593 ドラゴンファンタジー15
宿で一泊し、武器を買いに行く。
「ねぇねぇ、師匠、師匠。もっと良い宿に泊まったら駄目だったの?」
「食事がイマイチでしたわ。せっかく報酬を貰ったんですから、今日はもっと良い宿を所望しますですの」
二人は泊まった宿に不満があるようだった。
俺は大きくため息を吐く。
「雨風がしのげて食事が出るのだから充分、良い宿だろう? 昨日の報酬が百コイル、そして宿代が三人で90コイル。計算は出来るか? 手元に残るコイルはいくらだ? お前たちはもう少し庶民の感覚を身につけるべきだろう」
俺の言葉に二人は口を尖らせ不満そうにしている。納得は出来ない、だが、それを言うほど無分別ではない、というところだろうか。それとも俺に怒られたくなくて口に出せないのだろうか。
マップヘッドの街を歩き、銃火器が並んでいる店を探す。
「あ! あの店が良いですわ」
「ねーちゃん、どこどこ? あー、あそこ? サンライスでも有名な店だよね」
二人の知っている店があったようだ。俺はその店を見る。二人が好きそうな、いかにも高級店という店構えだ。高級店――それだけに品揃え、品質は良さそうだ。
「師匠、ここが良いよ。サンライスに本店がある名店だから、ここが間違いないよ」
「こんな田舎でも知っている店があって良かったですわ」
二人に促されるまま店内に入る。
俺は店内を見る。予想していた通り品揃えは悪くない。駆け出し向けの手頃な値段のものから、びっくりするような値段の大型火器まで揃っている。商品自体を見本として並べているくらいだから資産、仕入れルートに余裕があるのだろう。これなら希望のものがみつかるかもしれない。希望のものが無く、商品を取り寄せる――そんな風に待たされることなく、すぐに持ち帰ることが出来そうだ。
俺たち以外の客と店員を見る。ちらほらと客の姿が見える。客入りはそこそこ、と言ったところか。
店内に並べられた銃火器を見ている客の一人は、持っているコイルに余裕がありそうなきらびやかな格好をしている。そのきらびやかな格好のクロウズの横では店員らしき少年が並んでいる銃火器の説明をしていた。この時代、この世界にしては珍しい丁寧な接客だ。
俺は、さすがは高級そうな外観――チェーン店が出来るだけはあるな、と感心する。
「ん? 客? じゃねえな。んだよ」
呟きが聞こえる。その声が聞こえた方を見ると暇そうにしている若い男の店員が居た。若い店員の男はこちらを侮るような目で見ている。その雰囲気、態度はあまり心地よいものでは無い。
「ねーちゃん、さすがの品揃えだよ。僕はどれが良いかなー」
「ふふん、まぁまぁですわ。やはり、ここは大口径の拳銃で……」
二人は店員の男に気付いていない。並んでいる商品を見ることに夢中になっている。
「おい」
店員の男がこちらへとやって来る。
「武器を探していますわ」
「凄いのが良いよね。派手なのが良いよね」
二人はやって来た店員の男に要望を伝えている。店員の男はため息を吐き、面倒そうに頭を掻く。
「ここはな、お前らみたいな駆け出しが来るような店じゃねえんだ。余所に行きな。ほら、出ていけ」
そして、そんなことを言いだした。
……。
「あちらには駆け出し用の銃火器も並んでいるようだが?」
俺は店員のあまりの態度に唖然となりながらも、初心者向けの銃火器が並んでいる方を指差す。
「あ? あんな安っちいのを売っても儲けにならないだろ。いいから、貧乏人は俺の店から出て行きな」
店員の男は俺たちを追い払うように手を振る。
店員の男のあまりな態度にアイダ少年とイイダ少女はぽかーんとした顔で固まっている。
「貧乏人ですって?」
「貧乏人だって」
この二人、もしかすると貧乏人なんて言葉を初めて言われたのかもしれない。思わぬところで良い経験をしたものだ。
……。
「僕を誰だと思って……」
「私を誰だと思って……」
それはそれとして。
「出るぞ」
俺は何か言いたそうな二人に告げる。店員が出て行けと言うなら、それに従うしかないだろう。不快な思いをしてまで馬鹿の相手をする必要は無い。
俺たちは店を出ようとする。
「あわわわ、待ってください。待ってください! すいません、すいません」
そんな俺たちに声が掛けられる。それは先ほどまで金持ちそうなクロウズの接客をしていた店員の少年だった。
店員の少年はこちらを見てぺこぺこと頭を下げている。
「すいません、武器を探しに来られたんですよね、ご案内します」
そして、店員の少年はそう言った。俺たちは店を出ようとしていた足を止める。
「おいおい、そんなコイルを持って無さそうなガキを相手にしても仕方ないだろ。だから、こんなショボい店に回されるんだよ。クルマ向けの武器を扱っている店に戻るためにも高いのを売らないと駄目だろ」
店員の男は俺たちにも聞こえる声で少年店員にそんなことを言っている。
「坊っちゃん、接客は僕がやりますから、奥で休んでいてください。そろそろお昼休憩じゃないですか! 坊っちゃん、お先にどうぞ。こちらは任せてください」
「ちっ、俺の言っていることは間違ってないからな。まぁ、いい。俺は休憩に入る」
店員の少年は困った顔で店員の男を店の奥に追い返す。
「申し訳ありませんでした」
店員の少年はこちらへと振り返り、頭を下げる。
「ずいぶんと苦労しているようだが、それはそちらの都合だ。俺たちには関係無いことだろう? この店に不快感を持った俺たちを引き留めてどうするつもりだ?」
「この店を選んで良かったと思って貰えるように、今のその評価を覆したいと思います」
店員の少年はそんなことを言いだした。悪い噂を広められないようになんとかしたいということなのだろう。
……。
店員の少年からは情熱と呼ばれるような、若者特有の真っ直ぐな熱意を感じる。
「評価を覆す? それで? 俺たちが喜ぶように安売りでもするのか?」
「お客様のご要望に沿ったぴったりの、買って良かったと思える商品をご提案します」
「そうか」
「もちろん、お値段も出来る限りはサービスいたします」
店員の少年はこちらに熱い感情をぶつけてくる。
「ねぇ、師匠、どうするの?」
「結局、ここにするんですの?」
二人はそんなことを聞いてくる。
「それはこれから次第だ。一応、見るだけは見せて貰う」
俺は足を戻し、店員の少年を見る。
「どういった種類の銃火器をお探しですか?」
店員の少年はにっこりと微笑んでいる。
俺は肩を竦める。
「僕は派手なのが良いなー」
「私は一発を重視した大口径の拳銃ですわ。これは鬼婆の真似ではありませんから!」
二人はわあわあと好き勝手なことを言っている。
「この二人が言っていることは無視してくれ。丈夫な刃物、刃渡りは長い方が良い。だが、持ち運びの邪魔にならない程度のものを。それとクロスボウ。あまり力の要らないものが良い」
「わかりました。いくつか種類がありますから、ご案内します」
店員の少年が俺たちを案内する。
「えー、師匠、派手なのが、派手なのが良いよー」
「せめて銃が良いですわ。刃物にクロスボウなんて旧式過ぎですわ」
俺は二人の言葉を無視する。
さて、使えるものがあると良いのだが……。




