだろうか。
それに、そもそも、だ。混戦になった状況で、悠長に手書きでやり取りでもするつもりなのか? 手紙でも送るのか?
「質問だ。報酬の話がなかったようだが、結局、いくら貰えるんだ?」
質問したクロウズの言葉にステージ上の女が大きなため息を吐いている。
「コイルですか? 今回の作戦は、襲撃してきたアースカーペンターたちからハルカナの街を守るものです。ハルカナの街に住んでいる人のことを思えば、報酬のことなんて言えないと思いますが?」
ステージ上の女の言葉を聞いたクロウズたちがため息を吐く。顔に手をあて、首を横に振っている者も居る。
ああ、これは駄目だと思ったのだろう。
無報酬で街を守るなら、こんな集まりに参加なんてしない。好き勝手に戦うだろう。報酬があるから、集まり、街を守るために戦うのだ。
この女はそれがわかってないらしい。
本当に何処の誰のお嬢さまなんだろうか。
周囲の者たちが自分に従うのが当たり前という、そんな環境で――温室で育ったから勘違いしているのだろう。
今回、アースカーペンターと呼ばれた謎の生物たちの襲撃から、このハルカナの街を守ることは出来るだろう。だが、被害は大きくなりそうだ。




